2.亡命の意志を確認したい
アーリーヤは、派手な色彩の民族衣装から、黒くしなやかな手足を振り乱して走り続けた。
金茶色の長い巻き毛が、汗で顔に張りついた。厚みのある唇が、荒い息にふるえた。
早く市街へ、港町インパネイラへと、重くなっていく足を
「待っていてください、愛するお兄さま……! ついでに、
森を出た。
目のくらむような
ようやく動かした一歩の先に、巨大な
五本、十本と、人間ほどもある
「良かった、追いついた。ちょっと慌てて撃ったから、近かったな。大丈夫か? 小石が飛んで、
どこか場違いな声がした。
アーリーヤが、思わず振り返る。森の
たてがみのような
アーリーヤが動こうとした矢先、男のつま先が地面を叩く。
かすかな光の波紋が広がって、
「おまえの兄ちゃん、心配してたぞ? まあ、怒ってるわけでもないだろうし、一緒にあやまってやるからさ」
男が、
アーリーヤは男を見て、左右を見て、意を決して
「ちゃ……ちゃんちゃら
「いやはや、見上げた根性だよ。もうちょっと育っててくれたら、多分、
「少しくらい身長が低いのは、
「うん。まあ、他にもいろいろ、全体的にな」
男がもう一度、つま先で地面を叩いた。波紋が走って、
瞬間、男の目が鋭くなった。
銀髪で青い目の、中性的な少年だった。ベルグや目の前の男ともまた違う、赤い
「ヴェルナスタ共和国、特務局<
「まあ、こんだけ派手に
隣にもう一人、同じ
「え……ええ……っ?」
アーリーヤが、思わず息をのむ。目が合って、美女が少し
「リヴィオ。この少女、私が……
「あれ?
「ええ。少女から、
リヴィオと呼ばれた、
「レナートと同じように、なんらかの
「ぼくと同じ、ね」
レナートと呼ばれた銀髪の少年が、アーリーヤを抱いたまま、肩をすくめた。その表情にほんの少し、悲しい影がさしたように思えて、アーリーヤはレナートを見つめた。
「おいおい、ちょっと待ってくれ! ヴェルナスタの<
「市街のこっち側はエングロッザ王国だ!
「細かいことはいいじゃんか。なあ、レナート」
「細かくはないけどね。リヴィオ」
レナートがリヴィオに苦笑する。
「でも、あの茶色の軍服は、確かロセリア連邦陸軍の将校服だよ。
レナートの横目に、男が
「なんだよ、まったく……ややこしいことになっちまったなあ。こっちも後に
「おっさんが正直に、そんな格好してるからだろ。ばれて困るなら、軍服なんかじゃなくて、普通の服を着てろよ」
「そこのおまえ。まず、俺は二十六歳だ。おっさんじゃない。それからな……軍服ってのは、国を背負う
「え……? ああ、いや、そうか? ごめん」
「リヴィオ。あなたの
リヴィオの肩の上で、美女があきれ返った。
「ロセリアなら、ヴェルナスタ本国もケンカを売られている、
「グリゼルダ、鼻息が荒いよ」
「愛の
グリゼルダと呼ばれた美女の勢いに、リヴィオが
「なんか、
名乗りを上げたルカが、三回続けて、つま先で地面を叩いた。
ルカとリヴィオ、アーリーヤを抱いたレナートをつなぐように両脇に並んでいた
「リヴィオ=ヴィオラートだ。行くよ、グリゼルダ!」
「お任せなさい、愛しい人」
リヴィオが叫びを上げた。グリゼルダが背中に寄り添い、リヴィオの手に手を重ねる。
リヴィオの両足から、踏みしめた地面に光の波紋が広がった。土と石が砕け散り、
肩と
両肩の装甲が展開し、空気を吸入、圧縮して、
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