第34話 これからの話

凍堂が取って来た食料を食べ終わり、久しぶりの食事の余韻に浸りながら考える。もちろん食料はまだ大量に残してあるぞ。出来るだけ節約したいからな。


考えている内容は、これからどうするかだ。ゴブリンが居なくなった以上、ここにいても戦力強化は期待出来ない。むしろ戦わなさ過ぎて鈍るまである。しばらくしたらモンスターがもう一度登場するという可能性もあるが、それまでどれくらい掛かるか分からないので俺としてはここを出て行こうと思っている。これは凍堂とも確認済で、すでに同意を得ていた。


「凍堂は次どこに行くべきだと思う?」


ご飯を食べて幸せそうな表情をしている彼女に尋ねる。凍堂は少し思案した後口を開いた。


「そうですね.....公民館を目指すのはどうでしょう?」


「それまた何故だ?」


「えっと、ここら辺の人はそこに避難していると思うんです。近くに他に大きな建物は無いですよね?ショッピングモールは倒壊してしまっているし.....ご家族を探すならまずそこからかと」


公民館か、俺も丁度そう考えていた所だ。理由は今凍堂が述べたのと殆ど同じなので、行先はそこに決定かな。


「ご家族をってお前は他に行きたい場所無いのか?自分の家とか」


「.......いえ、大丈夫です。どうせあの人達は...」


途端に凍堂の声が沈む。小声だったが、俺の耳にはその言葉がハッキリと届いていた。やはり家族とあまり中が良くないみたいだ。これ以上の質問はやめておくか。


「なら取り敢えず公民館を目指すのが当面の目標ってことで。そこに着くまでに何か発見があるかもしれないしな」


「はい、了解です。あ、ゴミ片付けて来ますね!」


「ん?いいよ、それくらい自分で—」


「先輩、自分が怪我人だってこと忘れてません?ベッドから動けないのにどうやってゴミを処理するんですか」


た、確かに.....ぐうの音も出ないとはまさにこのことか。怪我人(重傷)の俺は自分の分と俺の分のゴミを持って部屋を出て行く凍堂を見送ることしか出来なかった。


誰かが何しているのに自分が何もしないというのは落ち着かない。自責の念に駆られる、というか罪悪感を覚えるというか。とにかく居心地が悪いのだ。


何もすることが無いのでモンスターのことについて考える。


一つ一つの種族が存在し、必ずしもモンスター同士は友好関係ではない。それはゴブリンと狼の件で分かった。


ならば俺達が無闇に戦わずともモンスター同士の争いを引き起こすという手も使えるはずだ。.......でもこれには入念な下準備が必要になる。それほどの人力も余裕もないし無理か。


今まで通り地道に倒していくしかないな。恐らくエリアモンスターを倒すことでその地域エリアは他よりも安全な場所になる。現にこの学校内には今モンスターがいないと凍堂も言っていた。


探索不足という説もあるが、スキル【探知】がある以上この狭い学校の中を見落とすなんてことはないだろう。あるとすれば【探知】を掻い潜る能力を持ったモンスターくらいだ。

ま、こんなボロボロの俺を襲いに来ていないんだからこれも有り得ないけど。


異世界から来ているなら他にもいろいろいそうだな.....オーガとか、オークとか。そしてそいつらはゴブリンよりも強いはず。


「はあ......自信無くなるぜ」


本当に生き延びられるのか。本当に家族を守れるのか。不安でしょうがない。

そのためにも今は———


「ひたすらにレベル上げ、か」


これしかない。やるべき事も、やれる事も。


「ふう.....」


再度ため息を吐いたと同時にカラカラと扉が開く。


「ただ今帰りました」


例に漏れず入ってきたのは凍堂だった。


「ゴミ、ありがとうな」


「いえいえ、お礼を言われるようなことはしてませんよ」


そう言って貰えると救われるな。


「ところで、凍堂はこの世界がなんで変わったのか知りたいか?」


俺はまだ『世界の意志』とのことを凍堂に話していない。話すタイミングが見つからなかったのもあるが、話すべきかどうか迷っていたからだ。


「どうしたんですか?急に。それは....まあ当事者なわけですし知れるなら知りたいとは思います」


やっぱり知りたいよな.....。自分がなんでこんな目にあったのか、なぜこんな状況に陥らなければならなかったのか。凍堂にも知る権利はある。これからも行動を共にするなら尚更だ。


「実は———









♦︎♢♦︎♢









「そんなことが......」


凍堂は俺が意識を失っている間のことを全て話すとそんな声を漏らした。


「にわかには信じられませんが......異世界、ですか」


「ああ、『世界の意志』の言ってることが本当ならな」


「嘘かもしれないってことですよね。でも先輩は信じていらっしゃるのでは?」


「まあ......な。話している内では嘘をついている感じは無かった。あくまで俺の主観だけどな。それに言っていることの整合性は取れる」


モンスターの説明にしろ異世界の説明にしろアイツの言葉に嘘は感じられなかった。いちいち疑っていては何も信じられなくなってしまう。


「確かにそうですね」


「まあ嘘かどうかなんてどうでもいいけどな。やる事は変わらないしそんな気にすることはないさ」


「分かりました。心に留めておきます」


そう、そのくらいの認識で丁度いい。


「不都合が無ければ俺の傷が治ったらすぐにここを出たい。大丈夫か?」


「はい!問題無いです」


今は異世界のことより現実のこと。

それを見据えて動かなければ。











————————————————————


更新再開します!でもペースは落ちるかもしれません!










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