第4話 オンラインゲーム プロローグ4




 いつものようにネカマオンラインをエンジョイしていた俺だったが、ふいにチャット欄に文字が浮かぶ。


(Leyla)【あのさ、お願いだからレン君と一緒に行動するのやめてくれる】


 ゲーム内の同じチームに所属する〝レイラ〟からの囁きチャットだった〈囁きチャットとは、ゲームないの電話みたいな物で、その文字はチャットする二人にしか見えない〉。


(レモン)【あ、うん……でもさ、あたしが頼んだんじゃないよ?】

(Layla)【いや、だけどさ、あんたのせいでレン君と一緒できないじゃん】


 レン君はチーム内では心優しく、誰にでも気配りが出来るナイスガイなので、女子達〈先輩、ネカマ含む〉から絶大な支持を得ている。


 と、この囁きチャットで察するにレイラは〝パイセン〟の可能性大であるが、巷では〝相方〟なるカップル名称の下に、二人行動をする者達が居るのでレイラが一概にパイセンとは言えない。


(レモン)【うん、わかった。ごめんね、なるべく一緒しないことにするよ……】


 人畜無害ネカマを胸の内で密かに公言している俺は、あからさまにあざとく、害悪になり得る行動は極力避る。


 なので話はここで終わるはずだった。だが奴、モエは介入してくるのだ。関係ない話にも入ってくる。モエちゃんは敢えてそうしてくるのだ。


(モエ)【ねぇ最近さ、レン君とレイラちゃん仲良いよね〜すんごい羨ましいっていうかぁ、誰も邪魔できないよね】


 その文字がチャット欄に表示された時、嫌な予感はしていた。


(モエ)【どう思う? レモンさん。やっぱりさぁ、レン君とレイラちゃんの男女関係ってぇ、現実的にも成就して欲しいって言うかさ〜】


(レイラからの囁きチャットを知っているかのような言葉……)


(レモン)【だねぇ……実際にお付き合いしてからの〜とかだったら素敵だし、ある意味で恋愛結婚的なことも好ましいかぎりだね】


 俺は知っている。奴、モエちゃんがそういう仲の良いプレイヤー同士を引っ掻き回して楽しんでいることを。奴がレン君に相方申請していたことを。奴のわがまま姫ちゃんぶりが原因で場の空気がとんでもない毒気を催したことを……。


 数ある問題の中、どれも結果的にはモエちゃんの望み通りにならないことが唯一の救いである。モエちゃんはライバルネカマ以前に性悪プレイヤーだと言うことが俺のライバル心に火をつけているのもまた事実である。俺は人畜無害をもっとうとするネカマ……。


 とは言え、女性だと騙していることもまた然り。引き際は潔くあらなければと常々言いきかせている……〈言い訳〉。


 

 そんなことを経て、のらりくらりとネカマライフを続けるも、こんな現実的な揉め事、争い事に巻き込まれると意気消沈してしまうことは否めない。


 そうは言っても、やっぱりモチベーションがネカマライフだけではないので、ゲームへの没入感を携えて俺は高みを目指すのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ネカマライフもオンラインゲームも大事だが、現実の生理現象を避けられないのと同じように、食う寝るはもとより、生活のための一番やなこと〝働く〟こともこなさなければならないのも人生なのである。


【働かざる者食うべからず】チャットでそんな文字を踊らせた時、一体何人のゲーマーが我にかえって落ち込むのか、自分の人生に戦々恐々とする自宅警護、それもこれもネット社会が抱える闇でもあるのだ。


 本編へつづく。

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