第16話『精霊国家ロリコニア建国』



「は?」


 悪魔の求める対価を聞いた王は呆けた声を出した。

 確かに、取引の内容については軽く話し合ったが、対価については何も決められていなかった。

 にも関わらず、王は安易に取引に応じてしまった。


 無論、そんなものは聞いていなかったと突っぱねればいいだけの話だ。

 すぐそんな要求は受けられぬと王は声を上げようとするが、そのタイミングで王の間の扉が叩かれ、一人の家臣が入室してくる。

 それは、王が斥候として放っていた家臣だった。



「失礼しますっ!! 王よ、火急の報が――」


「なんだ!? 裏切り者達の足取りでも掴めたのか!? つまらぬ用であればその首、余自らたたっ斬ってくれるぞっ!」



 既に苛立つ王は過剰に家臣に当たる。

 そんないつもと異なる王の様子に戸惑いながらも、その家臣は報告を続ける。


「へ……は、はいっ! その通りです。裏切り者たちが潜伏している場所は特定できました」


「ぬ? おぉ、でかしたっ。それで、奴らはどこに?」


「ここから南方にあるツェナス村跡です。険しい山々に囲まれた――」


「ほぅ、ツェナスか……。あんな僻地へきちに潜む奴らをよくぞ見つけたな

。よくやった。後ほど褒美を――」


「いえ、私が見つけた訳ではなく――とにかく、これをご覧ください」


 そうして家臣の一人が手紙を取り出す。


 そうして手紙を開くと――虚空に映像が映し出された。



「これは……ビジョンの魔法か」



 在りし日の記憶や、幻影を投影する魔法。

 それがビジョンである。

 その魔法が宿っていた手紙は開かれた瞬間にその幻影を虚空に映し出す。


 そこには、勇者である露利蔵ろりくら阿近あこんが大きく映し出されていた。


『我々は――『ロリコン紳士の会』。全てのロリ……では伝わらない者も居ると思うのでこう言おうか。この世全ての少女、悪魔、精霊の味方をする集団だ』


 映し出された阿近がいきなりそう切り出す。

 その姿を見て腹立たしく思うツマノス王だが、これが幻影でしかないと分かっているので手を出すことはない。


『我々の目的はただ一つ――全ての少女、悪魔、精霊の救済だ。今は特に精霊の救済に力を傾けている。諸君らは知っているだろうか? 世間で悪魔と蔑まされている異形の者達。あれらは全て、形を変えられてしまっただけの罪のない哀れで無害な少女……精霊という尊き種族なのだ。ちなみに、精霊の本来の外見は少女と変わらない超絶プリティーなものである。

 しかしっ、彼女たちはその本来の姿を歪められ、蔑まれている。俺たちはそれを良しとしない。そこで――俺たちは彼女たちの為だけの国。その建国をここに宣言する!!』


 ダァンっという音と共に阿近が足を踏み下ろす。

 すると、それが合図だったのか、後ろから大きな垂れ幕が広げられた。

 そこには――


『精霊国家ロリコニアッ!! これが俺たちの国の名前だ。全ての精霊、少女、悪魔が集い、それらを愛する者達によって運営される理想郷。その資格さえあれば種族や国は問わない。精霊、少女、悪魔に関しては働く事すらしなくていい。そこに居てくれさえすれば俺たちは満足だ。そして――同じくロリを愛する同志達よっ! 俺たちの理想郷はこの地だっ。身分や生まれ、国境など気にするな。俺たちのアガルタへ……来いっ!!』


 そんな頭の悪すぎる啖呵たんかと共に、阿近は建国の地を『ロリロリワールド』と定めた(ツマノス国の旧ツェナス村)。

 そして――映像がいったん切り替わる。



『アコン……何をやってるの? え? 理想郷の撮影? よく分からないけど……私に出来ること……ある? えと……ここに立っていればいいのね? 分かったわ』

『えと……どうすればいいのかな? え? 笑顔で手でも振ってあげればいいって? そ、それじゃあ――』

『協力して欲しいっていうから何かと思えば……殆どいつも通りにしてるだけじゃない。あんた達には感謝してるし、もっと無理を言ってくれても……え? それなら蔑んだ視線をこっちにって? えと……ふ、ふんっ! これでいい!?』

『私は? ……え? いつも通りあんパン食べてるだけでいいの? わぁい♪……もぐもぐ』


 映像が切り替わった先には、まだ幼さが残る少女しか居なかった。

 外見年齢は10~15歳といった所だろうか。

 そして、映像の中心には最近まで王が捕らえていたの精霊――『ルーナ』の姿があった。


 映像は彼女たちがただ物を食べたり、または遊んでいるだけの内容だ。

 そんな退屈極まりないものが数分間流され――ようやく映像は元に切り替わり、再び阿近の姿が映し出される。


『ご覧頂けただろうか? 何を隠そう、先ほど映し出されたロリ達は一人を除き、その全てが悪魔と世間で迫害されていた者達……正しくは精霊と呼ぶべきロリ達だぁっ!』


「なに?」


 ツマノス王は軽く眉をひそめた。

 悪魔=精霊なのはツマノス王とて知っている。


 だが、『悪魔』は化け物の様相をしていたはず。

 それなのになぜ少女の姿に……そう疑問に思いながらツマノス王は映像を見つめた。


『疑問に思っている者も多く居るだろう。なにせ、悪魔とは化け物のような姿をしているからこそ悪魔と呼ばれている訳だしな。だが、先ほども言った通りそれは形を歪められているだけだ。それを元の形に戻してやれば先ほどのような美しいロリになる。

 そして――俺達にはそんな形を歪められてしまった精霊の姿を正しいものにしてくださる巫女様が居るのだぁっ!!』


 そうして阿近は『ゆえに』と続ける。


『俺たちは来たる同志や少女、精霊、悪魔を拒まない。だが……俺たちの全てであるこれらを脅かそうと言うなら……いいぜ、相手になってやる。ロリコン紳士の力……舐めない方が良い。――そうだろみんなぁぁぁ!?』


『『『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』』』」


『俺たちの理想郷はここだぁっ! 全世界のロリを……少女、精霊、悪魔を救済するぞぉっ』


『『『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』』』」


『俺たちが望むのはなんだぁっ!?』


『『『ロリッ! 少女! 精霊! 悪魔! ロリッ! 少女! 精霊! 悪魔! ロリッ! 少女! 精霊! 悪魔ぁぁぁぁぁっ』』』


『彼女たちを傷つける者が居ればロリコン紳士はどうする!?』


『『『サーチ&デストロイ! サーチ&デストローーイ!』』』


『おっしゃここに宣言するぞぉっ! 我らこそ――』



『『『我らこそ――』』』


『『『我ら『ロリコン紳士の会』! 精霊国家ロリコニアを守護する盾にして、ロリ様に悪意を持つ全ての者を断罪するものなりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ』』』


『精霊国家ロリコニアバンザーーーーイ! ロリ様バンザーーーーイ!』


『『『精霊国家ロリコニアバンザーーーーイ! ロリ様バンザーーーーイ!! 精霊国家ロリコニアバンザーーーーイ! ロリ様バンザーーーーイ!!』』』」


 そうして万歳コールが繰り返された後、映像は途切れるのだった。

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