異世界戦隊つくるんジャー!

南雲 皋

第1話 憧れのレッド

 俺は目の前に置かれた巨大な水晶に手を当て、目を閉じた。

 身体の中から何かが湧き上がってくるような感覚がやってきた後、全身が熱くなる。


「目を開けよ。お主は炎操りし者である」

「炎! 火! 赤い! レッドだァァ!」


 俺は飛び上がって喜び、後ろに並んでいた少年に場所を譲った。

 十八歳、成人の儀。

 小学校入学前に死んだ俺にとって、初めての体験だった。

 俺は地球ではない世界で、初めて大人になったのだった。



 カイルとして生を受ける前、俺は日本人だった。

 公園で遊んだ帰り道、猛スピードで突っ込んできた乗用車から、好きだった女の子を庇って死んだのだ。


 俺が庇わずとも女の子は無事だったらしく、無駄死にした俺を神様は哀れに思ったらしい。

 マホレンジャーごっこで、レッドになれなかったどころか敵の下っ端役だった鬱憤を晴らすように人助けをしたつもりだった俺は、自分の働きが全くの無意味だったことを知ってガッカリしたが、魔法の存在する世界に転生させてもらえると聞いて大いに喜んだ。


 新しく生まれた世界には電化製品なんかは存在してなくて、テレビもゲームもないなんてってかなりショックだったけど、毎日ご飯を食べるために必死だったから、退屈なんてことはなかった。


 生まれたのは小さな村で、みんな自給自足で生活していた。村人全員の仲が良くて大家族みたいな感じ。

 俺より一ヶ月くらい早く生まれてたシュルツとは兄弟みたいに育って、俺の一番の友達だった。


 前世の嫌な記憶があったから、友達なんてできないかもって思っていたのだが、全くそんなことはなかった。

 シュルツは海みたいな綺麗な色の髪の毛をしていた。

 こっちの言葉を喋れるようになる前からずっと思っていて、喋れるようになってすぐに綺麗だって伝えたくらいに。


「"うみ”みたいにきれえなかみだね」

「?」


 俺の褒め言葉に、何を言っているのか分からないみたいな顔をしていたけど、短いのが普通である村にいながらポニーテールができるくらいに髪を伸ばしている辺り、素直じゃないなと思う。


 俺はオレンジと赤の中間くらいな髪の色をしていて、これはこれで好きだった。

 めちゃくちゃ硬い髪質で、何もしていなくてもツンツン立ってしまうから、太陽みたいだと言われていた。


 日本人とは顔付きも身体付きも異なっていて、背も高ければ鼻も高い。

 鏡なんてなかったから、水に映る自分の顔を見たことしかないけど、かなり格好いいんじゃないだろうか。


 シュルツは間違いなく美少年だった。

 小さい頃からクールな感じで、それが年齢を重ねるごとに研ぎ澄まされていってる気がした。

 俺が女子だったら好きになってたかもしれない。

 目つきが鋭いからちょっと恐いけど。


 俺の両親はあんまり子育てをしないタイプなのか、何かを強制されたことはほとんどなかった。

 手伝った方がいいかなと、俺が自分から畑仕事に手を出したり、洗い物を手伝ったりするとすごく喜んでくれるけど、それだけ。

 どこに遊びに行くのも止められたことがなくて、テンション上がって村の周囲の森にずんずん入っていく俺をいさめるのはシュルツだった。


 一ヶ月しか変わらないのに、シュルツはやけに大人びて見えた。

 二回目の人生なのだから、俺の方が大人なはずなのに。


 そんなこんなで、俺とシュルツはすくすく育った。

 十八歳が近付くと、成人の儀を受けるために王都まで行く準備が始まる。


 てっきり生まれてすぐに魔法が使える世界なのかと思っていたらそんなことはなく、成人の儀で鑑定の水晶に触れて初めて、魔法が使えるようになるのだった。

 今年十八歳になる子供たちは全員王都に行き、鑑定を受けなくてはならないらしい。


 この世界には魔素が溢れていて、勝手に体に溜まっていく。

 溜まった魔素を消費せずに放置しておくと、身体を内側から蝕み、壊していくのだという。

 だから一般人であっても、毎日何かしらの魔法を使う。

 母さんは水魔法で洗濯をしていたし、父さんは干された洗濯物を風で揺らして乾かすのを手伝っていた。


 生まれたての無垢な肉体が魔素に慣らされ、魔法が使えるようになるまでに約十八年かかるということらしかった。


 俺たちの村からは俺とシュルツ、そしてキリナという女の子が王都に行くことになっていた。

 その日のために借りてきた馬に荷車を引かせ、王都に向かうことになる。

 馬車と呼べるような代物ではなかったけど、俺たち三人にとっては大事な移動手段だった。


 休憩をこまめに取りながら馬車に揺られ、十日ぐらいで王都に着く。

 余裕を持って村を出ていたが、鑑定場所である広場にはすでに大勢の人間が溢れていた。


「すげー! 同い年のやつってこんなにいるんだな」

「ほら、俺たちも並ぶぞ。夜になる前に済ませたいだろ」


 案内の人が看板を持って、最後尾はここですと叫んでいる。

 俺たちが着いたのは昼過ぎだったが、長蛇の列に並んで俺たちが呼ばれる頃にはすでに陽が傾いていた。


 キリナが水晶に触れると、黄色や茶色の光が混じり合って出現し、どうやら土魔法が使えるのだそうだ。

 シュルツは絶対水か氷だと思っていたら、予想通り氷魔法の使い手だった。

 そして待ちに待った俺の番、告げられたのは炎である。


 夢にまで見た、主人公の色。

 これ以上ないくらい嬉しかった。

 列から離れたところで俺の結果待ちをしていた二人の元に駆け寄り、大はしゃぎである。


「やった! やったぜ! 炎だった!」

「想像通りだな」

「そうだね、カイルくんは絶対火だと思ってたよ」

「え〜? それほどでも〜」

「それで? これからどうするんだ」

「あたしは村に帰るよ。畑が耕せる土魔法で嬉しい」


 そう言って笑うキリナの父は、最近腰を痛めていた。

 父の負担を軽減できることが本当に嬉しいのだろう、ニコニコと笑っている。

 俺は空に向かって拳を突き上げ、叫んだ。


「決まってる、魔法学院入学だ!」

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