パーティー名を決めたのよ!

 パーティー名を考えてたとき、みんなから色々な案が出た。でも最後は私の提案した名前が通ったの。その名もズバリDawnどーん Drunkardsどらんかーず! 略して『どんどら』!


「夜明けの――いや『暁の酔っ払いたち』ってカッコいいでしょ?」

「いや、決してカッコよくはないよ!?」


 すかさずハタやんに突っ込まれたけどね、気にしない! そのハタやんの隣ではゆっきーがくすくすと笑ってる。


「んーまあそれって、ただの僕たちだよね」

「暁かー。俺氏、もうは厳しいでござるよー」


 っていうか、エルフ少女なイッシーが『オール』なんて単語を口にすると、違和感が仕事しすぎるわね。


「いや私もオールはもう無理……いやちょっとまって。身体は明らかに若返ってるんだから……ワンチャンいけんじゃね?」

「マジかよともっち! 早速リベンジしてみるかにゃ?」

「ほらほら君たち、いいからさっさと名前を決めないとー」


 そんなこんなで大騒ぎしてたけど、結局他に決定的な名前は出てこなくてね。最終的には私の案でみんな賛成してくれたの。だって飲兵衛仲間な私達にぴったりの名前だもんね!


(よっしゃ集中、っと……)


 私はカードに穴を開けないよう慎重に鉄筆ペンを滑らせた。表面を薄く溶かしながら滑らかに刻まれていく筆記体は、銅板の上で揺らぐシラーを集めるように、少しずつ輝きを増していく。

 全てを慎重につづり終えてペン先を離すと、文字に含まれていた光はすっと落ち着き、カードへ染み込むように消えてしまった。理屈は全然わからないけど、ちょっとすごいわね。


「ふぅ……なんとか成功?」

「ええ、お疲れ様です。ではお預かりしますね」


 不思議な光景に見惚れる私達をよそに、カレンは私の手からカードと青いペンをさっさと回収した。彼女の足元にはスーツケースのような黒い箱が置かれているのだけど、よく見ると細くて小さい隙間がある。

 手慣れた様子でカレンがその隙間にカードを差し込むと、床の方からコトコトッと音がした。優雅な仕草でさっとしゃがみ、再び立ち上がったカレンの掌に乗っているのは4つの……ペンダント?


「こちらが皆様の身分証になりますので、大切にしてくださいね。普段はしまってても構いませんけど、は必ず身につける規則ですので」


 それぞれ手渡されたペンダントは、ボールチェーンに銀色で楕円形のトップが2枚付いている。……ってさあ、私これ見たことあるよ。軍人さんがつけてるじゃないの?


「いやードッグタグかー。こりゃいよいよ物騒でござるなー、あはははは!」


 美少女エルフなイッシーはゲタゲタ笑ってる。


「やばいにゃー、これマジで命がけってことー?」


 その隣で黒豹ハタやんは……ちょっとビビってる? しっぽがぺたりとお尻に巻き付いてるね。これわかりやすいなぁ。


「でもドッグタグにしちゃあ、だいぶシャレオツなデザインだね」


 そう言ってまじまじとペンダントを観察しているのは、メロンおっぱいなゆっきーだ。


 ――言われてみれば確かにそうだ。私が知ってるドッグタグは、楕円のペカペカしたプレートに文字が刻まれているだけのシンプルなもの。でも今渡されたこれは銀色の質が違う。妙に重厚感というか、高級感があるのよね。


 おもて面には、さっき私の書いたパーティー名がそのまま刻まれているんだけど、角度を変えるたびホログラムのように文字が揺れる。これって一体、どんな仕組みなんだろ? それに裏面はクロスした剣と盾のデザインされた紋章がレリーフのように刻まれていて……ってああそうだ思い出した。これって冒険者ギルドの看板についていた紋章マークだわ。


「あー、ともっちさあ……オイラちょっと気付いちゃったんだけど……」

「ん、どしたの?」


 苦笑いしながら手招きしているハタやんの側に行くと、彼はふさふ……いやもふもふな掌に乗るペンダントを指差した。


「これさ、スペル違ってない?」

「えっ」


 するとそれを聞いたゆっきーとイッシーが、とたんにケラケラと笑い出した。


「ブホッ……ホントだ!」

「アッハッハ! もしかしてともっちは英語が苦手でござるな?」


 自分の手に乗るドッグタグをよく見ると……ええっ!?


「やだ! Dawn夜明けじゃなくてDown倒れるになってるじゃん! おぎゃー!!」


 恥ずかしさのあまり思わず頭を抱えて地団駄踏んでたら、ハタやんが小さく「あっ」と声をあげた。


「『倒れた酔っぱらい』って、あながち間違ってない気が……」

「「あ……」」


 ハタやんとゆっきー、そして私は同じ方向を見ていた。視線の先には、ケラケラ笑い続けるエルフ少女イッシーの姿がある。


「だよねえ……」


 私は飲みすぎたイッシーが文字通り『Downダウン』した時のことを思い出していた。たぶんハタやんとゆっきーも同じだろう。自分のスマホから救急車を呼ぶのは、ある意味貴重な経験だったわね。またやりたいとは思わないけど。


「はっはっは……って、あれ? 皆どうかしたでござるか?」

「元祖『Down Drunkard』がここにいたにゃ……」


 ハタやんの言葉を聞いた途端、真顔になったエルフ美少女はその綺麗な碧眼をカッと見開いた。


「一生の不覚っ!」


 可愛らしい声が放たれた次の瞬間、私達の背後から一斉に「ゴワン!」という音が複数、部屋いっぱいに鳴り響く。直後にアリスの悲鳴が聞こえた。


「きゃぁっ! いったぁい!!」


 なにが起きたのかわからないまま慌てて振り返ると、私達の後ろにいたチーム勇者の4人が、揃って頭を抱えてうずくまっていた。そして床には綺麗に凹んだ一斗缶が4つ転がってる。


 ――ちょっとこれ、一体どこから出てきたのよ!?

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