第53話 余韻

「千里、よく頑張った。お疲れ様」


 その言葉を聞いて、ずっと抱えていた劣等感やら負い目やら、死ぬかもしれない恐怖やら緊張やら、それらから解放された安心感やら、色んなものが混ざり混ざって、また千里の頬を濡らした。


「俺、頑張ったかな? みんなの役に立てたかな?」 


 涙を拭いながらそう言うと、


「ああ! 今日の大将はてめえだったぜ! てめえは人の痛みが分かるやつだしな!」


 鬼一がわしゃわしゃ頭を撫でる。


「自分の無力を嘆いて、受け入れて、それでも前に進もうとしたからこそ手にはいった力だ。誇っていい。それに、人一倍努力家だったからこその偉業だ」


 十戒も肩をぽんぽん叩いてくれる。


「千里は、やっぱりわたしの英雄」


 そう言って強く抱き締めてくる百。


「うんうん、カッコよかったよ、キミの晴れ舞台。お姉さんキュンとしちゃった」


 ニヤニヤ笑う花魁。


「はは、そっか、みんなありがとう。俺たち、なんとか生き延びられたんだな」

「うん、大勝利」


 そう言って千里の唇を奪う百。


「――!?」

 あたふたして真っ赤になる千里に、 


「誰かさんのおかげで」


 ほんのり頬を染めながら言う百。


「ひゅーひゅー! おアツいね、お二人さん!」


 囃し立てる鬼一。


「あーあ。せっかくお姉さんがもらってあげようと思ってたんだけど、これじゃ無理っぽいね」


 困ったように笑う花魁。


「そうだな、あの話はなかったことで頼む」

「……? 千里、浮気しようとしてたの?」


 聞き捨てならない、といった風に百が千里の頬をつねる。


「あいててて! 違うんだよ! 俺だけ足手まといだって嘆いてたときに、ほんの少し魔が差して――」

「ちがう」 


 千里の言葉を遮る百。


「千里は足手まといなんかじゃない。たとえ戦えなくても、そばにいてくれるだけでわたしに勇気をくれる。生きる意味を教えてくれる。今までもずっと支えてきてもらったし、これからもずっと支えてもらう」


 そして花魁を横目に見て、


「美人のお姉さんが現れたって譲ってあげない」


 と言ってまた口づけした。


「強くなった今なら、なおさら戦力として貴重だしな」


 と鬼一が言うと、


「うむ。諦めてもらうほかないな」


 十戒も続く。


「さしあたってはこの大百足の頭を持って町の組合に行けば、報酬が支払われるはずだ。それがすみ次第、打ち上げと千里の覚醒の祝賀会を開くのはどうだろう」 

「賛成」 


 と百。


「ポンコツ忍者にしては珍しくいい案だすじゃねえか」


 と十戒の肩に腕を回す鬼一。 


「それってウチも参加していい感じ?」


 と花魁がいうと、


「もちろん」


 と百が了承する。


「それじゃ、さっさと討伐報告をすませますか」


 千里の掛け声に、


「「「「おう!」」」」


 一致団結する四人だった。


 

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