プロローグ 復讐希望!!

「ねえ、エリース」

「はあっ、はあっ‥‥‥。な、なんですか!! なんなんですか!! 私が何をしたっていうんですか!!」


 故郷の村は滅ぼされた。山は燃やされ、川は汚染されている。私の故郷の村は‥‥‥、老若男女問わず皆殺しにされた。


 それを行ったのは決して天変地異などではない。この国の希望で先日ついに’’人類の敵である『魔の皇帝』を倒す’’という偉業を達した『勇者』サクラ。先程まで一緒に旅をしていた彼女一人の手で行われたことだ。

 彼女の別名は『冷酷姫』。その美しくも凍えるような容姿と残忍な性格、普段から滅多に笑わない様子から人々からそう名付けられた。そんな彼女がその名の通り‥‥‥、残酷に私の村を、故郷を滅ぼした。


 信じたくなかった。魔術師として彼女と旅をしている間も思うところはあった。でも、こればかりは我慢できない。


 彼女が故郷によるキッカケはエリースという魔術師、つまり私だった。私が、帰りたいって言って、聖女様がいいよって、いって、それで?それで、聖女様と別れ、て、勇者様と、故郷に、行った。けど、途中で勇者様がおかしくなって、途中で久しぶりに笑って『ほら、見て』って、私のお母さんを、1人で私を育ててくれた大切な人を、あ、あ、あああああああああああ!! 首を!! そうだ首を見せたんだ!! 私の唯一の親を‥‥‥!!


 友人は私に見せつけるように勇者の手で殺された。いつもお菓子をくれる優しいおばさんは無惨に真っ二つにされた。村長は拷問された後に死んでしまった。

 なんで、なんでこんなことに‥‥‥。


 でも一つ分かるのは次は私だ‥‥‥!! ほら、見てよ。私の名を呼びながらこちらによってくる死神がやってくる!! ああ!! ああ!! 神様!! どうしてこんなことになるのですか!!



 逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても!!



 剣を握りながら私を追ってくる死神に震えが止まらない。


 それならばと魔術で勇者に攻撃しても全て防がれてしまう。



 万能の才を持つ『勇者』である彼女と、ただ魔術の才能のみを受け持ってたまたま彼女の旅に同行させてもらえただけの私とでは格が違う。逃げ切るというだけでも浅ましい。それだけ彼女とは力の差がありすぎる。



「わっ!?」



 ああ‥‥‥、もうダメだ‥‥‥。転んじゃった‥‥‥。血が出て止まらないしもう、もう体力も魔力も限界だ‥‥‥。何もかも違いすぎる彼女からこうやって村外れまで逃げ切れただけまし、かな‥‥‥。



「鬼ごっこはもういいよ。エリース」



 どこかへ消えそうな淡雪のような容貌とは裏腹に目は恐ろしいかった。そんな彼女の持つ剣が抜かれたのを見て私がもう助からないことに気がついた。




 最後の希望をかけて私は口を開く。



「勇者様。まさかさっきまでの仲間を殺しませんよね? 何年も旅をした、仲間を。」

「ええ、そうね。」

「それなら勇者様‥‥‥! 」



 希望が見えた!! 勇者様は! 私の勇者様は私を見捨てなかった!! 故郷のことにはきっと事情があったんだ‥‥‥!!



 そう思ったのもつかのまの間だった。




「『仲間』なら、ね? 私の仲間はこの間まで旅していた聖女のみ。今までそうだったから。ただの魔術師であるあなたではないわ。あなたは要らないの。知っていた?あなたを拾って一緒に旅をしていたのはほんの気まぐれ。何度役に立たないあなたを殺そうかと思ったことか‥‥‥。でもこの村への道標になって村を案内してくれたのは助かったわ。あなたの故郷の村、行きづらくて‥‥‥。苦労していたのよ。」

「じゃあ、私の村を‥‥‥!?」

「そうね。最初っから滅ぼすつもりでいたわ。あなたを含めた住人、全員を殺すのも込みで。」



 なん、ですか‥‥‥。最初っから、仲間じゃないって‥‥‥? 聖女だけだって‥‥‥? 私は物? 私の村を最初っから滅すつもりで‥‥‥!? 何であんなに暖かい村を!!


