Zahnradmädchen from Person≒Automata

ゴマ麦茶柱

プロローグ

「たっかっ」


『オートマタ』


 シンギュラリティが起きて以降開発された超高度なAIを搭載し、人間と全く同じ容姿で活動する機械の名。

 人によってはアンドロイドとかヒューマロイドとか呼んだりする。

 そんな機械達が今の在り方に近くなったのは二十年くらい前の話になる。前身というならもう百年以上前。

 ある時は戦争で使われ、ある時は娯楽で使われ、今も尚新しい姿、活用方法が生まれながら歴史は続いている。

 性能も年々良くなって、価格自体も年々下がり始めている。

 最近では不可能と言われていた〝心〟すらも試作段階プロトタイプにまで作り上げたメーカーがあるとかないとか…。

 昔から機械には心がないだとか作ることは不可能だとかの話は多くあったけど、それも古典的な物語となってきている。


「これでも安い方なんだけどなぁ」

 おっさんのが不機嫌そうにそう言う。これは言動によって相手の感情を予測してそれに相応しい態度や言動をするというプログラムでそうなっている。

 これと同じプログラムで動いているのであれば他のオートマタでも同じような態度と言動をするだろう。口調は性格プログラムや口調プログラムに由来するからそれはまた別。

 つまり、さっきのおっさんに〝心〟はない。

「もぉ~…ちょっとだけ安くできないすか?」

 溜めに溜めて言ってみた。

「これ以上は無理だ。無理なら帰んな」

 当然、〝心〟は無いから同情も優しさもクソも無い。値下げできる限界まで値下げしたらそれ以上は下げない。それだけだ。

「ちぇ~」

 結局、店を後にした。高すぎるのだ。

 そもそもの高くなる基準は、性能というのももちろんあるのだが、今一番求められているのは容姿だ。

 生活に利用するという事において、性能については別に大量生産品でも事足りる。むしろ性能が良くて価格も低い大量生産品はとんでもない人気を博した。

 そうなると今度重要視されてきたのは容姿だ。

 今は顔も一部の大量生産品や製造元がテキトーな会社でなければ、同じ顔は一つとしていない。オリジナルなのだ。しかも、オリジナルは美顔が多い。

 やっぱり、オリジナルの方がオンリーワン感というか特別感が出て良いじゃん。あと、たまたま一緒に外歩いてたら自分のオートマタと同じ顔のオートマタにばったり会って萎えるみたいなことも無いし。

 で、絶賛、今、ほんっとちょうど、ドタイプの女の子を買い損ねた…。

 あそこまでかわいいのは中々出回らないだろうな。今思うと、多少無理してでも買えばよかった。


「アンドロイドにも人権を!」


 お~やってるやってる。

 オートマタが普及した今、現環境に異議を唱えるやつらもいる。

 オートマタにも人権を!とかオートマタにもっと適切な環境作りを!だとかその辺か。その辺を法律だとか条令とかで整備しろというのだ。

 けど、現状はそう主張しているだけで何も起こってない。

 確かに法律とかはあるにはある。そもそも人に攻撃できないようなプログラムをさせるようにしたり、犯罪とか違法改造については法律が作られてるし、メーカー側もパワーや行動、判断能力等においてのリミッターを付けているがそれくらいの人間に対して危害が加えられないように安全面が整備されてるだけ。オートマタがどんな環境にいようがそれはルールの範囲外なのだ。

 皆、共通の認識で暗黙の了解だが言ってしまえば、オートマタはほぼ奴隷に近い。

 性的なことをさせようと、恋愛対象にしようと、家事育児させようと、どういった環境に置こうが合法ならば個人の自由なのだ。

 それに第一、


 オートマタに〝心〟はない。


 環境が不十分だと感じても不快には思わない。不快に思ってるような態度を表に出したとしても、それは本心ではない。状況を読み取ったらそう反応するようにするプログラムによってさせられてるだけだ。

 だから別に環境を整える必要はあまりないし、オートマタの待遇だとかのルールを整備する理由もない。彼らがそんなオートマタ達を可愛そうと思っているだけ。

「おっと」

 ぶつかりそうになったオートマタを寸でのところで避ける。

 あまり考え事にふけるのも良くないな。

「スイマセン」

 軽く頭を下げて、去っていった。

 珍しい。旧型のオートマタだ。しかも結構古い。あんなの実用で使ってる人まだいるんだ。

 …にしてもあの旧型、ジャンク街から出て来たよな。

 暗く汚く、名前の通りほぼジャンクを取り扱っている店が多いジャンク街。

 以外にも、繁華街の目立つ場所にあるアーケードを通ればもうそこは、人によっては古き良き哀愁漂うメカに感動し、人によっては他人には言えないような事情で手放さなきゃいけなくなった故の助け舟を求めているという場所になる。

