第31話連絡先


☆★☆


帰宅した。


昨日とは違って、紅葉はまだ帰ってきていないようだ。


玄関に靴もないし、電気もついていない。


多分、バイトだな。


最近、また一つバイト増やしたって言ってたしな。


部活もしながらよくやるよ、ホント。


俺には無理だな……。


洗面台で手を洗いながら、心の中で、めちゃくちゃアクティブに行動する妹に感心する。


……って待てよ。


それって、よく考えたら帰りが遅くなるって事じゃねーか?


昨日、散々帰りが遅くなって飯を作るのが遅くなった俺に怒ってたのに、自分も同じことしてるじゃん。


なんだよ、それ。

 

「ちぇっ」


舌打ちをして、紅葉が帰ってきたら『口撃』をしようか、なんてことも一瞬考える。


が、そんな事したら、言い負かすどころか倍にも10倍にも100倍にもなって返ってきて、逆に俺がぎゃふんと言わされそうな未来しか見えない。


……うん、やめとこ。


ただでさえ、あいつ今カリカリしているし、あえて逆撫でするようなことはねーよな。


それに――。

  

蛇口を閉めて、濡れた手をタオルで拭いた俺は、ふと気が付いた。


全然、お腹が空いてない。


それどころかまだ満腹で、元気が有り余っている。


(……美味かったよな)


西条と揉めてしまった原因だけど、俺は結局皇に貰った弁当は完食していた。


唐揚げもそうだったけど、奇跡的に俺の好物ばっかり。


最初は西条の目もあって、箸はなかなか進まなかったけど、気がつけばあっという間に空になっていた。  


美味かった。


出来たら毎日食べたいぐらいには……、皇も毎日作ってくれるって書いてたし……。


「……ワンチャン頼めばいけるんじゃ………………はっ!?」


ゴクン、と思わず喉を鳴らす音が耳に届き、我に返った。


今誰も家にいなくて良かった。


……俺は今何を思った?


飯欲しさに皇にたかろうとするなんて……情けねー。


「まじありえねーよ、俺」


本当にどうかしてる。


ちょっと頭冷やそ……。






☆★☆


(やっぱり明日じゃなくて今返事した方がいいな…)


紅葉が帰ってくるまでの間。


俺は部屋のベッドに仰向けで寝転んで、白い天井を見つめながら決心した。


さっきから弁当と手紙の事がチラついてしょうがない。


皇は明日、と言っていたけどお礼は早い方がいいに決まってる。


それに、あんな豪華な弁当を付き合う気も無いのに、毎日貰うわけにはいかない。


せっかく連絡先も貰った事だし、お礼と明日からの弁当はいいって事だけでもRINEで言っとかないとな。


そう思うや否や、俺はすぐさまスマホを手に取り、手紙で知った皇の連絡先を登録する。


正直、女子の連絡先をGETするなんて、まさかこの俺に出来るなんて思わなかったから、ちょっと手が震えたが、何とか問題なくできた。


“SANGO!”


登録名が表示された。


そして、真っ白い歯を覗かせ、左手でピースサインを出して、右手に金属バットを持つ、満面の笑みを浮かべた皇がアイコンとして同時に表示された。


場所はバッティングセンターかな、これ。


一瞬、いやしばらくの間、思わずアイコンに写る皇の明るさに目を奪われた。


が、本来の目的を思い出し、俺は彼女に言うべき事を書いて送信し、そして送った瞬間気が抜けて、寝てしまった。

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