第14話 正体を現した魔人

「そんな――ハイルが魔人だったなんて……」


 正体をあらわした魔人にフランは動揺を隠せずにいた。


「いえお嬢様。恐らく本物と入れ替わったのかと。今思えば少し引っかかりはあったのです。あのハイルがいくらヒュドラが出たからとお嬢様を置いて逃げるわけがない」


 そんなフランの憂慮を払拭しようと思ったのか、サリーが私見を述べた。


「くっ、俺としたことが。しかし、言われてみれば――」

 

 スライが立ち上がり頭を振りつつ呟く。サリーの話で先程のハイルの行動がおかしかったことに気がついたようだ。確かにヒュドラ出現後ハイルは皆の前から姿を消していた。


「……どういうことだ何やら顔色が悪くなったようだが?」


 三人がハイルの正体に少なからず動揺していたその時ガレナはどこかずれた疑問を口にしていた。


「むぅ、まさかあのヒュドラも貴様が!」

「あ、いやだからそれは――」

「今更気がついたか。そうあのヒュドラはこの俺様が召喚した物だ」


 ガレナを置いてけぼりに話はどんどんと進んでいった。ガレナとしてはあのヒュドラは偽物だったといいたかったところだがガレナ以外の皆の話が妙に盛り上がり始めている。


「フフッ、人間の中にも多少は頭の回るのがいたか。だが一番驚いたのは貴様だぞガレナ!」

「お、俺?」


 まさか名指しされるとは思っていなかったのかガレナが戸惑いを見せる。


「この俺様が魔人であることを見破ったのだからな。全く少々プライドが傷ついたぞ」


 ガレナは返答に困った。彼が見破った(と思っている)のはヒュドラに関してでありハイルの正体ではそもそもなかったのだ。


 困ったガレナは後ろを振り返り口を開くが。


「しかし流石だな。まさか魔人の正体に気がついていたとは」

「うむ。このスライの目をもってしても見破れなかったというのに!」

「私達はまたガレナ様のおかげで助かったのですね」

「……」


 とても聞ける雰囲気じゃないとガレナは肌で感じ取った。自分でもよくわからないが何故か皆ガレナが魔人の正体を見破ったと勘違いしている。

 

 そもそもで言えばガレナは魔人が何かもわかっていない。合気の修行の為長らく山ごもりを続け戻ってからは叔母の仕事を手伝い続けた。故に彼は魔境と自分が育った町周辺の事情にしか詳しくなく、魔人の伝承なども耳にすることはなかった。


 つまりガレナにとって今目の前にいる相手が初めての魔人なのだった。


「ハイル――ハイルを一体どうしたのですか!」


 フランが魔人ガイサに向けて激しく問う。魔人が執事に成り代わっていた以上、本物がどうなったかを心配するのは当然だろう。


「さてどうなったと思う?」


 ガイサがニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。答えを聞いたフランは口に手を当てわなわなと肩を震わせた。


「貴様! よくも!」

「この外道が!」


 スライとサリーが武器を構えた。目の前のガイサに睨みを効かせる。


「フンッ。調子に乗るなよ人間! いでよレッサーデーモン!」


 右手を突き出し言葉を紡ぐとガイサの周囲に魔法陣が浮かび上がり肌が赤く翼と殿を生やした悪魔が複数体姿を見せた。


「な! 悪魔召喚か!」

「こいつこんなものまで!」


 思わぬ召喚に警戒心を高める二人。するとレッサーデーモンが一体ずつ先ず二人に襲いかかった。


「くそ!」

「なめるなよ!」


 サリーとスライがレッサーデーモンを相手取る。果敢に挑む二人にガレナは感心した。悪魔はガレナも初めて見る相手である。


「キャァアアァア!」

 

 するとフランの悲鳴。レッサーデーモンの一体が空中からフランを狙っていた。しかし騎士の二人は別なレッサーデーモンに手一杯であり手が出せない。ガイサがしてやったりと口元を歪める。


「合気――」


 しかし、悪魔の凶行がフランに及ぶことはなかった。ガレナが瞬時に移動しフランを抱っこして合気を利用し飛び退いたからである。


 レッサーデーモンとの距離が開きガレナがフランに顔を向ける。


「大丈夫か?」

「は、はい。あ、ありがとうガレナ」


 お礼を言われ若干照れくさくもあるガレナ。その場にフランを下ろし前に出てレッサーデーモンとガイサを睨む。


「どうやらお前らが悪者なのは間違いないようだな」

「悪者? 違うな。この世は我ら魔人が支配する。そうなれば我ら魔人の考えこそが正義となり貴様らゴミどもこそが悪となるのだ」


 独善的なセリフをガイサが言い放つ。当然それはガレナ達にとってはとても受け入れられないことだ。


「――魔人に俺の合気がどこまで通用するかわからないが、このままのさばらせておくわけにはいかなそうだな」


 そう言ってガレナが足を進めると残ったレッサーデーモンが一斉に攻撃を仕掛けてくる。


 それぞれのレッサーデーモンが、口から炎を吐き出したり腕から業火の弾を放ったりと様々な攻撃を繰り出してくる。


「合気――」


 だがそれらはガレナの一言で受け流されレッサーデーモンに跳ね返っていった。


 威力が増大して戻ってきたことで多くのレッサーデーモンが燃え尽きていく。

 

 仲間が燃え尽きる姿を見て遠距離からの攻撃が効かないと判断したのか、残りのレッサーデーモンが爪を伸ばしガレナに近距離戦を仕掛ける。


「合気!」

 

 しかし爪を振るったレッサーデーモン達はガレナの合気によって弾かれたようにふっとばされ、空中で数え切れないぐらいの高速回転を見せその勢いのまま地面に叩きつけられた。


「どうやらこちら側の悪魔とやらは大したことがなかったようだな」

「貴様ぁあぁあああぁああッ!」


作者より

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