第7話【召還の秘密】

「やだなあ。それを言うなら刀を持ち込んだのは神酒三郎みきさぶろう様じゃないですか」美少女ちゃんが口にした。

「なるほど、貴様が召還した以上それが道理だ」候補がなぜだか美少女ちゃん側に立った。

方眼ほうがんちゃん、そりゃないぜ」

「いいや、この際だから言っておく。ここに六人の男がいる」候補がまだ話しを続けている。

「そこ、『六人のイケメンがいる』、に訂正しといて」

「どうでもいい。この中で一番怪しい者が一番まともそうな顔をするな!」

「『まとも』なんてのは目立たないってのと同義じゃん? ならそれって誉め言葉よ」

「開き直るな! そんな事より貴様は未だ肝心な事を我々に伝えてない」

「肝心なことならそれこそ一番に言ってるけどなぁ」

「『いけめん』がどうとかいうのは召還されてしまった者の〝肝心〟ではない。この〝召還術〟とかいう怪しげな術をどうやって身につけたか? って事だ!」

「今さら訊く?」

「解っておらぬな。こっちは『貴様は何者か?』と訊いている」

慶墺至塾けいおうしじゅく高校一年」

「そんな所属など訊いておらん! 正体を言えと言っている!」

「えっ⁉ 慶墺なのか⁉」と僧兵。

「名前でブレるな! そこがどういうところか、で判断しろ!」すかさず候補。

 そう言や僧兵には言ってなかったっけ。しっかし〝いる人間〟っての、どういう意味よ?

「そーは言うけど方眼ちゃんはこの中で一番最初に召還したんだから〝正体〟だなんて、もそっと早く訊けたっしょ?」

「あの時と今とじゃあ状況が違う。今は自分と立場を同じくする者が五人。立場の強さが違う」

「なにそれ? 数が多くなったら強気とか。ちょっとカッコ悪いよ」

「数の多寡によって戦機は決まる。今その時が来たというだけだ」

「日本軍ってそんな感じだったっけ?」

「なんか言ったか?」

 おぉ怖、睨まれた。

「みんなそういうの興味無いと思うけど、ねっ!」と多数決の原理に誘導。

「いや、ありますよ」と美少女ちゃん。

 

 あら?


 誰も俺の方に同調してない。改めて。みんなが俺をじっと見ている。え? なに? この結束は。


「いやいや、『怪しい高一・鳳生ほうしょうさん』じゃないからね。高校生らしく参考書の通りに問題解こうとしただけだから」

「そんな胡乱げな術の参考書などあるわけがない」候補が思いっきり断定してきた。

「あるから、実際」そう言ってBlu—rayディスクの収納棚の方に歩を進める。棚のガラス戸を開ける。そこから思いっきり開けば分解してしまいそうな古い本を引き出した。

「どこで手に入れた?」またも候補。

 次々的確に訊いてくんな。意外に脳筋じゃない?

「ちょっと大学の図書館から拝借」

「なにか不正行為の臭いがするが」

「盗んでないから。ちょっと裏から手を入れて貸し出してもらっただけだから」

「それを不正と言うんだ」

「まあまあ、肝心な所はそこじゃあないでしょう」美少女ちゃんが候補と俺の間に立ち入ってきた。そのままの流れで「それが〝召還術〟の本というわけですね?」とも訊いてきた。

「うん、そっ」

「ちょっとその本見せてくれ」と言って今度は僧兵が手を差し出してきた。なんとなく渡したくない。ただでさえ壊れ掛かっている古い本だ。こんなのに任せたら頁がバラバラに分解しそう。

「一応コレ返さなきゃならないんで。知りたい事があったら訊いてくれ」そう言っといた。

 ガタイに似合わず、ややふくれた顔をしながら僧兵が訊いてきた。

「作者は?」と。

「一川愛正(ひとがわ・よしまさ)って言うのかな」

「意味の無い質問をするな!」候補が脇から一喝。確かに誰だか解らん作者だ。

「あの〜」とおそるおそる手を上げる銀髪クン。実はこっちの陣営が温和しめなのが気になってたんだ。むろんリーダーである俺が仕切るのが当然だろう。迷うこと無く指名し発言を許可する。

