7話 たまたまなんだからね!

 夜の9時過ぎて、水岡希更は自室で苛立っている。

 

 別に理不尽な事があるわけでも、嫌なことを我慢してもいない。苛立っている原因は素直になれない自分と、素直になりたい自分の心の中のぶつかり合いだ。

 

 告白されたいけど、早く彼女になりたい。恥ずかいけど、独占したい。言えないけど、特別になりたい。

 

「あーもう!!素直に好きとか言えるわけが無いじゃん!!そうだ!まだボコって無いし、そうたまたま、たまたま近くにいてボコるためなんだらね」

 

 完璧な言い訳を思いついたので、自室を出て家族にコンビニに行くと言って出ていく。父親は300人ほどの会社の中堅サラリーマン。母親は短時間パートという普通の家庭だ。親父はたまに飲み会や追い込み残業もあるけどまともな時間にだいたい帰ってくる。

 

 自転車で向かいながら赤信号で余裕と分かってても時間を確認しながら漕いでコンビニによる。中には入らずにWi-Fiを利用して時間を調整する。

 

 ふと悪いなと思いコンビニへWi-Fi利用料として飲み物を買いに入る。二本買おうとして困る。だってあいつの好みが分からない。

 

 この前イチゴパック貰ったからイチゴオレ?いや食べ物と飲み物は違うし夜だしホットかな?


「うー、どうしよう?マジで困った」


 時間の猶予はまだあるけどのんびり悩むほどはない。ここはイジられるか、あいつへの差し入れを失敗するか。


 ノータイムでスマホからグループレインを起動する。仲の良い女の子だけのグループレインだ。あいつを除いたお姉ちゃんになり隊のグループレインである。


 きさら『あいつのバイト先の近くにたまたまいる。差し入れって何がいいと思う?』


 マー『きさら出待ちしてる?』


 ゆなちー『それどころか、下校ならぬバイト帰りデートしようとしてるぞよ』


「うぐっ、デートになるのか気が付かなかった。帰ろうかな?いやここまで来たしボコってないし、そうボコりに来たからデートじゃないし」


 きさら『たまたま近くにいるだけなんだらねあとボコってないし』


 マー『そういう事にしよう。ケッ、ちょっとブラックコーヒー淹れてくる』


 ゆきゆき『肉まんかあんまんでしょ?夜は寒いし話しながら食べる夜食は格別。脂肪はおっぱいに集まるよ』


 ゆなちー『おかしい。食べても二の腕とお腹にしか脂肪は増えんよ。神は理不尽なことをする。フライドチキンも男の子は好きそう』


 マー『ただいま。きさらが飲みたい飲み物を二本。そして真ちゃんに選ばせる。どっち選ばれても美味しく飲めて、二択ながら真ちゃんの好みが分かる』


 きさら『あいつバイト先がファミレスなら、まかない食べてるかも?飲み物だよね?』


 ゆきゆき『チェーン店なら飲食出来ないかも?マスク外して厨房に入れないくらい厳しい衛生管理のとこあるよ』


 ゆなちー『安い店なら賄いは失敗して破棄する料理が出たらあるかもくらいじゃね?』


 マー『高校男子の胃袋はブラックホール心配無用』


 ゆきゆき『マーの恋愛スキルが高すぎる!元彼氏持ちは違うな』


 きさら『そういえばエナジードリンク飲むらしい』


 ゆなちー『それはない。色気がない。寝かさないつもり?』


 ゆきゆき『ゆなちー、エナジードリンクは精力剤違うぞ』


 マー『悪くないけど、真ちゃんがエナジードリンクを好きなん?』


「えっと、疲れたら頑張れるとか、飲まないと宿題出来ずに寝ちゃうとか言ってたけ?そんな感じだったはず」


 きさら『このあと宿題するために寝ないように飲むらしい』


 ゆきゆき『真ちゃんサラリーマンより大変なん?お父さんでもそこまでは繁忙期だけだよ』


 ゆなちー『それ好きとは違わん?眠気覚ましや』


 マー『実用品だし、飲まなくていいなら飲まない方が良さげ、ならコーヒーも避けた方がいいかも。にしてもブラックコーヒーが甘くなってきた気がする』


 ゆきゆき『それは初恋の甘さや。砂糖ちがう。でも無糖紅茶が旨い』


 ゆなちー『カカオ82%のチョコもいけるぜ。きさらの乙女力で真ちゃんメロメロやな』


 きさら『ホットのお茶と紅茶?』


 マー『お茶系とジュース系にすべき。甘いのかそうじゃないのかだけでも分かる。ホットとアイスもきさらが飲めるなら分けたほうがいい』


 ゆなちー『マーの気遣い力どんだけレベル高いん?そしてさり気ない情報収集力!』


 ゆきゆき『これがモテ戦闘力なのか!?なぜ浮気されたし』


 マー『二人目だった。真ちゃん癒やして、早くマーを口説いて』


 ゆなちー『モテ戦闘力と見る目は違うらしな。真ちゃん用だけど膝枕に来るか?』


 ゆきゆき『ぱふぱふは無料開放やぞ』


 マー『膝枕にする。明日に予約させて。ぱふぱふは敗北感しかないからいらん』


 ゆきゆき『なぜバレたし。真ちゃん用にぱふぱふ力上げとこ』


 ゆなちー『マッサージもブラも効果ないけど?どうやってるん?』


 ゆきゆき『えっ?夜食に辛子明太子焼きそば食べるだけで十分じゃん』


 マー『ありえんて、焼きそばよりきさら時間ヤバない?』


 きさら『ホット緑茶は決まった。イチゴオレとフ○○タオレンジで悩んでる』


 ゆきゆき『オレンジやろ』


 ゆなちー『オレンジが良くない?』


 きさら『なんで?』


 マー『サイズが一緒でたまたま持ってて違和感少ないし量の差で選ばれない、果汁炭酸系とお茶系で真ちゃんの好みが分かりやすい。きさら遅れるよ』


 きさら『ありがとう助かった』


『『『お礼はどうなったか教えてくれたらいい』』』


 きさら『またま近くにいたからだから、デートとかじゃないから!勘違いしないでよ』


 スマホをしまって会計してファミレスの裏口が見えるところに待機する。後10分であいつが来るかな。

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