印章士と覆滅士の生への歩み  —章滅士—

春秋 頼

第1話 桶狭間の戦い

 時は戦国時代、群雄割拠の時代、妖魔が現れだした。この世界とは違う世界から、行き来し、妖魔たちは人間を糧とし、民を襲っていた。


 当然、各国の大名たちは、民を守る為、妖魔との戦いも長い間続いていた。


 しかし、この終わりの果ての無い戦いは無意味だと、進言する者が現れた。

群雄割拠の中、大きな勢力を誇る今川家の家臣であり、義元の師でもあった

太原雪斎の計略により、京へ向けるにあたり、武田と北条と今川の三大同盟を

結ばせた。


更に太原雪斎は、妖魔との交渉を義元に進言し、好みの食料や嗜好品と引き換えに

妖魔の王ゼノヴァに、同盟を申し出た。そして、妖魔は今川義元に力を貸す代わりに

かれらの望むものを与えた。この時、妖魔が味方となり、群雄割拠の中でも、群を抜いて、一番の勢力を誇った裏には、彼ら妖魔の力があった。


後顧の憂いであった、武田と北条で東を固め、西の三河の松平家には嫁を与え、一族とし、三河までの進路は固めた。着々と京へ向けての準備を、整えていった。


 今川義元は自国や三河の兵士に出陣の準備をさせ、妖魔にも参戦するよう促した。

妖魔がいなくても、全兵力五千しかいない織田家は問題ないと、考えたが、師であった大原雪斎の先見の明を信じて、妖魔を自軍に取り込み、大兵力を誇る今川義元は、人間と妖魔の兵を率いて、自国から出陣した。彼は妖魔たちに神輿を担がせて、そのまま西へ西へと、大軍で進んで行った。


松平家の三河を通過し、国境に差し掛かった辺りで、今川家の武将から、農民からの献上品があまりにも多いので、一言お声をかけて頂きたいと、臣下が伝えてきた。


今川義元は、徳川家の若き侍に、この辺りはそんなにも裕福なのか?と尋ねた。

松平元康はそんなことはありません。と答えた。


義元は、臣下に声をかけてやると言い、神輿を平伏した農民たちの前まで行った。


「多くの献上品はどうしたのだ?」義元は神輿の上から、声をかけた。

「義元様の上洛を、ずっとお待ちしておりました。祝い事などをせずに、貯めておりました」


義元はそうかそうかと笑みを浮かべた。そして声をかけた。

ちまきと酒は、配下の者たちに配る。何も心配せずに、これより先は我に仕えよ。妖魔の恐れもない故、安心せよ」


「ありがとうございます。上洛して天下平定される日をお待ちしております」

「うんうん。ご苦労であった」


今川義元は、そう言うと上機嫌で、采配を振るって進軍を命じた。

三名の農民は最後の軍勢が通り過ぎるまで、頭を下げたままでいた。


そして、彼らは立ち上がり、ボロ着脱ぎ去った。皆より一歩前に出て、義元と話していた忍者は、後ろの者に言葉を投げた。「殿にご報告してこい。予定通り事は進んでいますと」

「わかりました」そう言うと、一瞬で消えた。


今川義元は、妖魔たちに織田家の領土に入ってから砦や城を落とすよう命じた。

そして織田信長との繋がりがある松平元康にも、城を落とすよう命じた。


彼の忠誠心を試す為であったが、すぐに伝令が来た。

松平元康が城を落としたと。元々三河武士は強かった。そして今川義元に対する忠誠心を示す為に、すぐに城を落として、城主も打ち取った。


 義元は予定よりも、早く終わりそうだと思い、義元を守る五千の兵に、献上品のちまきと酒を振る舞うように命じた。


家臣のひとりが、城への入場を進言したが、信長の兵は多くても三千しか出せない事を知っていた為、その進言を取り下げた。


そして幕舎を張って、勝利の報告ばかりを受けていた。



 その頃、奥方である濃姫に、信長の好みである敦盛の歌と舞を、不安な顏ひとつ見せず、見せていた。スッと膝をついた忍者が現れ、「予定通り事は進んでおります」


その言葉を聞いた信長は、「甲冑を用意せぃ!」と声を放った。

すでに用意していた甲冑を、濃姫は腰元たちにつけさせた。


「では行ってくる!」信長は一言だけ濃姫に放つと、家臣の木下藤吉郎を連れて、信長は気性の荒い愛馬にまたると、そのまま行先も告げずに疾駆した。


すぐに後を追いかけたのは五名程度であった。信長はある程度の場所まで来ると、馬を休ませた。続々と信長の後を追いかけてきた。そして再び別の忍者が現れて報告をした。「義元は桶狭間で休息中でございます」


それを聞くと、再び桶狭間に向けて馬を走らせた。山道を取ったおかげで自軍の様子が、手に取るように分かった。優秀な人材も信長の勝利を信じて、何人も死んで逝った。


 彼は桶狭間を一望できる場所にいた。夜の闇と森が、彼らを隠してくれていた。

最終的に集まったのは三千の兵であった。天候が怪しくなってきて、雨がぽつぽつと降ってきた。信長は地の利と、天の利を得たと感じて、勝利は我にありと笑みを浮かべた。


雨は激しさを増していき、信長たちの気配や馬の足音をも消していった。

彼らは雨に打たれながら、崖から斜面状になっている崖から、勢いをつけて飛ぶように下りて行った。


 豪雨の中、彼らの音も無い軍団は、一気に幕舎に突っ込んだ。

酒と豪雨ではっきりとは何も聞こえず、敵を蹴散らしていった。

信長は槍を天高く掲げると、気勢は一気に溢れ出し、彼らの勢いは揺るがない心で、ひとつになった。

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