第24話 忍者との出会い

 山深いところで黒装束を身に纏った青年がいた。目以外のところを完全に隠したその青年が見つめる先には、脚が刃物のように光る蜘蛛の姿をした鬼がいた。


 青年は呟く。


「あれを始末さえすればーー」





 その頃、破魔と別れた千里と百は破魔の言った「慚愧」なる鬼狩りを探して旅をしていた。


「化身、ねえ……呼び出せたらさぞ頼りになるんだろうけど、俺には向いてねえなあ」


 千里は巻物を眺めながら呟く。


「それよか、俺よりも百の方がこういうの向いてるんじゃないか? 純粋だし。ほら、試しに読んでみろよ」


 そう言って千里が巻物を差し出すと、


「文字、読めない」


 とのことだった。


「あちゃー。そういう教育さえも受けてないのか」


 額に手を当てる千里。


「たいていの半鬼は生まれてすぐ、他の半鬼の里子に出される。そこで師匠から鬼の殺し方や生き延びる術を教わるけど、わたしの師匠はわたしが物心つく前に死んだから」


 淡々と話す百。


「……見たのか? 師匠の死ぬところ」


 百は頷いて、


「敵(かたき)は討った。それがわたしが初めて殺した鬼でもある。それから千里に会うまでは、ずっと一人きりで旅をしてきた」

「そっか。立派だな。ちゃんと敵を討って」

「当たり前のことをしただけ。わたしは師匠を守れなかった。」

「生き延びただけで偉いさ。それで、その師匠の名前は?」

「魂魄」

「その魂魄はお前に名前をくれなかったのか?」

「一人前になると師匠から名前をもらう。けど、そのときわたしはまだ一人前と認められていなかったから」

「そっか。突然一人ぼっちで放り出されたんだな」


 千里はしみじみと共感しながら、あることに気づいた。


「てことは、百もそのうち、半鬼の里子を育てることになるかもしれないんだよな?」

「そういうことになる」


 他人事のように答える百。


「だったら、そのときのために読み書き算数くらいはできてないとな。俺がこれから教えてやるよ」 


 腕まくりをして二の腕を叩く千里。


「わかった。よろしく――」


 そのとき、河原を歩いていた百の目付きが変わった。


「千里、あれ!」

「うん?」


 ただちにただごとではないと悟った千里。百の指差す先には、死んだように川に浮かぶ黒装束の姿があった。



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