まずは腹ごしらえ

「とりあえずさあ、なんか僕たち、冒険者ギルドに行くことになっちゃってない?」


 私への羽交い締めを解いて床に降ろしながら、サラッと話題を変えるゆっきー。そのさり気なさが、トーク手慣れてる感。


「ごめんねゆっきー。あのアリスって子の勢いが凄くて断りきれなかったわ……」

「まあいいよ。それに職安こっちで普通に仕事探すより、あっちの方が面白そうじゃない?」

「冒険者ギルドねえ。オイラ達、普通の就職できるのかにゃぁ……」

「それよねー」


 新しい事好きなゆっきーは妙に楽しそうだけど、私とハタやん軽く引き気味。

 そりゃあね、職安経由で普通に就職するより、冒険者=リスク大きい仕事の方が稼げると思うのよ。そしたらきっと、飲み代だってガッポガッポ……コホン。今うっかり『ちょっとそれもいいなー』とか思っちゃったじゃない。


 そしてイッシーは、さっきから何かブツブツと呟いている。なにやら自分の世界に入ってるぽい。


「クウカン……ということは……」

「ねえどしたのイッシー」

「……あ、いや、何でもないでござるよ」


 ハッとした様子で私を見る美少女エルフ。その途端、彼女イッシーのお腹がくううううと高く鳴った。ちょっと頬を赤らめて、上目遣いで私をみる――まったくどんだけ!? しかも腹の鳴る音まで可愛いかよ! 中身は56歳のおっさんのくせに!


「腹減ったでござるうー……」

「そういえば、そろそろお昼ね」

「よし、じゃあ冒険者ギルドとやらに向かいつつ、途中どっかで飯にしようか」

「「「さんせーい」」」


 うふふ、ご飯だわごっはっんっ。次があるからお酒は自重するけども(チッ。

 お肉にしようかしら、それとも魚にしようかしら? 急にうきうきしちゃう食いしん坊な私です。



 ***



『この先 冒険者ギルド →』


 親切かつ丁寧な案内看板に導かれてやってきたそのエリアは、職安近辺よりもずっと賑やかだ。相変わらずこの世界の建物はどれも白っぽい石造りだけど、ここの雰囲気はなんとなく下町風。立派なアーケードには『シーカー通り商店街』と書かれた看板がある。ここを抜けた先に、冒険者ギルドがあるらしい。


 ここまで来ればさすがにもう迷うこともないだろうから、私たちは商店街の中にある小さな食堂『どんぐり』の暖簾をくぐった。昼時らしく、店内はなかなか賑わっている。


「ごめんねえ、お座敷でいいかい?」


 茶色い垂れ耳な犬顔の女将さんは、テーブル席がいっぱいなのを見ると奥の座敷に案内してくれた。私の前を歩く彼女のお尻には、茶色くて毛の長いツヤツヤのしっぽ。――そうねこれはミニチュアダックスフンド! あああーフサフサちゅるんって触りたいけど、彼女は完全に他人様だ。ここは必死に我慢する。


 ――あ、ハタやんは仲間扱いだし。黒豹しっぽはノーカンでいいよね。あとで代わりにちゅるんさせてもらおっと。


 メニューを見ると、和洋折衷のごった煮タイプ。うん、こういうお店好きよ。異世界感が皆無なのが少し残念だけど、まずい飯食べさせられるよりはずっといい。

 それぞれ好きな定食を頼めば、十分程でテーブルにご馳走が並んだ。


「あっつハフッ!」

「うっわ肉汁すごぉっ」

「食堂の定番でござるよー!」


 ゆっきーは魚フライ定食の特盛をチョイス。大きくて肉厚な三種のフライが、小さな網の上にどーんと乗っている。そのうちの一つ、アジフライに歯を立てた途端、ザクってすごくいい音がした。美味しそう!


 ハタやんは男子の定番、安定の唐揚げ定食大盛りだ。大きめの唐揚げが七個も載っているよ! 凄いボリューム!


 そしてイッシーはカツカレー。しっかりと厚みのあるカツはかなりのボリューム。小柄なエルフ美少女はパクパク片付けていくけど、額には薄っすらと汗が浮かんでる……結構辛いのかしら?


 そして私の目の前には、レバー唐揚げ定食! 味付き衣をまとったレバーは、火のとおり具合が抜群でサクフワでウマウマ! 濃いめの味わいがご飯に合うわね。付け合せのマヨもいいけど、和辛子もよく合う味わい。


 それぞれガッツリ食べて、お腹が満たされた頃。空になったお椀を置きながら、ハタやんがちょっと不安げに呟いた。


「冒険者ギルドで紹介してるのがどんな仕事か知らないけどさ。たぶん『安心安全なお仕事』ってわけにはいかないよね? んー、大丈夫かなぁ。オイラ達全員、根っからのホワイトカラーだよ?」

「確かにはそうよね。でもハタやんとゆっきーに限って言えば、今の身体なら討伐でも何でも参加できそうじゃない?」


 私の言葉にゆっきーが嬉しそうにうんうんって頷くと、メロンおっぱいが私の眼の前でたゆんたゆんする。


「僕はこの身体でなら、多少の荒事でも参加してみたいなあ」


 ――ゆっきー、ホントにやる気満々だわね。でも私には心配事があるのよ。


「あのね、私の鑑定結果なんだけど。とてもじゃないけど戦闘向きじゃなかったの。せっかく男の子になったのに、『殴り合い』が【やめとけ】に入ってるの……」


 そう言って私は、手書きのメモを皆の前に置いた。


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 名前:テオバルト・オッペンハイマー

 レベル:48

【つよつよ】音楽

【そこそこ】飛行・浄化魔法

【おまけ】直感・モテ

【やめとけ】殴り合い

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「オッペ……ブフォッ! 原爆でも作るつもりかよ!」


 メモを見て一番最初に吹き出したのはゆっきーだ。他の二人もゲラゲラ笑ってる。


「うんそれ言われると思ってた! ってか【つよつよ】が『音楽』ってさ、これ就職できる気がしないんだけどまじで」

「それでも『飛行』と『浄化魔法』はなかなか使えそうだにゃぁ」

「【おまけ】の『直感』と『モテ』が気になるでござるよー。っていうかそれ、どこでどう使うんだー?」


 こっちはわりと真面目に心配してるのに、こいつらまったく呑気なもんだ。私は早くみんなのスキルを見てみたくて催促した。


「みんなも書いてきたんでしょ? 早く見せてよ」

「ああ、かまわないよー」

「仕方ないにゃー」

「どこにしまったでござるか……」


 皆は、それぞれカバンに手を突っ込みはじめた。

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