第9話 戦闘態勢!!

 ******



「俺たちいつまで歩けばいいんだよ‥‥‥。」

「こうなるって分かっているのに‥‥‥、もしかしてヴァン被虐趣味がおありで? 」

「なんでだよー!! なんでデモン出てこねー!! 」


 私達は森を歩いていた。


 兵士さんに指示されたのは私達のいた入り口の反対側にある門の近くの森に住み着くというデモンの排除だったからだ。つまり、実際に森に入ってデモンを見つけて討伐しなくてはならない。



 予想通り面倒事だった。


 一般人である私達にこんなの頼んだのは分かっている。自分たちに手をつけられないほどデモンが強いからだ。何回か戦って何人も仲間を失ったんだろう。この話をする兵士さんの顔には苦いものが浮かんでいた。


 兵士さんは私達が勝てばラッキー、勝てなくて死んでしまっても痛くも痒くもありませーん、といったところだろう。


 一応、武器はもらったが、兵士さんたちに配給されるようなものであまり効果は期待していない。



 私が魔術を使えればそれなりになんとかなりそうだったが、生憎魔力暴走するから使えないし‥‥‥。一応武器はもらったけどそれでなんとかできるなんて甘いことは考えてない。



 デモンを倒すのには色々あるが、おおまかには3つの方法がある。


 浄化系の魔術で倒すことと、『教会』の浄化の術を使うこと、最後にデモンが持つ『弱点』をつくことだ。この弱点、というのは『宝玉』というデモンがどこかしらに持つもの宝石を砕くことなのだ。効果は絶大ですぐに倒すことができる、が‥‥‥、宝玉は非常に小さくて、硬くて、更に見つけにくい。


 ヴァンは知らないが、私には最初の2つの方法が使えないから、宝玉を砕くことしかできない、けど‥‥‥。


 兵士さんたちがら倒せなかったってことは厄介な相手‥‥‥、そんなのに剣士でもない私が立ち向かえると?


 だから私は嫌!!他の街を探すなりしたほうが絶対にいい!!


 なのに‥‥‥、愚かな亜人ヴァンが、


「なんで引き受けたのですか?ヴァン。こんなの絶対ムリですよ‥‥‥。」

「まあ、なんとかなるって。」

「‥‥‥これだから亜人は。」

「うっせ。ほっとけ。おこちゃまなちびっ子には分かんねーよなー? 」

「〜〜っ! だからちびっ子はやめてください!! 」

「HAHAHA!! 」

「にしてもどうやって勝つつもりで‥‥‥。」

「まあ、任せておきな。このヴァン様にな! 」


 というため、仕方がなしについていく。


 万事この調子なんだけど‥‥‥、分かってんのかな‥‥‥。今から大変危険なことをすること‥‥‥。


 もう無理になったらヴァンをこの兵士さんからもらった剣を使って抹殺して逃げれば‥‥‥。っていう考えがダメなのか‥‥‥。また神父様に怒られちゃう‥‥‥。しっかりしないと!!亜人にこんなへなちょこな顔を見せたらいけない!!もっとしっかりしないと!!



 私がカツを入れるために頬を叩いた。パチンッという音になにやらヴァンがビビりながら、退屈しのぎにか話しかけてくる。



「それにな! 俺は腹を痛めたくないんだよ!! 俺が街に入れずにお腹すかせたいたらお前にそこにぶんぶん飛んでいる‥‥‥、アレを食べさせつもりだろ!? 絶対!! 」

「それが何か?」

「『何か?』じゃねえわ!! あんなの食べれるか!! 」

「巻き戻る前は餓死寸前の時、よく食べていましたけどね‥‥‥。」

「ゲテモノが好きなのか!? 腹壊すぞ!? 」

「美味しいですよ‥‥‥? 」

「そんな顔をするな! 俺のほうが間違っているみたいじゃないか!! 」



 え‥‥‥? 間違っているの‥‥‥、あなたですよね?


 美味しいよね?



