第16話 ハイルは――

 魔人ガイサは自らの紫炎を受け流されたことで燃え尽き消滅した。

 それとほぼ同時にスライとサリーがそれぞれレッサーデーモンを打ち破り戻ってくる。


「はぁ、はぁ、本当に情けない。ガレナ殿がたった一人でここまでやっていたというのに」

「全くだ。我が筋肉も自信を無くし萎んでしまいそうだ」

「いや、そんなことはない。あれだけの悪魔を抑えつけてくれたのだからな。そのおかげで格下だけが残り俺もなんとか対処出来た」

「グ、グレーターデーモンが格下……しかも魔人と融合した相手を……」

「はっはっは! いやはやそこまでハッキリ言われると寧ろ清々しいな。どうやら我らは今後さらなる精進が必要なようだ」


 スライがうんうんと頷く。サリーもまた表情を引き締めた。目の前にいるガレナは騎士でもなければ冒険者でもない。にも関わらずこれだけの実力を有しているのだ。


 ここまで行き着くのにどれほどの努力が必要だったのか。きっと血の滲むような修行、いやそれどころでは言い表せない程の苦行の先に手に入れた力なのだろう、などとサリーは考えていた。


(俺が相手した魔人は悪魔を呼び出す力があっても本体はそれほどでもなかったのだろうな)


 一方でガレナはそんなことを考え、その上で二人が相手していた悪魔こそが最強の力を持った二体なのだろうと確信していた。勿論本来はグレーターデーモンと魔人の方が圧倒的に格上であるが。


「しかしまさか魔人とは――既に伝説とさえ呼ばれる存在だというのに」

「だが、結果的に領主様の言われていた通りになったわけか」

「確かにパパは魔人が勢力を広げつつあり危険が迫っていると警告していましたが――」


 三人がそんな話をしていたがガレナはついていけず置いてけぼりであった。そもそもガレナは魔人を知らない。何なら悪魔だって今日初めてみたぐらいだ。


 ただ周囲が話している状況から戦った相手が魔人であり悪魔だったことを察しただけなのである。


「……その、何というか。魔人という――」

「うむ。当然ガレナは気がついていたのだろう。しかしとんでもない洞察力であるな」

「えぇ。我々でも気が付かなかったハイルの正体に気がついのただから――」


 この二人の話にガレナは言葉の続きを飲み込んだ。魔人について聞こうと思ったのだがまたもそんな空気ではなくなってしまった。


「ガレナ本当に助かりました」

「……いや、大したことではないさ」


 しかもフランに笑顔でお礼を言われてしまい,

ついガレナも彼らの思い込みを受け入れてしまった。


「……ですがこうなるとやはりハイルは――」


 何かを思い出したようにフランが呟く。その瞳は悲しみに満ちていた。


 フランの言いたいことはガレナにもわかった。きっとあの魔人がハイルを殺害してしまっている、そう考え悲しみに暮れているのだろう、と。


 そう判断しガレナは自然とその細い肩に手をやり口を開く。


「――ハイルはきっと……生きている」

「え?」

「そう。皆のここ――」

「ハイルは生きているのですか!」

「あ、いや――」

 

 ガレナの発言に目を丸くさせるフラン。ガレナは更に言葉を続けようとしたが途中でフランの大きな声に遮られてしまう。


 その上ギュッと手を握られガレナの顔が真っ赤になった。


「何とハイルが生きているとは」

「だが確かにその可能性はあるかも。ハイルは屋敷でも一番信頼されていた執事であり、魔人が利用価値あると判断していれば」

「つまりどこかに囚われたままということか!」

「そうなのですねガレナ!」

「あ、いや――し……」

「つまりハイルは屋敷にまだいるということか!」

「きっと屋敷のどこかに捕らえられているのね」

「それなら急がないと――屋敷を出てから結構経ちます。ごめんなさいガレナ疲れていると思うのだけど案内を再開してもらっても?」

「ん? それは勿論だ。俺の仕事はそれだからな」


 こうしてガレナの発言がきっかけで目的は薬を届けること以外にハイルを見つけ出し助けることが加わってしまった。


「しかし馭者であったハイルがいないと馬車が動かせないか」

「それなら私が変わりをしようと思います。ハイル程ではないですが一応経験はあるので」


 馭者だったハイルに変わりサリーが手綱を握るd事となった。サリーが乗っていた馬はそのまま馬車を引く馬に追加される。


 こうして役割も決まり、フランに頼られたことでガレナも妙に力が入る。引き続き合気を利用し更に馬の速度を上げて一気に魔境を抜けた。


「――凄まじいな。私はハイル程手綱さばきは上手くできないのだが、そんなことは関係ないぐらい馬が気持ちよさそうに走っていた」

「うむ。私の馬も似たような物だ。ガレナが前を走るだけで疲れ知らずなのだからとんでもない」

「本当にガレナに頼んでよかった」


 ガレナの後ろで三人が彼を褒め称える。一方ガレナは空を見て頬を緩めた。

 魔境を出た後は晴れ晴れとした青い空が広がっていた。魔境内は天気に関係なく薄暗かったので久しぶりに見る太陽の光がよりいっそう眩しく感じられ空気も心地よい。


「後はこのまま道なりに進めばロイズにたどり着きます」

「わかった。急ぐとしよう」

 

 そしてガレナが更に気合を入れた合気を活用したことで一行はあっという間にロイズの町にたどり着くのだった――

 

あとがき

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