第20話 実行委員の仕事

「それでは、体育祭で行う種目について決めていきたいと思います。」

永遠は前に出て、司会進行を進める。森川くんは横に座って記録をしてくれる事になっている。

「とりあえず近くの人と相談して下さい。意見がまとまったら挙手をお願いします。」

教室内が騒がしくなり、話し合っている。

「結城さんってすごいよね。森川を従えてるよ?」

「優等生だけあるよな。実は陰の権力者?」

「付き合ってるのかな。」

「まじ?でも、ないだろ」

一方で全然関係ない話も進んでいるようで、永遠は頭を抱えた。

最近、クラス内外で噂になっている事は知っているけど目の前でこうも話されると困ってしまう。

「おい!ちゃんとやれや」

ピタッと教室が静かになった。

「ありがとうございます。森川くん」

「あぁ」

永遠は森川くんに感謝して改めて進める。

「はい。」

頼りになる沙希が手をあげてくれた。

「はい、西村さん」

その後は話し合いは順調に進んで行った。


放課後、永遠は森川くんと実行委員の集まりに出たあと物品の確認作業を行う事になった。

「森川くんってやっぱり真面目だよね。」

「あ?なんでだよ」

「記録、綺麗に書いてあった。」

記録は読みやすかったし、字も綺麗だった。

この人は見た目や言葉遣いは悪いけど本当の彼はちゃんとしているように思う。

「仕事だからな」

「それにちゃんと集まりにも来てくれる。」

「それも…」

「仕事だからでしょ」

素っ気ないところがもう少し変われば違うのに。

「あぁ。」

「ここの倉庫にあるみたいだから確認しよ」

「わかった。」

倉庫を開けると競技で使う道具類が色々入っていた。足元にも器具が置いてあって薄暗いだけに注意する必要がありそうだ。

「うわ〜埃すごー。足元気をつけて」

「あぁ。わかった。」

「来る前に着替えといて良かったよ」

あらかじめ汚れる事がわかっていたので体育用の半袖に長ズボンに着替えていた。

永遠はリストを見ながら物品を確認していき、すぐ必要な物は出入り口付近に出して行く。

「やっぱり力あるねー。」

「まぁな。」

「うーん、あれかな。」

上の方に置いてある物に手を伸ばすが…。

「あ、やば。」

引っ張ったところ、違う器具まで手前に動いてしまい、落ちてくる。なぜかスローモーションに見えて、このままだと結構痛いし怪我するだろうな、森川くん怒るかな、などと考えている自分がいる。

「結城!」

ガタンと大きな音と白い埃が舞う。永遠は自分の状況がよくわかってなかった。ただ、思っていた事にはならなかったようだ。

「いってぇ…」

「え、あ、ごめん!」

どうやら森川くんが咄嗟に永遠を引っ張って抱き寄せた勢いで後ろに倒れ、結果永遠は森川くんに座った状態で抱きしめられていた。

「怪我ねーか?」

「う、うん。森川くんは?」

「頭ぶつけた。」

「大丈夫?!血が出てる!」

「あ?大した事ない。」

永遠は慌てて、ハンカチで怪我を抑える。

「お、おい。」

「ど、どうしよう。先生呼んでくる。」

「待った。落ち着け。これくらい大丈夫だ。」

「本当?」

「あぁ。それよりちょっと離れてくれ。」

永遠は膝立ちで向かい合って森川くんの頭の怪我を押さえているので胸が森川くんの顔の目の前だった。

「あ、はは。お見苦しいものが目の前にあってごめん。」

「あ、いや、落ち着け。」

体が暑い。多分、顔が赤くなってる。

「あの…えっと…とにかく。」

「落ち着けって。」

「ひゃう」

永遠が押さえる手を森川くんが握った事に驚いてしまった。

「まったく。一度外出るぞ。」

森川くんが手を握ったまま、外に連れ出してくれた。

「ごめん。」

「あぁ。落ち着いたか?」

「う、うん。とにかく保健室行こう。」

「そうだな。」

永遠は森川くんと一緒に保健室に向かった。

保健室に向かう道中、森川くんはなんであんなに落ち着いていられるのか、やっぱり私にあまり興味がないのだろうかなど考えている自分がいて少し悲しくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る