出会い5

「なぁ、お願い! せっかくだから行こうぜ。先輩が車出してくれるって言ってるし」


 ついには懇願に出た彰真が絡みつくように輝の肩に腕を回した。


 その反動で、彰真の耳にぶら下がっていたチェーンがやや長めの十字架のピアスが、輝の頬に叩き付けられるように当たった。


 唐突に触れてきた銀色のそのピアスは、つい先程まで夏の炎天下に熱されていたものだ。


 その後、店内の冷房に急激に冷やされたことにより、今現在では、冷たいのか温いのか分からないような何とも言えない温度になっている。


「……分かったから、離れろし!」


 無駄な暑苦しさと、ピアスの不快な感触に根負けした輝は顔を顰めて言い放った。


「マジで? よっしゃあ!! 輝ならそう言うと思ってたよ」


 ついに、説得に成功した彰真が輝の肩をバシバシと叩いて喜びを表す。


(結局、こうなると思った……)


 彰真の話に素直に頷くのは何となく癪に障るが、やはり、最後には何だかんだで承諾することになる。


 それが中学時代から続いている、彼らにとってのいつものパターンだ。


 輝自身、彰真の誘いに付き合う理由はなかったが、断る理由も特になかったのもある。


 所詮、高校生の遊びなんて限られているのだ。


 適当な暇つぶしだと考えれば、きっとちょうど良いことだろう。


「じゃ、またあとでな」


 店を出て、今宵の約束を何度もしつこく念押しする彰真と別れた。


 コンクリートで覆われた固い地面を靴底で踏み締める度に、じわっとした夏の夜風の生温さが人混みの流れに沿って進む輝の顔面を直撃する。


 手うちわで涼をとりながら、アーケード商店街を歩けば、あちこちの店の軒先に笹が飾られていることに気が付いた。


 笹には、願い事が書かれた色とりどりの短冊が吊るされている。


(そっか。今日は七夕か)


 往来でいつもより3割増で多い男女の組み合わせを横目にしながら、輝は朧気な知識を手繰り寄せる。


(……七夕って、確か、遠く離れた場所にいる恋人が会って互いの愛を確かめ合う日だったっけ?)


 そして、人知れずクスッと笑った。


 だって自分達と来たら、どうだ?


 わざわざそんな日に幽霊に会いに行こうとしているのだ。


 心底可笑しくてたまらない。


(なかなか会えない人って意味では、織姫も幽霊も、似たようなもんかもな?)


 輝は雑踏の中に歩みを進めた。ーーーこれから何が起ころうとしてるかも知らずに。

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