第10話 夜襲

 サリーと入れ替わりで一休みしたガレナであったが、途中でふと目が覚めた。


「この気配は!」


 ガレナが立ち上がると緊迫した表情のサリーと周囲を取り囲む異様な怪物の姿。それらは首から下だけ見れば人の姿をしていた。


 それぞれ金属の鎧やらローブやらを身に着けている。しかし頭の部分はパックリと開き中から異様な舌と細長い目玉が飛び出ていた。


「ガレナ、突然化物がやってきたのだ。こいつらが何かわかるか?」

「……いや、俺も初めて見るタイプだ」


 サリーに問われるもガレナは答えられなかった。これまで魔境で見ることがなかったタイプのようであり警戒心を強めている。


「む、こいつらはまさか!」


 異変に気がついたのかスライも起き上がり、取り囲む化物に目を向け叫ぶ。


「寄生型魔物のアタマニだ! こいつら死んだ人間の頭に寄生して自由に動かす。スキルや魔法持ちならその力も使いこなす厄介な魔物だ!」

「そ、そうなのか。しかし詳しいな――」


 サリーが目を丸くさせる。二人にとって初見の魔物についてスライは詳しく教えてくれた。どうやら魔物や魔獣の知識はちょっとした物なようだ。


「とにかくお嬢様に近づけるわけにはいかない!」


 近づいてくる乗っ取られた数人に向けてサリーが攻撃を仕掛ける。


「疾風剣!」


 サリーがスキルを使用する。細剣を抜くと風のように疾い斬撃で乗っ取られた集団を切り裂いていった。


「あれが――本物のスキルか」


 ガレナが素直に感心する。サリーの一振り一振りと同時に鋭い風も発生し、より多くの敵を切り裂いていく。


「私も負けてられんな! 筋力強化!」


 大剣を手にしたスライがスキルを行使。すると彼の筋肉量が目に見えて増加した。


「筋肉が増える、あんなスキルもあるのか。やはりどのスキルも凄いな」


 ガレナは二人のスキルに感動を覚えた。自分の合気というスキルに誇りを持つガレナではあるが、同時に他者の持つスキルもリスペクトしてしまう。


「筋渾の一撃!」


 スライは更にスキルを重ね大剣を振り回し相手を纏めてふっとばしてしまった。サリーとはタイプの違う腕力に任せた戦い方を見せる。


「ガッハッハ! どうだみたか! これぞ筋力増加からの派生スキル筋渾の一撃! 筋肉量を上乗せした一撃でダメージが増すのだ!」


 力こぶを見せつけ得意がるスライ。しかしそんな彼を離れた位置から弓で狙う敵が一人。


「狙われてるぞ!」

 

 弓で狙われていることに気がついたサリーが叫ぶ。ほぼ同時にアタマニに乗っ取られた弓使いが矢を射る。


「むぅ、しまった!」


 矢は螺旋状に回転しながら速度を増しスライに迫った。スライの動きはそこまで速くはなく、放たれた一矢を避けられない。


「合気――」


 だがしかし、そこに飛び込んだガレナの合気によって矢は逸れしかも転回し矢を射った本人に返された。頭が破壊され地面に倒れる。


「おお! 助かったぞ!」


 スライがガレナにお礼を伝える。


「ガァァアアァアッ!」


 その時だった寄生魔物に乗っ取られた剣士がサリー目掛けて剣を振った。どう考えても攻撃の届く距離ではないが――


「な! 斬撃が飛んで!」


 そう。男の一振りで斬撃が飛んだ。どうやら相手も何らかのスキルを持っていたのだろう。サリーは完全に虚を突かれた形で対応できていない。


「防御が間に合わ――」

「合気!」


 しかし、これもまたガレナの合気によって救われた。受け流された斬撃がそのまま剣士に命中し両断される。


「な、なんてことだ――」


 サリーがわなわなと肩を震わせる。それを見たガレナはきっと彼女は自分が油断したことを後悔しているのだろうと判断した。


 実際は驚愕している様子のほうが大きいが。


「スライ! この連中、一部とんでもないのが!」


 サリーが警告するように叫ぶ。ふと周囲の温度が急上昇した。何事かと三人が見やると杖を掲げる魔法師の姿。


 その頭上には巨大な火の玉が浮かび上がっている。


「そんな――これは上位魔法。ま、まずい! やはりこいつら元々がかなりの凄腕――」


 狼狽えるサリーだがそんなことはお構いなしに、操られた魔法師が魔法を放った。巨大な火の玉が轟々と音を立てながら迫る。


「合気――」


 だが火の玉が彼らに届くことはなかった。ガレナの合気によって受け流され巨大な火の玉は空に向かって飛んでいき爆発したからだ。


 一行の頭上を覆うように爆炎が上空で広がった。もしこれをまともに食らっていたならフランの乗る馬車ごと粉々に吹き飛んでいたことだろう。


「合気――」

「――ッ!?」


 スライとサリーが呆然と立ち尽くす中ガレナは火の玉を放った魔法使いを合気で触れること無く投げ飛ばしていた。


 これによりこの場に現れた全ての敵は倒されたわけだが――

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