第4話

「沙耶ってインド語喋れるの?」

「ヒンディー語ね。全然だよ。でもカナダとかシンガポール行ってたから英語はちょっとできるんだよね。それでなんとかなってる」

「おお、バイリンガルだ」

「そう。私もすっかり帰国子女」

「帰国してないけどな」

 電話口から流れる沙耶の笑い声が右耳を満たす。

 海外に行ってしまった沙耶とはほとんど毎日電話やメッセージを交わした。

 大変なことも多いだろうに、彼女はいつも他愛のない話をして笑っていた。強いなと思う。

「世界は広いからなかなか帰れないんだよねえ」

「そういえば世界は広いって言うけど、なんで世間は狭いって言うんだろうな」

「確かにねえ。でも世間ってなに?」

「……自分との繋がり、的な?」

 改めて訊かれるとよくわからない。彼女も同じだったようで「うん、よくわかんないや」と笑った。

 ふと駅の構内にアナウンスの音が流れ、電話を当てているのとは逆の耳に届く。もうすぐ電車が来るようだ。

「ごめん。電車乗るから一回切るよ」

「あ、今から大学? 大変だねえ」

「まあな」

 そんなことを喋っている間にも、電車はゆっくりとホームに姿を見せて停車した。そして息を吐くような音とともに扉が開く。

「じゃあまた連絡するね」

「うん、また」

 そう言って電話を切り、僕は電車に乗り込んだ。

 車内に人はまばらで、空いている座席に腰掛ける。すると、さっきポケットにしまったばかりのスマートフォンが震えた。

『ところで今日の朝ご飯はなんだった? 私はやはりカレー』

 沙耶からのメッセージだった。また連絡するとは言ってたけど早すぎだろ。

 まあ、僕も今は少しでも彼女と話していたいけどさ。

『カレー好きすぎだろ』

『うん、だってせっかくインドにいるしね。で、優くんは?』

『カレーパンとスープカレー』

『カレー好きすぎでしょ』

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