第26話 魔人の襲撃

「あの、一体何が?」

「それはわからない。ただ執事に化けていた奴と似た雰囲気を感じる」

「え! つまり魔人――」


 フランが声を震わせた。かなり不安に思ってそうである。


 元気になったとは言え父親が倒れた原因にもなった相手だ。まだ何かあってはと懸念するのもわかるというものだろう。


「――大丈夫だ。フランを狙っていた相手は倒した。ただすぐに知らせた方がいいだろうか?」

「は、はい! 一緒にお父様の寝室までついて来てもらってもいいですか?」

「それは勿論だ」

  

 首肯し答えるとフランがガレナの手をとった。


「では一緒に」

「……あぁ」

 

 何故手を? と心臓が跳ねそうになるガレナであったがフランの手は僅かに震えていた。


 きっと少しでも恐怖心を和らげる為の行動なのだろうとガレナは判断する。


 それで少しでも不安が払拭されるなら、とガレナはフランと手をつないだままグラハムの下へ向かった。


「まさかまだ魔人が潜んでいたとは――」


 フランとガレナの話を聞きグラハムが険しい顔で唸った。


「貴方――」

「マチルそう心配するな。しかしガレナ君には助けられてばかりだな」

「いや、たまたま俺も目が冴えてしまっていたのだ」


 ガレナが答える。確かにそのとおりだが妙な胸騒ぎを覚えたのも確かであった。


「しかし魔人対策は早急に行わなければいけないな。次に一体いつ現れるかわからない」

「ロイズ公爵。サリーです。このような時間に申し訳ありません。今宜しいでしょうか?」


 四人が話していると寝室のドアの向こうから声が聞こえてきた。女騎士のサリーである。


「入ってくれ。むしろ丁度よかった」

「失礼致します!」


 サリーが寝室に入ってくる。


「むぅ、まさか何か一大事か?」

 

 部屋に入ってきたサリーの顔を見るなりグラハムが問いかけた。サリーの表情からは緊迫感が溢れ出ていた。


「はい――実は今市街で魔人が暴れていると連絡がありました」

「何だと!?」


 グラハムが驚嘆する。魔人絡みだと考えていなかったわけではなさそうだがまさかこんなにも早く新手が出てくるとは予想外だったようだ。


「そこで事後報告になってしまい申し訳ありませんが私とスライの判断で手練の騎士と兵士を動かしました。同時に冒険者ギルドにも救援要請を出しています」

「勿論構わない。緊急事態なのだからな。しかしまさか町にもとはな」

「町にも?」


 サリーはグラハムの口ぶりに疑問を抱いたようだ。


「私も先程魔人に狙われたのです。ガレナが助けてくれましたが」

「何とまたガレナに。しかし騎士の私達が屋敷についていながら面目ない――」


 サリーが拳を握りしめ唇を噛んだ。不甲斐ないと自分を責めているのだろう。


「今回は相手が悪かった。フランとてまさかあのバルコニーで狙われるとは思わなかっただろう」


 フランが出たバルコニーは本来位置的に狙われることはありえない。しかし相当距離の離れた山の向こうから狙ってくるなどとは想定出来なかったのだ。


「とにかく私も町に出よう」

「そんな危険です!」


 グラハムが戦闘の準備に入るとサリーが止めた。魔人相手では危険が過ぎると思ったのだろう。


「危険だからこそ私が出るのだ。領民を危険に晒したまま。領主である私だけが臆病風に吹かれて黙っているなどあってはならない」

 

 威厳のある声でグラハムが言い放つ。何と責任感が強く民を思いやれる領主なのか、とガレナは感心した。


「ならば俺も手伝おう。どこまで出来るかわからないが足止めぐらいは果たして見せる」

「へ?」

「む、むぅ?」


 ガレナが協力を申し出るがその口ぶりにサリーもグラハムを目を瞬かせた。


 その様子に、やはり本格的に魔人が責めてきたとなると自分では力不足か、と後ろ向きなことを考えてしまうガレナである。


 だがすぐに表情を切り替えた。


「俺程度では不安に思うのも仕方ないが一生懸命働いてみせる」

「いやいや、不安ところかぜひともお願いしたいぐらいだ!」

「む? そうなのか?」


 サリーの言葉に、やはり猫の手も借りたい程の状況か、とガレナが頷く。


「では先ず俺が町に出て様子を見てこよう。魔人を見つけたらすぐに叩かせてもらう」

「頼む私も一緒にすぐに――あれ?」


 グラハムから頼まれたガレナは彼らの前から一瞬にして姿を消した。グラハム達もどこにいってしまったのか? とガレナの姿を探してしまう。


「あの男はとんでもない力を持ってますから。もしかしたら転移みたいなことも可能なのかも知れない」

「あの転移をか――やはりただものではないな」

「あの、ところでフランの姿もないのですが――」


 マチルの言葉にサリーとグラハムは、あッ、と思わず声を漏らしてしまうのだった――

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