「なんて純粋で不思議そうな顔をするんだ‥‥‥!? いつも蔑んで、濁った目をしているというのに! よりによってこの話題のときだけ、こんな綺麗な目をするんだ!? 」

「え? 蔑ずんでほしいのですか? やっぱりとんだ被虐趣味ですね。」

「だからなんでそうなる!? ねえよ! 」



 本当に‥‥‥?



「あ! 疑ってやがるな! 本当だぞ! 」

「じゃあ、嗜虐趣味‥‥‥。」

「ちげえし!! なんでも反対の意味にすればいいってもんじゃないんだぞ!! 俺はノーマルだ! 」

「そんなこといって‥‥‥、本当は、イジメてほしいんでしょう? 」

「はあ? そんなわけねーし。」



 ふむ‥‥‥。なら、試してみるか‥‥‥。



「ヴァン、疲れました。休憩させてください。」

「ああ。分かったぞ。ちびっ子は10歳だもんな。」


 そうして私達二人は木陰に座った。



「ふああ。いい天気だな‥‥‥。なんだかこんな日は寝てー‥‥‥。」



 私はヴァンの気が逸れているのを確かめてからヴァンの近くまで行き、そっとフードを取り‥‥‥。



「(ふう‥‥‥)」

「ひゃんっ?! 」

「やっぱり被虐趣味じゃないですか。」

「い、いいいいいやいやいや!? あなた、じゃなかった‥! おまっ!? 何した!! 」



 いや、ただ単に気配を消して、ヴァンの獣耳に向けて精一杯息を吹きかけただけだけど?



「やっぱりその汚らわしい獣耳はイジメられるだけに存在しているのですね!! やっぱり亜人は人族の家畜ですねっ!! 」

「お前!! その淀んでいながらも明るい目、どうにかならないのか!? 」

「私、そんな目を‥‥‥? 気のせいでは? 」

「気のせいじゃねーよ! お前の心はサイッコーに汚れてやがるけど、どこか純粋なところあるんだよ‥‥‥。」

「誤解ですよ‥‥‥。そんなの‥‥‥。」

「ほう、誤解だと?」

「私の心はいつでもピカピカです!! 」

「ウソつけ!! 」


 こうは言ったけど‥‥‥、私は‥‥‥。この汚れた血まみれの手には‥‥‥。



「ところでだな。」

「あ、はい。」

「俺の耳には今、ドスン、という音が聞こえた。」

「ど、ドスン、ですか?私には聞こえませんでしたけど。勘違いじゃないのですか?」



 そんな音、聞こえないけど‥‥‥。


 それでも立って兵士さんからもらった剣を構えるヴァンにつられて、戦闘態勢に入る。



「いや、獣族は人族よりも音が聞きやすいんだ。フードも外しているからな、よく聞こえる。だから勘違いじゃない。お目当てのものだよ。」



 よく見れば、ヴァンの髪と同じ色をした耳がペコペコと動いていた。私達の前の方になにかがあるように前後にペコペコと。



「どうやらお客様がいらっしゃったらしいぞ。丁寧におもてなししろよ。」

「いや、私達のほうがお客さんでは? 」

「うるせえ! かっこつけさせろ! かっこつけたいだろ!! 年下の前で! いつも下に見られているからな! 」

「そういうのいうのかっこ悪いと思います。」

「‥‥‥どうやら現れたようだぞ。」



 私の言うことが気に入らないのかほっぺを膨らませながらヴァンは言った。



 この頃になると私の耳にも聞こえた。


 ‥‥‥敵が足踏みする音が。木々をなぎ倒す音が。



「着たぞ! 戦闘態勢に入れ! 」

「いや、言われなくても入っています。あなたと一緒にしないでください。汚らわしい亜人風情と。」

「‥‥‥俺、泣いていいかな? 」



 軽口を叩いていたが、私達の表情は固かったことだろう。


 なにせ、敵が近くまで来ていたから。





 __来た。

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