第41話 真相究明!!

‥‥何かが、落ちている。


それを拾ってみると、ヴァンがさっきまで持っていた青い蝶のネックレスだった。先程、ヴァンがイヴォンさんを追いかけるときに落としてしまったものなのだろう。


これを見ていると頭が痛くなる。正直、見ているだけで不愉快になってしまう。


‥‥でも、頭が痛くなるということは、記憶を取り戻す前って言うことだ。


思い出せ!思い出せ!思い出せ!!


顔をしかめながら、私はその青い蝶を象ったものを見つめる。その蝶のペンダントトップは立体的な形をしていている。基本的には銀が縁取って、その周りに青い石がはめられていた。それを黒い何かで蝶の羽根の細部を描かれていた。それはまるで紋様のように見えて、銀と青へのほどよいアクセントになっている。


‥‥この黒い紋様、まるで魔導具みたい。


そこに気がついた時、私はやっぱりヴァンを追いかけようと立ち上がった。元々ヴァンは魔導具の旅商人をしていたのだ。あちらのほうが詳しいに決まっていると思ったからだ。


‥‥でも、それはできなかった。


「‥‥あ。」


__私が、倒れてしまったからだ。




*******


涙が、ポロポロと流れて仕方がない。止めようと思っても涙は止まらないし、なんなら身体の自由も聞かない。でも、何故かはすぐに理解できた。‥‥これは私の記憶だからだ。今、私はそれを思い出しているからだ。


「この名も知らぬ人族が無駄に苦しまないようにしなきゃいけないでしょ?もうこんなの助からないし。私達は『仲間』なのだから。__亜人じゃ、ないのだから。助け合わなきゃ。それに、このぐらい簡単に殺せる人族を倒したほうが対人戦の初心者にはちょうどいいじゃない?今あなたが瀕死にして私が完全に殺した女みたいに、ね?」

「いやあああああっっ!!!」

「‥‥」

「勇者様!違うんです!!イヴァンさんは!!何も!何も悪く、悪く!!あああああああ!!!」



あれ、この、光景‥‥、知っている。前に視たことがある光景だ。時間が巻き戻る前の光景で、‥‥私が忘れてしまった光景だ。確か、私がイヴァンさんを誤って瀕死にさせた後、勇者が止めを刺したときのことだ。


確か、絶望している私は泣き叫びながら、非情な勇者に縋っていた。訳が分からなくなったのだろう。親しく話していた人を冤罪で殺めかけてしまって、しかもそれが判明しているのに憧れの人があっさりと殺してしまったのだ。頭が混乱して、誰かに抱きつくしかなかったのだろう。


しゃがんだ勇者の膝下に泣きつく形だから、勇者の顔などは全く見れなかった。


‥‥あれ。勇者は、何故私を突き放さない?いつもなら溜息をつきながら私を引き離すのに。


「こうなることが分かっていたから連れて来たくなかったのに。これは私の役割じゃなくて聖女の役割なんだけど。」


軽く溜息をついた勇者は、私の肩を文句を言っているとは思えないほど優しく繊細に撫でた。


「いい?エリース。コイツは本当の殺人犯で悪人なの。さっきまでの言葉は全部コイツの演技。多分あなたの甘っちょろいところに漬け込んで逃げようと思ったのでしょうね。」


その言葉に内心唖然とする。


イヴォンさんの、行動は全て演技ってこと!?どこからどこまで演技だったの?‥‥まさか、妹さんへの祈りも、全部?


私が今まで信じていたものがまた、ぽろぽろと崩れていくのを感じる。


勇者が、嘘をついているのではないのか。そう思ったが、思い返してみたらそんな無意味な嘘を付く人ではなかった。‥‥なら、これは事実?


今日の様子が変だったのは、あの脅迫状らしきものへの信用を高くするため?私の攻撃をあえて避けなかったのは、死んだふりをして私が油断した瞬間を見計らって逃げるため?最期だと聞いていたあの言葉も、全て演技?


愕然とする私の肩に勇者が力を込めた。


「本当にただの殺人事件だったから、初めて人族の事件に関わっていたあなたに対処を任せて私はフォローに回っていたのだけれども‥‥。間違いだったようね。まさか、こんなことになるとは。あなたには少し失望したわ。」

「ぅあ‥‥。」


あまりの恐怖で一時的に止まった涙が塩辛い。


「『失敗は許さない』と言ったはずよね?」

「ご、ごめんなさい。」

「まあいいわ。エリース。今回は厄介な事件な訳じゃない。あなたがコイツと下手に接触して情を持ったからよくなかったの。あなたはまっすぐなの。‥‥綺麗すぎるほどに。だからこそ、単純すぎる足元の罠に引っかかている。」

「勇者、様‥‥?」


ようやく顔を上げた私に、勇者はその端麗な顔を一瞬だけ嘲笑の形に変えた。


「これから私に付いてくるのならば情は捨てなさい。あなたは私と付いてくることで迷うことがあると思う。その中で1番楽になれる方法はこれよ。‥‥私も、そうしてきたから。これが1番いいの。」


だから情を殺して、勇者様は私を殺したんですか?でも勇者様は絶対に私怨でした。『殺したい』っておっしゃいましたよ。なんで‥‥、あなたはそんなことを言っているのに、私のことを殺したのですか!‥‥『仲間じゃない』って私を殺した時におっしゃったじゃないですか!!


それじゃあ、あなたは情を捨てたから私を殺したとおっしゃるの、ですか‥‥?


彼女のいつものドレスのように可憐な装備を掴んで、揺さぶって、彼女に大声で問いかけたかった。


でも、私はそんなことは出来なかった。


ただ、優しく勇者が私の髪を撫でることを甘受することしか、出来なかった。



*******


目を開けるとそこは天井だった。


‥‥記憶を取り戻すためにまた気を失ってしまっていたらしい。蝶のネックレスを手に取って眺めた。


記憶を取り戻すための方法は夢、とかじゃなくて、記憶に関連する土地や物を見ると思い出すのかもしれない。今までが結構そういうケースが多いように感じた。


「‥‥いか、なくちゃ。」


記憶の中にいる勇者の言動に戸惑いはある。でも、私にはそれよりも優先しなければいけないことがある。


「ヴァンたちのところへ。」


どのくらい時間が経ったのか分からない。けれども、私は行かなければならない。どうしてかはわからないが、そう、私の心の奥が叫んでいる。


「ヴァン、待っていて。」


‥‥ヴァンには、悪いことしかしていない。なのに何故かヴァンは許してくれる。ヴァンは私のために一生懸命行動してくれる。ヴァンは私のために怒ってくれる。


だから、今までしてもらったみたいに、次は私がヴァンの力になりたい。


ほんの少しだけ、亜人なんかに思ってしまった。


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