 なんでなんでなんで‥‥‥!!!



「何で‥‥‥!? 」


「そうね‥‥‥、理由? 邪魔だったから、かしら‥‥‥? あとは目障りっていうのもあったわね。」



 邪魔? 目障り? ただ、それだけで‥‥‥?



 ああ、勇者様‥‥‥。敬愛なる勇者様‥‥‥。


 私はあなたを‥‥‥。




 __ぜっっっっっっっっっっっっったいに許さない!!



「私‥‥‥、早くあなたのこと殺したいの!! ずっと‥‥‥、あなたのことが気に障っていたの、気がついた?ああ‥‥‥、殺せばこの胸に残る気持ちを落とし込むことができるのかしら?うふふ‥‥‥!! やっと、これで‥‥‥!!」


 その言葉を言い終わるやいなや、私に剣で思いっきり刺した。そう! 躊躇なく!!


 勇者様、今私を刺しましたね‥‥‥? いつまでも覚えておきますよ‥‥‥。熱くて苦しくて仕方がないこの痛み‥‥‥。あなたの死にゆくものに与えるには冷たすぎる言葉‥‥‥!! そう、いつまでも‥‥‥!!


 ああ、誰か!! チャンスを!! 私は憎き亜人に額を地につけながら頼みますし、今まで皆殺しにしてきたデモンに命を捧げてもいいです。もしくは遥か昔いた願いを叶える『悪魔』とやらに寿命を差し上げます。


 だから!! もう一度チャンスを!!


 やり直しの機会を!! なんの罪もない私の故郷を滅ぼした復讐をしたい!!


 ぐっ‥‥‥、ああ‥‥‥、いた、い‥‥‥。




【ふむ。お主がよかろう。】



 ‥‥‥誰? なんだか声が‥‥‥?



【お主にやり直す機会をやることにしたのじゃ。ただし、それには条件がある。殺せ、世界に愛されし異界の『ミコ』を。お主もそいつを殺せばお主がしたい『復讐』とやらをできるし一石二鳥じゃろ。】



 この、声は‥‥‥? 中性的なその声はそれっきりしか聞こえなかった。はは‥‥‥、勇者憎しでついに頭まで狂ってしまったみたい‥‥‥。あはは‥‥‥。


 ああ‥‥‥。この声のとおりに機会が貰えるとしたら‥‥‥。



 異界の子でもなんでもいい!! そいつを殺して絶対に、勇者・サクラ。あなたに復讐する!!



【いい子じゃ。我が眷属よ、服従を。我が眷属よ、祝福を。お主に幸あらんことを。】



 やり直せるなら‥‥‥、なんだってしてやる‥‥‥!!



 勇者が私に刺さっていた剣を抜き、私の顔を上から覗き込んだ。



「ゆう、しゃ‥‥‥。」

「エリース?どうしたの?もうすぐあなたは死ぬのだから遺言ぐらいは聞いてあげるわ。」

「おま、え‥‥‥、ころ、す‥‥‥!! 」

「そう、待っているわ。あなたのこと。ずっと‥‥‥。時間の限りまで。だから‥‥‥、バイバイ。」



 本当だからな!! 勇者!! 地の果てまであなたを追い詰めて殺す!! この地上にある全ての苦痛を味わせてやる!!



 ああああああああ!!! 痛い痛い痛いいいいいいいいい!!!!!!!!!





