第28話 対話

「……ということだ。たしかに忍術は門外不出だが、足抜けをしようとする拙者には関わりのないこと。それに命を救われた恩もあるしな」


 十戒の独白を聞き終えて一番最初に口を開いたのは百だった。


「その阿魏って人、朱音に似てる」

「朱音?」


 そうして今度は二人が話し始めた。二人の出会い、朱音という半鬼がいたこと、その生きざま。そして彼らが犯した罪、今は慚愧という鬼を探していること。


「そうか、朱音、半鬼の国。そういうものがあれば、阿魏や朱音のような思いをする半鬼もいなくなるやもしれぬな……」


 沈痛な面持ちになる十戒。


「命を救ってもらった礼に、手を貸したいところだが、拙者にはやるべきことが残っている。ここまで世話になったな」


 が、そう言って立ち上がろうとしてふらつく。


「無茶だ! まだ傷口もふさがりきってねぇのに!」


 たまらず、十戒を座らせる千里。


「そう。また返り討ちにあって、今度こそ死ぬだけ」

「ふ、ならばそれが拙者の宿命さだめというものであろう」

「――!」


 それを聞いた千里は、 


「ふっざけんなっ!」


 思いきり十戒をぶん殴った。 


「千里!だめ!」


 とめにはいる百。 


「放せ、百! こいつ、まだ生きてるのに、生きられるのに、それを簡単に諦めて投げ出そうとしてやがる! 俺はそんなやつが一番大嫌いなんだ!」


 そう言ってもがくも、百の力にはかなわない。


「その阿魏ってやつは言ったんだろ? 自分の人生は自分で切り開けって! お前の親友がなんのために自分の命を捨てたと思ってる? お前に生きてて欲しかったからだろ! お前はそれを背負って生きてるんだよ! それらに生かされて今ここにいるんだよ! 生存訓練を受けただと? だったらどんな苦境でも生き抜いて見せろよ!」

「だが、そうは言っても相手は土蜘蛛。拙者一人では相手にもならん」


 うなだれる十戒。


「……誰が一人だよ」


 その胸ぐらをつかむ千里。  


「ここにいんだろうが、もう二人!」

「――!」


 驚きに目を見開く十戒。 


「そこまでするのか?」

「ああ、せっかく助けたのに簡単に死なれちゃかけた手間がもったいないからな」

「困ってる人は見捨てない」

「本当に勝てると思うのか?」


 その問いかけに、


「これから三人で考えればいい。三人寄れば文殊の知恵ってな」


 揺るぎ無い眼差しで答える千里。


「ふ、ふふ…ふはははは!」


 突然笑いだす十戒。


「拙者も狭い世界を生きていたものだ。このような阿呆がいようとは知らなんだ!」

「なんだよ、誰が阿呆だ! 誰が!」

「まあまあ、千里、落ち着いて」

「いや、すまぬ、痛快でな。ここまで他人のために命を賭けようとする者はついぞ見たことがなかった。そこまで言ってくれるなら、この十戒、ありがたくお手を拝借しよう」


 そう言って頭をさげる。そして、


「千里。忍術が知りたいと言ったな?」

「ああ」

「一月で仕上げる。拙者の訓練は厳しいぞ?」

「望むところよ。あっという間にマスターしてやる」

「ますたー?」


 首をかしげる百。


「ものにしてやるって意味」

「ふ、気構えだけは十分らしいな。それでは、明日の朝から訓練を開始する」

「おう!」


 こうして人間と半鬼と忍者の奇妙な共同生活が始まった。

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