第7話 小悪魔という名の悪魔3

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「そこの君たち、ちょっと良いかな?」

 イブリースの家までもう少しといったところで、俺たちは不意に声を掛けられて足を止めていた。普段ならば、不審な声掛けは無視して先に進むはずなのだが、声を掛けてきたのが警察官であれば歩みを止めざるを得ない。

「何ですか?」

「君たち学生さん?」

「そうですけど」

「この近辺で殺人事件が起きたって話は知っているかな?」

「え? この近くだったんですか?」

 どうやら、イブリースは事件現場を把握していなかったようだ。

 それで、どうやって事件を調べる気でいたのかは謎である。

「そうだよ。そこの丘の上の自然公園が事件現場なんだ。だから、僕らもこうして住民に目撃情報を聞き込んでいるのだけど、すまないけど昨日もこれぐらいの時間にこの辺りを通っていたりするかな?」

 警察官は手帳を片手に、俺たちの言葉を一言一句逃すまいと全神経を集中させている。

 だが、残念ながら俺たちはその期待に応える事は出来ない。

「俺はこの地区の人間じゃないので」

「ん? それじゃあ、何でこんな時間にこんな場所に?」

 職業病なのだろうか、質問を投げかけられる。

「この子が最近この辺に引っ越してきたらしいんですけど、地図が見れない、道が分からない、で案内役で家まで送っているところです」

「私は頑張って道覚えてます!」

「あぁ、うん、そう……」

 期待外れだったのか、警察官は備えていた手帳を閉じてしまう。

 気持ちは分かるけど、この人は感情を表に出し過ぎだと思う。

 警察官なら、もう少し腹芸も出来た方が良いんじゃないだろうか。

「ちなみに、そちらの女の子は昨日のこの時間帯は……」

「家で荷解きをしていました」

「うん、参考になったよ、ありがとう。じゃあ、二人共なるべく早く帰るんだよ? 暗くなると危ないからね」

 そう言って、その警察官は俺たちから離れていく。

 本当に、ちょっと話を聞きたかっただけのようだ。

 俺は少しだけ高鳴っていた心臓を押さえると長い溜息を吐き出す。

「何? 明日斗くん、緊張したの?」

「警察官に話しかけられて自然体でいられるほど豪胆じゃない」

 むしろ、警察官には苦手意識がある。

 見ている夢が夢なだけに……苦手だ。

「そういうものかな? それにしても、事件現場って近かったんだね。どうする? これから見に行っちゃう? あ、でも事件現場って一般市民とか入れないのかな?」

 刑事ドラマとかでは、事件があった場所を黄色と黒のテープで進入禁止にしているシーンがあったりするが、もしかしたら、あの公園がそういう状態になっている可能性は十二分にあるかもな。

(ただ、あれは鑑識などの邪魔をしない為の進入禁止だったと思うから、時間が経った今は入れるようになっている可能性はあると思う)

 どうする? 行ってみるか?

 だが、イブリースと一緒というのが不安材料なんだよな。

 個人的には一人で行きたいのだが。

「でも、あの警察の人にも早く帰りなさいって言われたしねぇ。今日はあの警察の人に免じて許してやろうか」

 何故だか偉そうなイブリース。何様だよ。

 どうやら、彼女の中では心の整理がついたようだ。

 俺はどうすべきか。

(やはり、もう一度来るのは手間だ)

 イブリースを送り届けた後で行ってみようとそう心に決めた。

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