 あれ‥‥‥? あ、‥‥。さっきまで‥‥‥てん、き、よかった、のに‥‥‥。あ、め‥‥‥。ふって、きた‥‥。







 ん‥‥‥? あったか、い‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。







 ******





「ん? 」



 視界を開けると見覚えがある部屋にいた。

 あれ? ここって、私が村を出る前に寝起きしていた自分の部屋?


「エリース!? いつまで寝ているの!?」

「おかあ、さん‥‥‥? 本当にお母さん?」

「どうしたのよ? エリース?エリース!?」


 ああ!! 本物だ!! 抱きついて分かる!! 本当のお母さんだ!! ああ、お母さん!!


 泣きわめく私の異変に最初は怒っていたお母さんも戸惑い気味に私を優しく抱きしめてくれた。



「お母さん、殺されたんじゃ‥‥‥。」


 なんで首だけになってしまったお母さんが生きているのかは不思議だけど‥‥‥。勇者が見せたあの首は別人だったってこと?


「何を寝ぼけているのかは知ったところではないけれども、あたしゃ、生きてるよ?」

「っ!? 勇者は!? 」


 知ったところではない‥‥‥!? どういうこと!? あんな大きな災害が起こった後みたいだったのに!?

 呆れた様子のお母さんに詰め寄ると、不思議そうな顔をされた。



「『勇者』? なんなんだい。それは。あんた余程夢見が悪かったのね。」


「え‥‥‥?」



『勇者』を知らない‥‥‥? なら、あれは、夢‥‥‥?

 いや違う。それだけは断言できる。あの殺される17歳までの記憶を私は持っている。生々しすぎる。殺されたときの感触だって思い出す事ができる。



「それにしても起きるのが遅いわ‥‥‥。昨日10歳になったから鶏のお世話を一人でするって言ったのあなたでしょ? 今日はあたしが全部したんだからね?」

「10歳!?」


 え?私が10歳!? そんなはずはない!! 私は17歳のハズなのに‥‥‥!!


「今日は様子がおかしいわね? エリース。」

「あはは‥‥‥。そうかな‥‥‥?」

「今日は休んだら? 」

「うん。そうする。」

「あ、あとお父さんが明日兵士の方たちがデモン狩りをするらしいから森には気をつけろって言ってったわよ? 」

「うん。わかった〜!」


 パタンッと扉を締めて私の部屋からお母さんが出た。

 そっか〜、お父さんが森に入るなって言ってたのか〜。


 ‥‥‥ん? おとう、さん‥‥‥? 私が生まれた後すぐに死んじゃったお父さん?


「えええええええええええ!? 」


 どういうこと!?


 ますますわけがわからなくなってくる。


 ‥‥‥あ、そうだ。おばあちゃんの形見に手鏡持っていなかったけ?


 そう思った私は机の中をがさこそと漁った。




 ‥‥‥あ、あったあった。



 早速自分を映すと‥‥‥、


「本当に私が10歳!? 」


 驚いたことに幼い頃の私が映っていた。本当に、時間が巻き戻ったんだ‥‥‥。でも、なんで? 私は確かに殺されたはず。時間が戻るなんて魔術では絶対にありえない‥‥‥。



 ‥‥‥あ!!待って!?私は確か変な声を聞いてた。そのときに


 __お主に機会をやることにしたのじゃ。


 って言っていた。じゃあ、その機会が時間を巻き戻すってこと?



 ということは、私は、復讐ができるってこと?


「ぷっ、あはははははははははははっっっっっ!!! 」


 こんなことってあるの!? ああ!! あの声の持ち主に感謝しなきゃ!! 復讐ができる!! あの勇者に!! 復讐を!! ああ、なんて愉快なの!! なんて素晴らしいの!? あの声の持ち主に最高の感謝を!!


 勇者・サクラ!! 待ってなさいよ!!



「エリース? どうした、の‥‥‥。‥‥‥。」


「あ。」



 朝ごはんを持ってきてくれたお母さんに1人で高笑いしているとこ、見られた。


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