 あ~…そうか。ジャンク街にもあるかも。訳ありの新中古品があるかもしれないし。

 わずかな可能性に賭けてジャンク街に足を踏み込んだ。

 やはり、皆が皆さっきみたいな旧型というわけでは無さそうだが、少し前の型はいつもより多く見る。

 チップ、ボディ…ヘッド専門店。一から自分で作ろうとしたり、修理するためのパーツを買いに来る人が多いからやっぱりそこら辺は分かれている。けど、今日は完成品を求めてるから用はない。

 えーっと…完成体置いてる店は…ここかな。あー…旧型がいっぱい…期待はあまりしないでおこう…。

「いらっしゃい」

 まあまあ店内にまで聞こえるくらいの声量で話していた店主らしき人が店の奥にいた。

 恐らく隣の店の者と話しているのだろう。チラッと見た際にエプロンに隣の店の名前が書いてあった。

 店の中を見て回る。店先にもあった同型のオートマタが店内にも多く置かれていた。

「旧型を探してるのかい?」

 急に話しかけられたものだからびっくりした。

「あ、いえ」

 そう言うとおばさん店主は少し考えて、若干ニヤけて言った。

「そうかい。じゃあ…なんだい?女の子かい?」

「あ~…まぁ、そんなところです」

 いざ人にそう言われると恥ずかしい。

「そうかい。でも、うちは一つしか置いてないんだよねぇ。せっかく来てくれたところ悪いけど…見るかい?」

「見せてください」

 ジャンク街にあったこと自体奇跡なわけだし、見ないわけにはいかない。旧型かもしれないけど。

「こっちにあるからおいで」

 店主は、あいたたた…と腰に手を当てて、立ち上がり先導する。案内された先はどうやら店の裏兼自宅のようだ。

 部屋の隅に布がかけられた何かがある。恐らくこれが…けど、一体のオートマタにしてはデカすぎる…。

「これなんだけどね」

 かけられた布を取ると、そこには独特な柄をした上着を着た二体のオートマタが互いに寄り添うようにして座って寝ていた。


 ―目をつむり息こそしてないが静かに眠っている、まるで人間のような表情。


 ―肌は白く自分と同じかちょっと大きめ身長の、まるで人間のような体。


 ―そしてその体に華奢でやはり白いまるで人間のような足と腕。

 

 ―桃色の髪の方はさらっとした優しい色合いで、金髪の方は派手ながらも吸い込まれそうなくらい綺麗でつやつやなまるで人間のような髪。


 そしてなにより、この顔。

 童顏ながらも大人びていて、まだ眠っている表情しか見れていないがかわいすぎる。

 さっきのオートマタなんか比にならないレベルだ。


「これしかないねぇ」

「こ、これ、どこのメーカーのですか?」

 かわいさはともかく、こんなに美しく感じるオートマタなんてそうそう無い。

「あ~…それがわからないんだよね。説明書…みたいなのはあるんだけどね」

 ……メーカーがわからない?どういうことだ。

 店主はオートマタの膝の下から紙を取り出して、俺に渡す。

 俺にはそれがただの紙の切れ端にしか見えなかった。そこに乱雑に文字が書き殴ってあるのみ。

「一枚だけなんですか?」

「あぁ」

 オートマタは二体、それに対して説明書らしいが圧倒的に情報量が少ない紙の切れ端が一枚。せめてもう少し分厚い書面か二枚目の、それもA4サイズくらいの説明書が欲しい。

 無いものねだりしても仕方ないのはわかる。けど、けれども、メーカーはおろか禁止事項と起動方法しか載っていないのは異常にも程がある。どういうことだ…?

「どこで手に入れたんですか?」

「これねぇ、店の裏口に置いてあったんだよ」

「…やばい系ですか?」

 そうか。忘れかけていたががここはジャンク街だ。ヤバイブツの十個や百個はざらにある。

「傷も修理した後も無かったからそれは無いと思うけどねぇ。説明書もあるしねぇ」

 でも、あえて他の店を進めたのはそういう理由もあるんじゃないか…?てか、これ説明書なのか。

「どっちにしても、うちは旧型メインで扱ってる店だからこういうのは売れないんだよ。客も常連とその連れしか来ない。その常連も連れもこういうタイプには興味ない。売れないんだよ…で、兄ちゃん引き取ってくれないかい?」

「え、良いんですか?」

「売れないしね」

 少しだけ考えた。

「じゃあ…」

「決まりだね」


 まったく想像つかない形でオートマタが手に入った。しかもこんなにかわいい子が二体も。

 けど…本当に大丈夫なのだろうか。

 まだ不安というか怖いというか、そんな要素はあった。けど、本人を目の前にするとそれもどうでも良くなってきてしまう。

 それ程までにかわいいのだ。今、買わなかったら後悔する。なら…

「いっか」

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