「その本の中に図案が載っているってこと?」

「おおっ、実に良い質問だ。正に〝まさしく〟だ」とGoodのサイン。「また並べてみればすぐ解る」と続行で提案。

「まさか〝また一人〟増えたりしないだろうな?」またまた絡んでくる候補。

「方眼ちゃ〜ん、そういう事ばかり言うよね。百聞は一見にしかずってゆーでしょ?」


 候補は渋々といった調子で引き下がり、かくして六人全員で分担し165枚もの紙をまた順序よく並べ直していく。


 そうして今日何度目か、またまたまたまた召還円が出来上がった。そして本の〝その頁〟を開いてみんなにずいと見せつけた。そして言ってやった。

「同じだろ?」

 全員が固唾を飲んだかのようになった。実に複雑な円形文様がその頁にはあった。

 どうよ、この本を参考書にしたって事が一目瞭然だろ。


「どうしてこの図案をこんなにたくさんの紙に?」再び銀髪クン。

「お主、やり方が微妙に間違っていたのではないか?」と僧兵。

「しょうがねーだろ。一辺三メートル大の紙なんてねーからどーしても分割印刷になるんだよ!」

「『ちょう・いけめん』とかいう呪文が悪いのではないか?」と候補。

「呪いのことばで呼び出されたアンタらなにっ? ってことになるけどっ!」


 とは言えどこか微妙に間違えているってのはあり得る話しかもな。『戦うイケメン』を描くイメージとしてイケメン達を召還したケド、今現在戦えそうなのは美少女ちゃんくらいしかいねー。しかし美少女ちゃんが戦ったら真性の死人が出そう。

 真性の死人を出したっぽいのはライフルちゃんだけど、ライフル無ければただのイケメン外国人ってだけ。本人ももう撃ちたくなさそうだし。となると戦えそうな次点は僧兵か。その他は能力的にムニャムニャだよな。


 けど事件を起こしてくれるよりはずっとマシだ。それよりイケメンである事の方が重要だぜ。これだけ集まれば相当〝映える〟はず。


「ちょっとわたくしの疑問もいいですか?」と今度は代わって美少女ちゃんが手を上げた。むろん肯く。

「どうやらその本に書いてある通りにした結果、我々がここにたどり着いている。この動かしがたい現実だけは認めるほかないようです」美少女ちゃんは言った。

「そりゃそうだよね」と俺もうなづく。

「つまりその本は正に本物。となると問題はその本の成立過程です。作者とされているのは一川氏ですか、何を意図してこんな物を造ったものか、目的の見当がつかない」

「その辺だったらこの本に書いてある」と俺が言うと、

「興味があります」と美少女ちゃんから戻ってきた。好奇心、いや、探求心旺盛なタイプか?

「慶墺至塾は江戸末期の蘭学塾から始まっている。だから近代日本の外国語教育に関連する図書についてはかなりの蔵書を有している」と、まずそこから切り出す。

「するとその召還本は外国語教育と関係がある?」と美少女ちゃん。

「そう。明治維新後西洋の技術・文物を日本に取り入れるに当たり、どうしても〝外国語の壁〟というものが出てきた。つまり新しい物を取り入れようにもそれ以前に外国語を解さないと取り入れられない。そしてその当時外国語を喋れる人間は外国語の専門家かもしれないが技術者ではない。技術者に外国語ができるようになってもらわないとお話しにならない。これはなにも理系ばかりではなく文系だってそう。近代法学とか。学ぶ必要のある人間がメチャクチャ多いのに外国語を教えられる人材は極めて限られている。で、足りない分を召還したってワケ」

「貴様は明治政府がオカルトに傾倒していたと言うのか?」と候補。

「言っとくけど僕の自説じゃないからね。そう銘打ってこの本が書かれているって事。『もう明治二十年にもなっているのでそろそろ機密解除してもいいだろう』って」


「それは本当に本なんだろうか?……」

 ライフルちゃんの声だった。この中で唯一の外国人で見た目かなり存在感があるのに会話が始まると空気になってしまう。日本語が解ってるはずなのに。でもいるよな、そんな感じの奴。そういうのフォローするのもリーダーの仕事だよな。

「どっからどう見ても本でしょ」とそう応じた。

、かもしれない……」



「……いやいやいや、怖いこと言わないでよライフルちゃん。まるで呪物扱いじゃない」

「私はここに呼ばれて救われている。それがその本のおかげなら呪われた物だとは思いたくない。だがそれが聖なる物だとも思えない……」

 それを言い終えるとライフルちゃんは頭を抱えだしてしまった。

 なにこれ? PTSD系イケメン? そんなの需要無さそうだけどなぁ。

「だが〝手元に置きたくない〟という直感は案外当たっているのではないか?」と僧兵が同調し出した。

「とっとと返却すべきだろう」候補までが同調してる。

「だけど二人ともさ、この本の中に召還した者を帰す方法もあるわけよ。コレ返しちゃったら苑城おんじょうちゃんも方眼ほうがんちゃんも帰れなくなるけど」


 それっきり二人とも突っかかってこなくなった。



 あれ? これってつまりヤッパ帰りたいって事?

『元の世界に執着しなければならないモノが無い者』を召還したはずだけど、この世界は元の世界以上に執着するモノがないからか? せっかく集めたイケメンなのに。引き止め工作しとかないとマズいじゃない!

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