第2話Msフルスイング

 プレイボール。

 さあ、始まりました。


 とあるマンションの一室にて試合は開始されています。


 かたや、傘立てに浮気相手の傘を置き忘れていたうっかり八兵衛も驚きの傘男。

 対するは、見知らぬ女物の傘に表情がみるみる消えていく傘男のカノジョとなっております。


 実況はわたくし、オレンジ色の浮気相手の傘こと、アンブレラ伊藤がお送り致します。


 本日はグラウンドの状況はどうでしょう。

 カノジョが来ると言うこともありましてグリーンの状況とても良好に思えます。


 前日までの散らかりようが嘘のように綺麗になってますね。

 しばらく雨が続いたせいか、洗濯物が部屋干しされているのが目につきますが、それ以外はとても片付いている様子です。


 さて、試合の方に戻りましょう。


 只今の状況は、傘が発見された後のカノジョの無表情が牽制しています。

 傘男の方は手に汗を握り、"この前の宅飲みの時、誰かが置いていっちゃったものでさ。"と言い逃れをしたい様子。


 全ての言葉を話終わるか終わらないかのところでカノジョの口からは"そう、お楽しみだったのね。"と永久凍土が飛び出しましたー!

 軽く傘に手を伸ばし、掴みあげると無表情からの高笑いが始まり"まあ、中で話でもしないか。"という傘男の言葉にまた無表情に戻るカノジョ。


 "する訳ないじゃない。誰がこの部屋掃除したのかな?"と言い放たれた言葉は空気を切り裂き、静寂を作り出しています。

 傘男の表情がみるみる青ざめて行くと、苦し紛れの常套句でゆるゆると、言葉のキャッチボールを始める事になりそうです。


 しかし、そんなキャッチボールをする気はないとばかりにカノジョの


───ねぇ、じゃあなんで首元赤いの。


 と痛恨の一撃が叩き込まれましたー!


 最初から見透かされていた事態に傘男、思考が完全に停止しています。

 半開きの口がとても滑稽です。


 部屋の中では暖房の風が歓声を贈っています。


 場の空気も温まってきて、いよいよ試合も終盤に差し掛かってきました。


 ここで再度選手の紹介に移らせて頂きます。


 バッター、傘男のカノジョ選手。キレのある鋭い口調が持ち味の選手となっております。

 先程のプレイでは、傘男のぬるいボールが来るまで待てる我慢強さを発揮しましたねー。


 今日は雨天でのプレイでしたが、自分で持ってきた折り畳み傘を畳んで置いてます。

 成績としましては好調な打率を打ち出しています。


 今、暖房の歓声と共に靴を脱いでバッターボックスに入りました。

 手に持っているのはオレンジ色の傘です。


 とてもいい笑みを浮かべています。


 1打目。

 捉えたと思いましたが、それは靴箱でした。


 比較的前年度から比べてスイングの方のアプローチを改良したようです。

 今シーズンも活躍が期待できます。


 2打目です。

 上手く捉えたと思いましたが、ファールボールになってしまいました。


 タイミングは合ってきています。

 そろそろ次で捉えたいところです。


 さて、3打目は大きく振りかぶって、そのままフルスイング。

 決め手の一打をリビングに放ちました!


 傘男の頭に直撃です!

 サヨナラホームランです!


 ゲームセット!

 傘男のカノジョ選手、鳴り止まない歓声を一身に浴びて立ち去っていきます。


 では、本日の実況はこれにて失礼させて頂きます。

 実況はアンブレラ伊藤がお送り致しました。


 次回はわたくしが折れてしまったので、今、流行りの転生物でまたお会いしましょう。

 シーユーネクストタイム。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る