第3話『血に沈むロリコン勇者』



「これは――」



 地下まで続いてるんじゃないかと思えるくらい長い長い隠し階段を下りていくと、小さな部屋に出た。

 そこには大人一人くらい入りそうな大きな棺があり、それ以外には何もない。

 あの王様の話が本当なら精霊はこの棺の中に居るのだろうか?



「すんすん……ダメだ。やっぱりロリの気配も匂いも感じない。あの王様が嘘を言っていないのだとするとこれはそういうのを遮断する棺……とかか?」


 俺の能力その四……『ロリサーチ』。近くに居るロリの気配、匂いを探ることが出来るぞっ。

 俺はこの『ロリサーチ』により、隠れるのが上手く、見つけるのさえ困難な悪魔(精霊)を見つけてきたのだ。

 しかし、そんな『ロリサーチ』が今は働かない。甘く芳醇なロリの気配も、匂いも感じない。


「まぁ、開けてみれば分かるか……えいよっとぉっ!」


 俺は新たなロリっ娘との対面を果たすべく棺を開けた。

 そこには――



「なん……だと……」



 俺の『ロリサーチ』が濃厚なロリの匂いを感じ取る。

 あの王様は嘘を吐いていなかった。確かにここに精霊は居た。

 だが、聞いていない……聞いていないぞっ!!


 銀の長い髪の精霊。

 息を飲むくらいに恐ろしく可愛い少女だ。

 今は眠っているようで、薄い胸が微かに上下し、すぅすぅと可愛い寝息が聞こえる。


 しかし、それは些細な問題だ。

 問題なのはそこから先の話。


「どうして……どうして何も着ていないんだっ!!」


 そう――眠れる少女は素っ裸だった。

 何という事だ。

 その可愛い寝顔を後一兆年ほど眺めていたいのに……。


「いや、眠っているのなら別に……って馬鹿か俺はぁっ!!」


 俺は自分の頬を全力で殴って強制的に我に返る。

 相手が眠っていようがいまいが、無断で少女の裸を見るなどロリコン紳士として恥ずべき事だ。

 ましてや情欲の炎を灯らせるなど……万死に値する。



「そうだ。ロリとは肉欲の対象に非ず。慈しみ、愛でるべき存在であり、敬うべき存在である。つまり――ロリっ娘こそ我が神なのだっ!!」


 自らのロリコン道を口に出し、脳裏に未だ残る少女の裸体イメージを消去する。

 ――ふぅ。


「さて、それにしてもよく寝てる……ん?」


 俺はなるべく下は見ないようにして少女の顔を見るが……そのおでこに『封』と書かれた紙が貼られていた。


「封印のお札って……この世界にこんなもんあったのか……(ベリッ)」



 当然のようにその札を外す。ロリっ娘は封印してコレクションするものではない。自由に遊んでいる姿を眺めているだけで難病だって治る尊き存在なのだ。

 これで封印が破れたりするんだろうか?

 ……とりあえず、後ろを向いて少女が起きるのを待ってみる。



「ん……んん……」



 封印のお札を外して数秒後。

 少女が起きたらしい。気配と声でそれを察する。



「ここは……私……は……」



「やぁ、目が覚めたかいお嬢さん?」


 俺は少女に優しく目覚めの言葉をかける。(後ろを向いたまま)


「っ!? 男……ということは……あなた、人間っ!?」


「へ? あ、ああ。察しの通り俺は人間だが?」


 起きて早々、俺が人間かどうか確認してくる精霊。

 どうしたのだろう? 俺が人間だと何かまずいのだろうか?


「私をこんなところに閉じ込め――……えっと……少しいいかしら?」


「ん? どうしたのかな? なんでも聞いてくれたまへ」


「その……なんであなたはずっと後ろを向いているの?」


「紳士だからさ。可憐なお嬢さんの裸体を見る訳にはいかないのでね」



 紳士たるもの、少女の裸体を見る訳にはいかないのだと少女にも説明する。


 不慮の事故で見てしまった場合は仕方ない。

 しかし、不慮の事故でもないのにエロい目で少女の裸体を見るのは……軽犯罪に当たる。紳士として犯せぬ大罪だ。


「……変わった人間ね」




 静かにそう言う精霊の少女。

 眠っているときは分からなかったが、とても綺麗で落ち着いた声をしている。

 

「さしずめクール系ロリというやつだな。萌える」


「燃える? なにが?」


「決まっているじゃないかっ。君が萌えて萌えて仕方ないということさっ!」


 クールな精霊少女にそう熱弁を振るうが――


「っ!? そう……私が燃える……。やはりあなたも人間なのね……」


「そうさっ。人間なら誰もが――」


「もういいわ」


 俺の言葉を遮る精霊の少女。

 そうして――


「ぬぐのぁぁぁっ!?」


 後ろから俺の体を抱きしめるような柔らかすぎる感触ががががががぁぁぁぁ!?


「やっぱり人間は嫌い……」


「ごはぁっ!!」


 抱きしめホールドからの拒絶ぅ!? 一体俺にどうしろっていうんですかぁ!?

 おおおおおお落ち着くんだ俺ぇっ!

 今までの非道な人間の行いを見て、人間そのものに忌避感を抱く精霊なら幾人か相手してきたじゃないかっ!

 この子もきっとそうに違いない。そうだ、早く弁明しないと。


「素晴らしい感触をありがとうございますっ!!(待て! 俺は敵じゃない)」


「え?」


 俺の弁明に対して意外そうな反応を示す精霊……って何を言ってるんだ俺はぁぁぁぁぁ!?

 素晴らしすぎる感触に動揺して頭に浮かべた言葉と言うべき言葉が逆になってしまった。


「あなた……どうして死なないの?」


 精霊の少女は心底不思議そうな声を出す。

 そうして俺の体に触れながら俺の眼前に躍り出て――



「ぐぼぁぁっ――」


 必然的に、俺は死ぬ。

 正確には限界の状態で素晴らしすぎる裸体が目の前に現れた事によって俺の中に眠る赤い衝動が鼻から飛び出たのだ。※鼻血です。


 しかし、美少女に俺のような愚物の血をかけるわけにはいかない。


「ふんぬぅっ!!」


 恐るべき反射速度で俺は自らの血が少女にかからないように振り払う。


「んっ――」


 俺の動きで引き起こされた風に少女は軽く目をつぶる。

 そうしてたなびく長い銀の髪と、なによりその仕草が可愛くて――


「感……無量」


 俺は、そんなロリっ娘を汚さずに済んだことを誇りながら血だまりの中に沈んだ――


 

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