第18話 母娘

「フランお帰りなさい。魔報は受けてましたが薬が出来たのですね」


 フラン達に案内されロイズ公爵の部屋に向かう途中一人の女性に声を掛けられた。フランに似た雰囲気を持った女性であり金色の髪は筒に巻かれたような様相だ。


 スタイルが良く、汚れ一つない白いドレスがよく似合っている。


「はい。薬を持ち帰りましたお母様」

 

 フランがやってきた女性に言葉を返す。話からこの女性がフランの母親であることがわかった。道理で雰囲気が似ているはずである。


「そうですか。本当によかったこれであの人も助かります」


 そう言って婦人が涙を拭う仕草を見せるが、直後ガレナに視線が向けられた。


「フランこの御方は?」


 マジマジと見られガレナが緊張する。格好一つとってもこういった場にそぐわない物であり失礼にとられるかもしれないと考える。


「はいお母様。此度薬を届けるための道案内を務めてくれたガレナです。この御方のおかげでこうして無事薬を届けられました」

「まぁ。そうなのですか?」


 フランの話を聞き、婦人は同行した二人の騎士に目を向けた。フランの言葉通りなのか確認する意味もあったのだろう。


「はいマチル様。これだけ早く薬を届けることが出来たのも、ガレナのおかげで魔境を越えることが出来たからこそ」

「え? あの危険地帯と呼ばれている魔境をですか!?」


 話からマチルが母親の名前なのだろうとガレナは理解した。サリーが随分とガレナのことを評価しているが、本人は気を遣ってくれているのだな、と言う認識であった。


「うむ。噂に違わぬ危険な場所であり何度も死を覚悟したらその度にガレナのおかげで助けられた」

「私もガレナに何度も命を救って頂きました」

「まぁ――」


 更に続くスライとフランのお世辞(とガレナは思っている)にマチルの見る目が変わる。ガレナにはそこまで凄いことをしたという自覚がないため気恥ずかしい限りなのだが――


「娘は貴方のおかげで無事帰還出来たのですね。母として心から御礼を申しあげます」


 マチルがガレナに向けて頭を下げる。


「それに薬が無事届いたのも貴方のおかげですね。本当に何とお礼を言ったら良いか」


 そしてギュッとガレナの手を握りニコッと微笑んだ。ガレナの頬が紅色する。


「お、お母様! それより薬を早く飲ませないと!」

「あらあら――」


 するとフランがマチルとガレナの間に割って入り声を大にして訴えた。こころなしかムキになってるようでもある。


「フフッ、そう貴方もそういう年ごとですものね」」

「な、何を言ってるのですかもう!」


 母娘のそんなやり取りが微笑ましくも思えるガレナであった。


「ところでハイルは?」


 ここでマチルが同行していたハイルがいないことに気がついた。それについてサリーとスライが答える。


「そんな、ではハイルは……」

「いえマチル様。ハイルはまだ無事な可能性があります。ですので私達は屋敷を探してみます」

「うむ。薬はフランお嬢様がお届けを。それとガレナも引き続き一緒にいてあげてくれ」


 口元を両手で押さえ青ざめるマチルだったがサリーが不安を払拭させるよう答えた。スライもハイルを見つけ出すよう動くようであり後のことはガレナに託された。


 ガレナとしては自分の発言を元に生きていると判断されたことに戸惑いもあったが、そこから無事だと騎士の二人が推測した以上二人にもそれ相応の理由があり自分の発言程度はきっかけに過ぎないのだろうと捉えていた。


「さぁガレナ。一緒に父様の部屋へ」

「本当に俺もいいのか?」

「勿論です。娘が薬を持ってこられたのも貴方のおかげなのですから」


 フランがギュッとガレナの手を握った。照れくさそうにするガレナとそれを微笑ましそうに見ているマチルである。


 そして二人に促され部屋に入る。公爵であるグラハム・ロイズの眠る寝室のようだ。とても広い部屋に大きなベッドが一つ置かれていた。


 その他にも高級そうな調度品が下品にならない程度に設置されていた。まるで別世界にきたような感覚を覚えるガレナである。


「お父様。薬をお持ちしました。どうかこれで元気になってください――」


 フランが小瓶を取り出しコルク栓を引き抜いた。心配そうに見守るマチルの前でフランがギュッと瓶を握りながらガレナを見る。


「そ、その緊張して震えが――迷惑でなければ手を握って一緒に薬を呑ませて頂いてもいいですか?」

「お、俺がか?」

「はい」

「お願いしますガレナ様。薬が溢れては一大事ですので」

「――わ、わかった」


 ガレナが納得を示す。薬はこの一つしかなく何かあっては確かに大変である。


 緊張した面持ちでフランの手に自分の手を近づける。だが、ガレナの手が止まり視線が部屋に備わった窓に向けられた。


「――その前に窓の外を見ても?」

「え? は、はい構いません」


 フランの許可を得るとガレナが近づき窓を勢いよく上げた。


「え!」


 マチルの驚く声が耳に届く。それもその筈である。窓を開けた先には翼の生えた人型の魔物。

 

 手に弓を持っており今にも矢を撃ってきそうな姿である。もっともガレナに驚き一瞬固まってしまったようだ。そしてそれが命取りとなる。


「合気!」

「ギェ!?」


 ガレナの合気により魔物がぐるりと回転し勢いよく地上に叩きつけられそのまま動かなくなった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る