第16話 半鬼狩りの夜

 百が屋敷の屋根の上にのぼると、松明の列がずらりと並んで近づいてきているのが見えて、まるで炎でできた蛇がこちらに近づいてくるようだった。それを確認してから百は地面に降りる。


「朱音。村の人たちはたぶん朱音を殺そうとしている。朱音はどうするの?」

「あたしはここに残るわ。あなたたちは裏から逃げて」

「それはできない」

「どうして?」


 百は心なしか微笑みのような柔らかい表情になって答える。


「朱音は、わたしのお姉さんだから」

「——!」


 はっと目を潤ませる朱音。


「ふふ、ずるいわ。こんなところでそんなことを言うなんて」

「朱音、死ぬつもりでしょ?」

「いいえ、心配ないわ。死んだふりをするだけよ。あたしの再生能力なら、きっと一回殺されても生き返られるから」

「でもーー」

「大丈夫。それよりあたしはあなたたちの方が心配なの。今のうちにできるだけ遠くへ逃げなさい」

「朱音さんの言うたおりだ、百」


 百が声がした方を見ると千里が立っていた。


「このまま三人で逃げるか、朱音さんと別れて逃げるか。選択肢はその二つしかない。が、朱音さんは鬼狩りを五人も殺してる。これ以上関わるのは危険すぎる。それに朱音さんが言うとおり、あの能力があれば、そう簡単にはくたばらないさ」 


 その言葉を受けて、朱音を見つめる百。


「……大丈夫、だよね?」

「ええ、大丈夫よ。約束するわ」


 微笑んでみせる朱音。


「じゃあ、今は別れる。でも、またいつか会おう」


 そうこう話していると村人の声が聞こえてくる。


「おい! さっさと出てこい! 鬼を野放しにする半鬼め!」

「村を見捨てた屑やろうめ!」

「殺してやる!」


 罵詈雑言が飛び交い、家垣や戸が激しく叩かれる。


「ここにいちゃまずい。そうと決まればさっさとおさらばだ」


 裏から森へと出る千里。ついていく百。





「はあはあ、ここまでくりゃ大丈夫だろ……」


 森の中を走り抜け、くたびれて千里が休んでいると、


「千里、あれ!」  


 百が指差す方を見てみると、屋敷から火の手があがり、あたりは黒い煙に包まれている。


「おいおい、徹底的にやりやがるつもりだな……」

「わたし、戻る!」


 屋敷へと駆け出そうとする百。千里はそれを押し留め、


「おい、待て!今お前が戻ってもややこしくなるだけだ!」


 しかし、しょせんは人間の子どもでしかない千里を振り切って、百は森を駆け下りていく。


「待ってて、朱音——」



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