第32話『解放』


『――解放』

 

 キラーラちゃんはそう口にした。

 その瞬間――事態が急変する。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ」


 響くのはビッチ魔法使いレイラの叫び声。

 その場で激しくのたうち回りながら、彼女の体が持っている大鎌ごと光り輝く。


「なんだ……これ?」



 あまりの眩しさに俺はまぶたを手のひらで覆う。

 俺がルーナと契約した時と同じような光り方。

 他人のやつを見るのは初めてだが、さっきの魔法使いレイラは既に契約状態だったはず。

 なら……これは?


 そうして光が治まった時――その場に魔法使いレイラは居た。

 しかし……様子がおかしい。


「ア……アァ……アハッ♪」


 目は虚ろでどこも見ていないように見える魔法使いレイラ。

 そこには意志という物が微塵も感じられなかった。


『あっはははははははは。驚いた~? 雑魚お兄ちゃんたち~? これが解放だよ♪ 驚くのも無理ないよね~。高位精霊様も契約できたのが少し前って聞いてるし、ガラクタ共じゃせいぜい契約が限界だろうしね~』


 そうしてキラーラちゃんは自身でもある大鎌をブンブンと振り回していた。

 しかし――その数は先ほどと違って4振り。

 

 しかも、魔法使いレイラの腕に大鎌が握られているのではなく、なんと魔法使いレイラ自身の腕が4振りの大鎌へと変貌していたのだ。



「アコン……早く契約を……そうしないとアレには――」

「ルーナ……そうね。解放だかなんだか知らないけど、こっちにはたっくさん精霊が居るのよっ。さぁヘリオス。契約してあんな奴、雁字搦めにしちゃいましょうっ」

「ユーリ。私に力を貸してくださいっ。全部……私が守るんですっ!!」



 その脅威を前にして、ルーナたち精霊がロリコン紳士達に契約を迫ってくる。

 解放だかなんだか知らないが、敵の力は未知数。

 まらば、こちらも精霊を使って武装するべきだと。そういう話なのだろう。


 しかし――



「「「だが断る」」」


「「「え?」」」

『え?』



 俺を含めたロリコン紳士達が精霊との契約を拒む。

 そんな俺達の総意に、敵も味方も含めたロリコン紳士以外の全員が一緒に呆けたのが少し面白かった。



「ルーナ達の心遣いはとてもありがたい。普通ならばありがたく受け入れただろう。だがっ!! 今の相手はキラーラちゃんという可愛いロリ精霊様だ。そんなキラーラちゃんと愛しのルーナ達精霊を争わせるなんて……ロリコン紳士としては出来ないっ!!」


「「「然りっ!!」」」


「俺達ロリコン紳士は例え敗北するとしても、ロリを傷つけないし、傷つけさせないっ! それに、こうして対峙してて分かった。キラーラちゃんは純粋だからこそ、人間の事が信じられなくなってしまった可哀想な精霊なんだっ! 人間を思いっきり恨んでいるのがキラーラちゃんを見ていれば分かる。でも、その恨みさえどうにか出来れば……きっと分かり合える。きちんと話せば分かってくれるに違いないっ!」


「「「然りっ!! 然りっ!!」」」


「だから……キラーラちゃんっ!! 抱えてる恨みの全てをこの俺にぶつけて来いっ!! どれだけ撃ち込まれようと、それがキラーラちゃんからのものなら俺は喜んで受けるっ!!」


「「「然りっ!! しか……って会長だけずるいぞゴラァッ!!!」」」



 最後だけ同志達から同意を得られなかった。……っち、やっぱりダメか。


 さっきとは違い、キラーラちゃんはビッチ魔法使いレイラの精神を完全に壊しきってくれたようだ。

 本来ならそこに嫌悪感を覚えるべきなんだろうが……正直、ビッチ魔法使いレイラがどうなろうが俺の知ったことじゃないし、興味もない。


 むしろ、ビッチ魔法使いレイラの意志がキラーラちゃんに塗りつぶされたという事は、これからキラーラちゃんが与えてくれる責め苦は全てキラーラちゃんの意志によるもの。


 さっきまでみたいなメスガキ+ビッチババアによる責めではない。正真正銘のメスガキ様から怒りの籠ったパトスを受け取ることが出来るのだ。

 これで喜ばないロリコン紳士は居ない。


 現に――


「ちょっ、お前らっ。何割り込んでるんだ!? 俺がキラーラちゃんの一撃を最初に喰らうんだよ。俺を置いて後ろに下がれっ!」

「てめふざっけんなよ!? 雑魚は後ろに下がってろっ。メスガキキラーラちゃんからご褒美をもらうのは俺だっ!!」

「お前ら下がれぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 会長である俺こそが全てを受け止める権利があるのだっ! 貴様らは他のロリ様を守って――」

「「「会長はすっこんでろっ!!」」」



 ――俺も含めたロリコン紳士達が身を挺してメスガキキラーラちゃんから精霊達を守ろうと全力で前に出ようとしている。

 仲間想いの同志が多く、我こそがキラーラちゃんの攻撃から同志を守ると息巻いている。

 それこそ、仲間同士で傷つけ合ってしまいそうなくらいの勢いで同志全員が他の同志を後ろに下がらせようとしているね。


『この……さっきからふざけないでよっ!!』


 先ほどよりも速く、鋭いキラーラちゃんの大鎌×4が襲ってくる。

 それを……受け止めるっ!!


