第22話 関わり方

昨夜は彩葉ちゃんに誘われて、平日だけど夜遅くまで夢中になってしまったこともあって、朝は気怠さがまだ残っていた。


一緒に住む前は毎日でもしたい、と言っていた彩葉ちゃんは、我慢をしてくれているのか、軽く触れ合うだけで寝ることも多い。


そんな中でも昨夜は久々に熱くなってしまった。


二人で向かい合って朝食を取っていると、彩葉ちゃんの携帯に着信がある。美波さんからのようで、彩葉ちゃんはパンを囓ったままでメッセージを読んでいる。


「何かあった?」


「いえ、明日実家に来て欲しいってメッセージが来ただけです。美波ちゃんのことだから、また採寸するとかだと思います」


「美波さんは本当に彩葉ちゃんの服作るのに情熱掛けているよね」


「元々美波ちゃんはレディースのファンションメーカーのデザイナーだったんです。そこで周囲と合わなくて辞めたらしいんですけど、やっぱり服のデザインが一番楽しいって言ってます」


彩葉ちゃんのお母さんと美波さんが立ち上げた会社は、女性用の下着を中心にした通販系のブランドだった。デザイン性が高いことで人気はあるらしいけれど、美波さんには未練があるのかもしれない。


「それでもそこに戻る気はないんだね」


「いろいろあったらしいですから。作りたい服があるなら全部私に着せればいいって、お母さんが美波ちゃんに言ってからです。こうなったのは。でも、最近心和さんも狙われてますよ?」


「えっ? わたしは着飾り甲斐ないでしょう?」


「そんなことないです。心和さんモデルみたいにすっきりした体型じゃないですか。だから映えそうって狙われてますよ。私が我慢してって言って止めてます」


「それは彩葉ちゃんの独占欲?」


「そうです。心和さんは私のなので」


「侑子さんも美波さんも、わたしのことは彩葉ちゃんの恋人として見てくれているだけだから心配しなくていいのに」


「駄目です」


可愛い独占欲にわたしは笑いを返していた。彩葉ちゃんはわたしのことになると、途端に心が狭くなる。





翌日、実家に帰った彩葉ちゃんが戻ってきて以降、彩葉ちゃんの様子がおかしいことに気づく。


悩んでいるような素振りが増えて、声を掛けるといつもの笑顔になる。


気のせいかとも思ったものの、気に掛かったものは放置できずに問い糾す。


「大丈夫です。私の家のことなので……」


そこで言葉を切った彩葉ちゃんは、少し考えてから再び口を開く。


「私も同じことしてますね」


「何のこと?」


言葉の意味が分からずにわたしは聞き返す。


「弟さんの結婚式の時、心和さんは自分の家のことだから、私が気にする必要ないって言いましたよね。心和さんに関わることなら心和さんの家族のことであっても、私も一緒に考えたいのにってもやもやしました」


「それで彩葉ちゃんは怒ってたんだ」


「はい。一緒に住みはじめたのに、何も変わらないままなのかなって……」


「それはわたしが悪いね。ごめんなさい。もう関わらないって決めた家のことだからって思っていたけど、一緒に考えるべきだったのかも」


「私はそうして欲しいです。心和さんのことには全部関わりたいです」


「全部は流石に無理かもしれないけど、できるだけ彩葉ちゃんには相談するでいい?」


頷くと彩葉ちゃんが抱きついて来て、その身を受け止める。


「大好きです。心和さん。ずっと一緒にいてください」


「じゃあもう家出しないでね」


「気をつけます」


「それで、何かあったの? 彩葉ちゃんの実家で」


彩葉ちゃんは真面目な顔になってわたしから離れると、隣り合って座る。それで真剣な話であるとわたしも気づいた。


「母が近々入院することになったんです」


「侑子さんが? どこが悪いの?」


「乳がんで、まだ初期のものらしいとは聞いています」


「そっか……わたしも手伝うから何でも言って。病院に行くとか増えるよね」


「そこは美波ちゃんがするから手伝わなくていいって言われてます。誰にも手伝わせたくないみたいです、美波ちゃん」


「じゃあ邪魔しちゃ悪いね」


「はい。お母さんよりも美波ちゃんの方が元々家事も得意ですし、心配はいらないかなって思ってます。でも、実は大変なのは会社の方で、そっちも美波ちゃんと私で分担しようにはなってるんですけど、すぐにお母さんのやっていた仕事ができるようになるわけじゃないので、しばらくばたばたすると思います」


「忙しくなるんだ、彩葉ちゃん」


「はい。当面は帰ってくるのも遅くなる可能性が高いです。すみません」


それは駄々を捏ねるようなことでもないだろうと肯きを返す。


「それは彩葉ちゃんが謝ることじゃないでしょう? お母さんも心配だし、でも会社のこともしないといけないって大変だよね。わたしでできることは何でもするから言って」


「じゃあ甘えていいですか?」


可愛い恋人にそんなことを強請られて、わたしが拒否できるわけがなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る