バレンタインデー短編 By弱小記主人公s

原田むつ

Case, サン

 バレンタインデーでは多くの若者が愛を伝えあったり、日頃の感謝を述べたりする。

 俺、アイシェン・アンダードッグは後者だ。一人じゃ何もできない自分についてきてくれる仲間たちに感謝を伝えるため、プレゼントを用意した。

 今やって来たのは俺の師匠、サン先生である。


 ――コンコン。


「アイシェンさーん?今暇ですかぁ?」


「サン先生?どうぞ」


「どうもアイシェンさん。早速ですが今日はバレンタインですね」


「あぁ、シントウの里にもこの文化はあったから知ってる。確か女性が男性にプレゼントを贈るんじゃなかった?」


「ちっちっち、残念ながらこの国、ブリタニアでは、男性が女性にプレゼントを贈るらしいんですよ」


「へー、そうなんですか」


 話はそこで終わった。

 というより無理矢理終わらせた。


「……え、アイシェンさん!?この流れで無視します!?そこは何かこう……あるじゃないですか!!プレゼントなり日頃の感謝の言葉なり!!」


「図々しい師匠に渡すものなんてない!!」


「ガーンッ!!」


「……なーんて。冗談ですよ先生。はいこれ、ケーキ作ったのでどうぞ」


「やった!有難うございますアイシェンさん。では私からも――」


 サンが渡してきたのは、健康祈願と書かれたお守りだった。


「ただでさえ私たちは、明日を生きられるかわからない立場にいます。そしてアイシェンさんはこの騎士団の団長、リーダーなんです。とにかく生きてください。そしてせめて、病気に罹らないで下さい」


「……ありがとう。でも病気だけかぁ、戦場だと効かないんじゃ?」


「その点についてはご安心を。私は絶対に、あなたを死なせませんよ」


 そう言ってサン先生は、優しい笑顔を浮かべて部屋を去っていった。


 ***


 ~サンのお守り袋~


 サンからのお返し。

 健康祈願と書かれているが、実は中身は空っぽ。中身を入れなくても、祈る心があれば大丈夫だということだろうか。

 また、病気に対する効果だけではなく、例え戦場でも死から守ってくれる。

 後者については完全にサン頼りではあるが、結局のところオカルトより生きている人に祈った方が現実的だとでも言いたいのかもしれない。



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