「「「ぐぬぉっ――(ありがとうございますっ!!!)」」」


 先ほどのものよりやはり威力が上がっているのか、今度は同志達数人が斬られる。

 大鎌4振りの内、2振りは俺とユーリがキャッチしたが、残る2振りが同志達を襲ったのだ。

 とはいえ、致命傷ではない。鋭い切り傷が出来た程度だ。



 だが――吹き飛びはしない。



『こんの……雑魚人間のクセに……精霊を身を挺して守るなんて……いい加減本性見せちゃえっ』


 そう叫んで何度も何度も大鎌を振り回すキラーラちゃん。

 しかし……本性を見せろだって?

 そんなもの、さっきから思いっきり見せてるじゃないか。


「何度も言ってるだろうキラーラちゃん。俺は……いや、俺達ロリコン紳士は全てのロリの……小さい子の味方だっ!!」


 だからこそ――


「絶対に俺は守って見せるっ。後ろに居るルーナ達だけじゃない。キラーラちゃんも……他の虐げられてる精霊も……苦しんでるロリ様は可能な限り俺達が救うんだっ!!」


 そうして多くのロリが集結した理想郷。

 それこそが俺の求める国――精霊国家ロリコニア。

 全ての臣民がロリ様をあがめ、そのロリ様の生き様を見ているだけで癒される理想郷。


 ロリ様はロリ様で、小さいからと誰かに侮られる事もない。

 外見が化け物となり、今は悪魔と呼ばれて世間で虐げられている精霊もルーナの力で元に戻す。そして、二度と悲しい想いはさせない。


 そうして外敵に脅かされず、平和に生きるロリ様達がお風呂でキャッキャウフフと戯れる姿を……俺は見たいっ!!!!!!!!!


「――だから守るんだっ。本性? これが俺の偽らざる本性だよっ。それは俺だけじゃない。この場に居るロリコン紳士達の総意だ」



「「「その通りだぁぁぁ!!」」」


「……え? めっちゃ邪念感じるんじゃけど? これ、儂も賛同しなきゃダメな感じ?」

「このロリコン達……頭が痛いわ……」

「ロリコン紳士さん……(キラキラした眼差し)」

「アコン……あなたはそこまで私たちを……(キラキラした眼差し)」

「アンタ達……いや、いいわ。分からない方が幸せね(呆れ&ため息)」


 なんか眩しい物を見るような視線とダメな息子を見るような視線を後ろから感じるが……今は目の前のメスガキキラーラちゃんに集中する。


『信じないもんっ。信じられるわけがないじゃんっ。この……偽善者ァァァァァァァァァァァッ!!』


 そうしている間もキラーラちゃんの大鎌×4は大暴れ。

 縦横無尽に振り回されるし、なぜか触れてもいないのに俺達を傷つける。

 同志達の傷もどんどん増えていき、優秀な同志が一人、また一人と倒れていく。


 それでも、俺たちは後ろのロリ様を傷つけさせないし、目の前に居るキラーラちゃんも傷つけない。傷つけられるわけがない。

 本当に――メスガキは俺たちロリコン紳士の天敵だ。 

 

『はぁっ……はぁっ……はぁっ……』


 いい加減に疲れたのか、キラーラちゃんによる攻撃の手が止む。


「ぐっつぅ――。気は済んだかいキラーラちゃん?」


 もっとも、こっちの被害も甚大。

 後ろに倒れ伏している同志達も、生きているか不明だ。



『もぅ……いいや』


 そう言って――キラーラちゃんの大鎌とビッチ魔法使いレイラの体が再び光り輝く。

 そうして、半透明じゃないキラーラちゃんが現れた。


「……私の負け。お兄ちゃんたち、雑魚って言ったりしてごめんね?」


 そうしてゆっくり歩いてきて、俺へと軽く手を伸ばすキラーラちゃん。


「いや、気にしてないよ」


 その手を取る俺。

 そして――


「――契約」


 キラーラちゃんが俺と触れ合った瞬間、そう口にした。

 そうして俺とキラーラちゃんの体は光り輝き――



『あっはははははははは♪ ホント、お兄ちゃんはざっこざこだね~。あーんなに簡単に騙されるなんてなっさけな~い。でも、お互い様だよね? お兄ちゃんたちだってどうせ私を利用しようとしてたんでしょ? でもざんね~ん♪ 私はそんなにちょろい女じゃないんだよーーだ。今度はお兄ちゃんの体を使いつぶしてあげるんだからっ!』


 なんと……強制的にキラーラちゃんと契約させられてしまった。

 

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