第12話 賑やかな修行

「なんで俺まで修行しなきゃならねえんだよぉ!」


 木刀を振りながらぼやく千里。


「は、もう根をあげるのかよ、腰抜けめ!」


 隣で木刀を振るう健太。


「まだまだってところね!」

「でも、僕も疲れてきた……」

「しかも人、増えてるし!」  


 とつっこむ千里。


「いいじゃない、弟子が一人増えるのも三人増えるのも同じだってお師匠様がおっしゃるんだもの」


 増えたのは、勝ち気な性格で喧嘩でも男勝りなお鈴(すず)と、


「ごめんなさい。でも、僕たちも鬼から村を守れるようになりたかったんだ」


 弱気な性格でいつも本ばかり読んでいる純。


「それにしても、鬼狩り様はほんとうにすごいわね。あんな重たそうな剣を軽々と振り回して」

「それでいくと、鬼狩り様に負けるとも劣らないお師匠様こそすごいよ。人間の身であそこまで強くなったんだから」


(いや、実は混ざってるけどね。半分鬼の血が)


 心の中でつっこむ千里。


(けど、それを込みにしてもやっぱり朱音さんは強え。まだたったの一度も再生能力を使ってねえし、武器すらもたねえ。それなのにあの百と対等以上に渡り合ってやがる)


「おいらたちも修行すればあんな風になれるってことだろ! だったら、なおさら頑張ろうぜ!」


 人一倍気合いが入ってる健太がはりきると、


「私も負けてられないわ!」

「僕も!」


 新顔二人の士気もあがった。


「へーへー、俺も頑張りますよーだ」


(どのみち、百と一緒に旅をするなら鬼と出会うのは避けられねえ。だったらそのとき足手まといにならないくらいは強くなんねえとな)


 健太たちと出会って触発される千里であった。




 そして弟子組の五人は昼食の魚をとりに川へ来た。


 素手の方が早い百以外の全員で釣りをするとあっというまに数が揃った。


(さすが、このレベルの文明で生活してるだけあってたくましいな)


 千里が素直に感心していると、


「——!」


 なんと、健太たちが突然裸になりだす。

  

「ちょ!お前らなにやってんだよ!」 

「なにって、泳ぐに決まってんじゃん」


 あっけらかんと答える健太。


「こんなに天気がいいんだし、泳がないともったいないよ」 


 と純も脱ぎながら答える。


「もう秋だぞ! じゃなくて、なんでわざわざ服を脱いでるんだよ!」

「その方が泳ぎやすいからに決まってるじゃない。あら、それとももしかして兄弟子様は泳げないのかしら?」

「いや、泳げるけども! てか、お鈴もそんな簡単に裸を見せるなって!」

「裸くらいでなにいってんの? もしかして女の子の友達今までいなかったとか?」

「いや、裸くらいって、逆に裸以上になにがあるんだよ! おい、百、こいつらはここに置いて朱音さんのところに戻るぞ!」 


 と百を探すと、


「千里は泳がないの?」


 こちらは既に生まれたまんまの姿で泳いでいた。


「もうすでに裸かよっ!」


 が、そのとき千里はようやく気づいた。百の全身を覆う多くの傷跡に。


「……」


 そして幼いながらに傷を負ったその姿に自分を重ねずにはいられなかった。


「なあ、百」


 千里も上半身だけ脱いで声をかける。その背や腹にはたくさんの切り傷や火傷の跡があった。


「俺たち、似た者同士なのかもな」





 そして夕食時も賑やかだった。


「ねーねーお師匠様。お師匠はどのくらい修行してきたんですか?」


 と健太。


「うーん、生まれてすぐからかしら」

「すっげー! やっぱそれくらいしないとあんなに強くなれないんですね!」

「そうね、生半可な修行じゃここまではこられなかったでしょうね」

「お師匠様は結婚したことありますか?」 


 と聞いたのはお鈴。


「いい人がいたら結婚してみたいとは思ってるんだけどね」 

「でも、お師匠様より強い人となると、そうめったにはいないかも……」


 と純。


「そうかもしれないわね。でも今はまだ結婚はいいの。こんなにたくさんの弟子に囲まれて、それどころじゃないわ」

「すみません、突然おしかけてしまって」

 

 とここは素直なお鈴が頭を下げると、


「ううん。かえって嬉しいくらいよ。私、こういう賑やかなのが好きだから」

「そう言ってもらえるとなによりです!おいら、がんがん頑張るんでじゃんじゃんしごいてください!」

「うんうん、その心意気やよし。明日からもびしばしいくからね」

「「「はーい!」」」


 そのやりとりを聞いていた千里が、


「……ったく、呆れるほど賑やかになったな」 


 と呟くと、向かいに座っていた百が、


「でも千里、楽しそうな顔してる」


 と指摘する。


「そうか? んなこたぁねぇと思うけど……」


 と自分の頬を触る千里。


 そして自分でも微笑みを浮かべているのに気づいて、


「あ……こりゃ、誰かさんの寂しがりやがうつったのかもな」


 と朱音を見る。


「ちょっと! 自分の寂しさを人のせいにしないでちょうだい。とことん可愛げのない子ね」


 そのやりとりを聞いて笑いの輪がまた起きるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る