第12話『ロリコン会議-2』


 新しく保護した精霊の名前を会議にて決めようとしていたその時。

 新参精霊であるその少女は、たった一人でロリコンひしめく会議の場に現れた。


「なっ!? 馬鹿な!? なぜ……門番は何を……。そもそも、どうやってここを――」


 今は見ての通り、ロリコン紳士達による会議が行われている。


 時にはロリ巨乳がありかなしか……なんていう議題も持ち出される本会議。

 正直、ロリである彼女たちにはこの会議は見られたくない。


 だからこそ、あまり目立たない場でこっそりと会議を行っていたというのに……なぜここが分かったんだ?

 

「? 私が通して欲しいってお願いしたら通してくれたわ。アコンの場所も……聞いたらここだって教えてくれた」


「くっ……あいつら、勝手な……いや、俺でもそうするな」


 俺と同じような志を持つロリコン紳士の同志がロリに質問されたら……そりゃあ素直に答えるよなぁ。会則にもロリの言う事は順守すべしってあるし。


「それに、すっごく大きな声が聞こえてきたからすぐに分かったわ」


「………………」


 そういえば……少し前まで俺も含めてみんな騒いでましたね。

 そりゃぁ……いくら目立たないこの場所でもバレるよなぁ。 



「アコン……精霊のみんなに聞いたわ。私に名前を付けてくれるって……本当?」


「あ、ああ。ちょうど今から決める所だよ。そういえば他の精霊たちの様子はどうかな? みんな、元の姿に戻れたみたいだけど」


「ええ。みんな……とっても喜んでくれたわ。でも……ね? なんだか……緊張の糸が切れてしまったのか……多くの精霊が寝てしまったの。

 それで……ね? 起きてるサクラと、少し……話をしていたの。彼女からあなた達の事……少し聞いたわ。それで、新しい精霊を迎え入れたらアコン達はどこかでその名前を考えてるって教えてくれたから……」


 あぁ……サクラちゃんは古株だからなぁ。

 俺たちが揃って姿を消した後に精霊に名前が付けられるのを何度も見て、俺たちが名前を決めるのに時間をかけていると察したんだろう。


「そうかそうか。それじゃあ少し待ってて欲しいな。今から君の名前を付ける人を決めるとこだから」


 そう言ってくじの箱を持ち直し、全員に引いてもらおうとする俺だったのだが――



「――アコンがいい」


「……へ?」


「私の名前……アコンに付けて欲しい」


「っ――――――」 


 長い銀の髪から覗く澄んだ翡翠の瞳。

 そんな上目遣いをされ、俺は――



「くじ引きは破棄。この子の名前は俺が決めるっ!!」



 何が何でもこの子の名付け親になってやると心に誓った。



「「「ハァァァァァァァァァァァァァッ!?」」」



 唐突に名付け親になる権利を失った負け犬共……もとい俺の同志達。

 口々に文句を言ってくるが、今の俺にはどんな意見にも負けない最強の矛がある。


「いやー、名前を付けて欲しいって精霊から言われたら仕方ないよなぁ。みんながこの子の名前を付けたいのは分かるけど、やっぱり名前を付けてもらう側の意見って大事だと思うんだよなぁ。そうですよねぇロリコン紳士の諸君? ロリの意見って大事だと思いませんかぁ?」


「「「ぐっ……こいつっ――」」」



 ロリコン紳士の会、会則第一条。

 我らが信ずるロリの言葉は神の言葉。ゆえに、他の会則を曲げようともロリのあらゆる行いを正当化し、その手助けをするべし。



 俺たちにとってロリの言葉は神の言葉。

 ゆえに、新参精霊であるロリ少女が俺に名前を付けて欲しいと願えば俺たちはそうするしかないのだ。



 そして――



「君の名前……ルーナ……なんてのはどうかな?」


 俺は最初から考えていた彼女の名前。その候補を告げる。


「ルー……ナ?」


「ああ。俺の元居た世界では月の女神の事を『ルナ』って呼んでてさ。なんていうか……俺は最初に君に会った時から、君の事を物静かな月の女神様みたいだなって思ってたんだ。だから、安直かもしれないけどその女神様の名前はどうかなぁって思ったんだけどダメ……かな?」


「私……女神様じゃないわ」


「そ、そうだよね」


 ダメ……か。少しだけいい名前だと思ったんだけどなぁ。


「でも……ル-ナ……ル-ナ……ル-ナ………………うん、いい響き。気に入ったわ」


「あれ?」


 俺が考えた名前を何度も呟き、気に入ったと彼女は言う。

 もしかして……ダメじゃない?


