第34話上の空・ドジな子


☆★☆


紅葉と一緒に外食。


行く店は家からは15分程歩いたところにある。


しょっちゅう母さん達と行く紅葉が好きな中華料理店だ。


だけど、その道中俺たちは非常に、気まずい雰囲気で仲良く肩を並べて歩いていた。


まあ、こうなることは何となく予想していたけどさ。


――母さんとか、たまにふら~と帰ってくる父さんとの家族単位ならあるけど、二人だけで外食するなんて……。


前に一緒に行ったのはいつだっけ? もう覚えてないな。


昔は平気だったけど、今はそのぐらいレアだし、家の外での紅葉の接し方とか忘れたわ。


……何か言ってて悲しくなるけど、本当に紅葉との距離感が分かんないんだよ。


――「外じゃお兄、私に話してこないでよね。誰かに見られるのだけでも恥ずかしいもん」


いつだったか多分紅葉が高校生になったかならないかぐらいの頃。


さっきみたいに突然部屋に押しかけて来た紅葉にさり気無く言われた。


最初は何かの冗談かと思ったけど、マジだった。


紅葉は本当にその発言以降、外では他人のように振舞ってきたし、学校ですれ違っても知らん振り。


紅葉のあまりの態度の変化に、俺は結構へこんだ。


だから、仕事から帰ってきて、晩酌を始めたばかりの母さんにそれとなく愚痴ってみた。


母さんはほんの少しだけ酔って赤くなった頬を自分の手で軽く摩りながら、


「……モミジちゃんもー、モミジちゃんなりにー、結構考えてると思うよー。……あー何て言うのかしら? 多感な時期でぇー……反抗期って奴ー?」


「……反抗期? 何で俺に? 普通反抗期って母さんとか父さんにするんじゃ……」 


俺が思った事をそのままぶつけると、母さんは人差し指を上に俺に向けて立て、やれやれと言った感じにため息をつき、


「分かってないなぁ〜。ミッくんは〜」


「え」


「反抗期ってのはね? 今まで一番懐いていた人にするもんなのよ」


「だから?」


いまいち母さんの言ってる事を理解できてない俺。


そんな俺に母さんは、プププと小馬鹿にしたように笑って、俺の頭にポンと手を置き、


「つまりミッくんってことじゃない〜。ミッくんはモミジちゃんの一番〜。それで私は二番! だから私はモミジちゃんとずっと仲良し〜。イェーイ!」


「……」


酔いが回り始め、普段とは違って陽気になってきた母さんだが、俺は真剣だった。


深刻な問題。


何にせよ、妹に強く当たられるのは、仮に母さんのいう『反抗期』だとしてもシャレにならないのだから。


……どうしたもんか。


どうした……もんか。


俺の気持ちはそのまんま顔に出ていたんだと思う。


母さんは俺に気をつかってくれているのか、テンションをちょっぴりだけ落として、


「……ま、まあ! 大丈夫だと思うよー? 今までミッくんにべったりだった分の反動が今来ているだけだと思うし! その内、元に戻るって! 肩の力抜いていこう! オー!」


俺の肩をバンバンと力強く叩いて、元気づけようとしてくれているのは、十二分に伝わってきた。


だけど、


「そのうち元に戻るって……」


すげー楽観的だな。オイ。永久に元に戻らなかったらどうなるんだよ。


俺は母さんの言葉にまだいまいち納得できてなかったが、母さんも仕事で疲れてそうだったから、その話はそこで止めた。











――俺の嫌な予感は的中していた。


結局、あれから1年半ぐらいこんな関係は続いていた。


俺は母さんの言う通り、紅葉の『反抗期』が終わるまで待つことにしていたが、殆ど諦めの境地にいた。


だが今。


(……ひょっとしてひょっとすると、今ならいけるんじゃないか!?)


何が原因とかはこの際関係ない。


紅葉の態度が変わった事の方が重要だ。


もしかしたら、これを機にまた紅葉と――。


テンションが上がってきて、ウキウキして感情に流されるがままに紅葉の方に目をやった。


だが。


「……って、あ、あれ?」


さっきまでは確かに肩を並べて横で歩いていたはずの紅葉の姿がない。


見失った。


慌てて、俺が紅葉の姿を目視で捉えようとキョロキョロしていると――。


ゴン、と鈍い音がした。


見ると、丁度10メートルぐらい先を歩いていた紅葉が電柱に頭をぶつけて悶絶していた。

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