第36話 救済応答!!


「どうして‥‥、ここに‥‥。」


思わずそう呟くと、何故か口から血を流しながらヴァンが少し不貞腐れたように答えた。


「ああ?いや、あのまま殺されるのも癪だったから妖術で強行突破したんだよ。」

「妖術‥‥。」


だから、血が‥‥。


「流石にっ、きついから‥‥。この小屋で休もうと入ってきたらこんなんに‥‥、って、あの子、大丈夫か!?」


ヴァンがイチイちゃんに気がついたようで、急いでイチイちゃんのもとに駆け寄っていた。


「‥‥‥ぅっ。」

「っ!!ヴァン!!私が頼める立場じゃないのは理解できていますが、あの子を連れて教会の支部へ行ってください!!早く!!」

「お、おう‥‥。でもちびっ子は、っ!?」


ヴァンは言葉を途中で切った。ディーさんが振るった剣を避けたのだ。


「ふふ、油断、してしまったみたいですね‥‥。」

「‥‥なんなんだ?こいつ。さっきはとりあえず殴ったが‥‥、危ないやつ‥‥、だよな?」

「疑問形にしないでください!!めちゃくちゃやばい人です!」

「ひっどいなぁ‥‥。私の『おともだち』は‥‥。もう、その顔をぐちゃぐちゃにしてあげたいぐらいにっ!!」

「っ!?こいつ、変態だぁ!?」


ちょっと、いや大分引いているヴァンに私は思わず口を突っ込む。


「だから言ったじゃないですか!!鳥頭の馬鹿なのですか!?ヴァン!!」

「うるせえ馬鹿!!お馬鹿って言った方が馬鹿ですぅー。ばーかっ!」


そうやって仲良くしていると、ディーさんが苛ついたかのように怒りの表情でヴァンを見る。


「私の『おともだち』に手を出そうとするなっ!!はあっ!」

「くっ。こい。『風刃散華』!!」


剣を思いっきり振るディーさん。


それ対して、何故か手を合わせて祈るようなヴァンの周りに数多の『刃』が出てくる。なんというか見えない風を無理やり可視化して、刃の形にしたようなものだ。どうやら妖術のようだ。刃一つ一つが意思を持つように動き、それをディーさんが剣で捌いていく。


力と力の衝突。


一つ一つの攻撃ごとの風圧がすごくて、屋根からぽろぽろと家の一部であったものが落ちてくる。これ以上は危ないし、なによりイチイちゃんの様子が心配だ。さっきからやけにイチイちゃんが静かで嫌な予感がする。急いで教会に連れて行かなきゃ‥‥。


そのためには‥‥。


「ヴァン!!私を攻撃して下さい!」

「っ!?‥‥なるほど。そうか。」


一瞬驚いた顔を浮かべたヴァンは、にやりと悪い顔を浮かべて『刃』を私のほうへぶつけつくる。


「っ!?エリースちゃんを俺以外が傷つけるのは許しませんっ!」

「うるせえ気色わりい変態ドS野郎!!お前はせいぜい親の仇?みたいな俺を狙っていろよばーか。」


そう叫んだヴァンがちょうど、できるだけ私から離れたとき。刃がぶつかる直前で、私は声の限りを尽くして叫んだ。


「〈ライト・ガン〉ッッ!!」


その瞬間、周り一面が真っ白い光に包まれ‥‥、そうして、爆発した。


「くっ‥‥。」

「やるじゃねか‥‥!ちびっ子!」


ディーさんが倒れ、うつ伏せにうずくまった姿のヴァンがニヤッと笑った。


「まさか、お前の生存本能を引き起こして魔術を起こすために俺に攻撃させる、なんて、な‥‥。」

「‥‥ありがとう、ございます。そんなことよりも!イチイちゃんはっ!?」


今にも死にそうな状態の彼女があんな攻撃を食らったのだ。平気なわけがない。でも、私がこの攻撃を放ったのは‥‥、信頼していたからだ。不本意ながら、ヴァンを。


「大丈夫だよ。ちびっ子。ちゃんと俺が守った。」


ヴァンが立ち上がると、ヴァンの下にいたのは‥‥、


「ぅあっ‥‥。」

「イチイちゃんっ!!」


魔術には当たっていないようで安心していたが‥‥、まだだ。まだ油断はできない。


「ヴァンっ!急いで教会へ言って治療してもらいましょう!!」

「ああ‥‥!」


私はヴァンとイチイちゃんのもとに駆け寄った。そのときだった。激しい爆発音が私の鼓膜を破らんとばかりに大きくなった。行かせないとばかりに。そうして‥‥、イチイちゃんは、さっきよりも血を流していた。彼女の左胸だ。左胸に、空洞があった。


「いやっ!!」

「ふふふ。エリースちゃん。離れるなんて許さないゆるさないゆるさないゆるさないっっっっっっっっ!!!だって、君は、私のもの。」

「貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!」


寝転んだまま、狂ったように笑うディーさんをヴァンが勢いよく殴りつける。


「ちびっ子!こっちはいい!!早く教会へ連れて行ってやれ!!」

「っ!はい!ごめん、イチイちゃん。」


私はイチイちゃんを背負って、門へ駆ける。どうやらここは関所から少し離れた場所にあったらしい。遠くの方にだが、関所が見える。あそこにいけば、イチイちゃんが!イチイちゃんが!


「ぇ、‥‥んっ!」

「イチイちゃん!?どうかした!?」

「えり、す、ちゃっ‥‥!!」

「‥‥どうしたの?」

「も‥‥、い‥‥‥、よ。あ、‥‥がと。」


背中に背負っているため、彼女の表情が見えない。けど、この声は、時間が巻き戻る前によく聞いてきた。



__諦めている人の、声、だ。



生への執着をやめ、安らかに神様の御下へ行く人のっ‥‥!!


「やだやだやだっ!!やめてよっ!!いかないで!!」

「いちぃ、‥‥す、き。」

「諦めないで!!あと少しなの!!後少しで関所につくの!!」

「じゃあ‥‥。ねえねに‥‥。ありが、と‥‥。いえ‥‥。とも、だち‥‥。えり‥‥、ぅ。」

「イチイちゃん!?なんて!?ねえ!!イチイちゃんっ!!」


そこから返事がない。ただ、なんとなくだけど、体が重くなっている気がする。生きている、よね‥‥?


「いや、いや‥‥。なんで‥‥。」


デモンが全く出てこない、平和な世界なのに、なんでこんなことが起きるの?人間は醜いの?それとも、ディーさんは亜人で、だからあんなひどいことできるの。


どんなに考えていても、私がイチイちゃんにできるのは教会に連れて行くことだけだ。


でも、流石に10歳児の姿じゃあ、思うままに動けない。今の疲労感はひどい。


「もう、駄目なの‥‥?」


そのとき、真横の草陰からかさりという音がなった。


「っ‥‥!?」


ただの動物ならなんとかなるかもしれないが、今の状態でデモンはしんどい。


私はその草むらを睨みつけながら、後ずさる。今は、戦闘とかしている場合じゃない。なんとか回避して早く、早く教会へ‥‥。


段々とその音を大きくする草むらにいたソレは、突如明るみに出た。

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