「私は……ルーナ。アコンと……ロリコン紳士の人たち。これから……よろしく」


 そうしてペコリと俺達に頭を下げ、俺の隣にちょこんと座る少女、もといルーナ。


「「「あ、はい。こちらこそよろしく」」」


 それにつられてペコリと頭を下げてしまう俺達。

 こうして、新参精霊の名前は『ルーナ』に決まった。



 そして――



「………………」

「「「………………」」」


 会議の場だというのに、沈黙が場を支配する。

 名前が決まったというのに、ルーナは退室しない。

 えっと……まさか……。


「……? どうしたの? ロリコン紳士の人たちがどんな話をしているのか、気になるわ」


 俺の隣で俺や同志たちの事を観察するルーナ。少し不満そうに唇を尖らせている。


 だけど……やっぱりそういう事? 俺たちの酷い会議を見るためにここに居るの?

 それはちょっと……やりづらいんだけどなぁ。


 しかし、ロリコン紳士として、ロリの言葉は極力叶えないといけない。


 それに実際、ここで会議を終わらせるわけにはいかない。


 この会議ではそれぞれが議題に上げるべきと感じた物が次々と上げられ、討論の対象になる。

 俺から出す議題はもうないが、他の会員が未だ誰も議題を上げていない。



「誰も手を上げぬなら、次は儂から議題を出させてもらおうかのぅ」


 そう言って副会長のユーリが手を上げ、新たな議題を出す。

 その議題とは――


「さて……儂の出す議題はこれから儂らがどう立ち回るべきなのか……じゃぜ。他の皆も知っての通り、儂らはツマノス国を裏切った反逆者じゃ。おそらく今頃、周辺諸国にも情報がれるじゃろう。ここまではよいかの?」


 うん、そうだろうな。

 俺も含めた全会員がそれに頷く。

 

「問題はツマノス国に入ってきておるであろう他国のスパイがそれをどのようにして諸国に伝えるか……じゃ。今回の我々の反乱は突発的な物じゃったからその後に関しては話しておらんじゃろ?」


「そういえば……」


「そうだったかもしれない」


「正直、ロリ議題以外は考えてすらいなかったからなぁ」


 予想外に真面目な議題に、多くの会員達が目を丸くする。

 同時に、ロリ議題にしか興味がない会員達のやる気がかなり減少してもいるが……今は放っておこう。


「じゃろうなぁ。お主らはそうじゃよなぁ。しかし、これをしっかり考えぬと我々は遠からず破滅じゃぞ? 未来を考えぬ国に未来はないでな」


 深くため息をつくユーリ。

 なんだか問題児を多く抱えた担任みたいだ。


「話を戻すぞ? もう理解できる者だけ聞いてくれればよいわ。

 周辺諸国に儂らの集団がどのように伝わるか……これは結構重要な事じゃ。分かりやすく言えばアレじゃ。『正義の集団が国の非道を正すために祖国から離反した』と『今まで散々世話になった国を裏切る無法者ども』ではかなり違うじゃろ? 周辺諸国や民から支持されるのはどっちか……一目瞭然じゃろ?」


「「「はぁ、そうっすね」」」


 気のない返事をするユーリ以外の会員達。

 ある会員なんかは暇そうに耳くそをほじくり返している。


 そんな会員達の姿に、ユーリはこめかみを押さえると共にこう言った。



「……お主らにもっと分かりやすいように言えば――――――儂らの評判がどうなるかでロリっ娘少女達から嫌われるか憧れられるかが変わるぞい」


「「「もっと詳しく」」」


 そんなユーリの言葉をうけ、全会員が真剣にその内容に耳を傾けるのだった――

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