第27話 はじめての学食

「つ、疲れたぁ」

「おい、大丈夫か? ルイス」


 昼休みになり、机の上にひれ伏した形でいるルイスに対し、アランが声を掛けてきた。2時限目はその前の穏やかな時間とは異なり、今まで行ってきた走り込みなど、激しい運動を要するものとなっていた。元々体力のないルイスはその厳しい授業内容に置いていかれないようにするのが精一杯で疲れ果てていた。


「ずっとこうしていると、昼休みが終わってしまうぞ。お腹の空いた状態で午後の授業を受ける訳にも行かないだろ? 昼飯行くぞ」

「そっ、そうだね」


 アランの言うとおり、空腹のまま午後の授業など受けてしまうと、ルイスはお腹が鳴って恥ずかしい思いをしてしまうので、それは避けるべきであった。


「時間が勿体ないし、今日は学食でも行くか」

「そう言えば、行ったことがなかったね。行ってみようか」


 アランの提案で今日のお昼は学食で済ますことにした。



「すっげー人だな」

「確かに。上級生の姿も見えるね」


 学食に着いたアランとルイスは、学食内は広さがそれなりにあるのにもかかわらず、人との間隔が狭くなっていて人の多さに驚いていた。水色の制服を着た同じ1年の他に、黄緑色の2年、そして最上級生である灰色の制服を着た3年の姿も確認できた。


「取りあえず並ぶか」

「そうだね」


 学食はセルフサービスとなっている。ルイス達の住む寮と同じ形式で、カウンターで注文して受け取り、それを開いているテーブル席で食べて、食べ終わった食器は返却口に戻す。寮と異なることは、ここで提供される食事は自分で品目を選ぶことができるが、無料ではなく有料であることだ。注文時に合わせてお金を支払わなくてはならない。ルイスはカウンターの上に掲示されているメニューから何を選ぼうか考えていた。


「アランは決まった?」

「俺かい? もう決まってるぞ」


 既にアランは何を注文するか決めているようだ。ルイスが悩んでいる間に列が進み、気が付くと注文カウンターの前にやってきていた。


「おや、ルイス。あんた今日は学食かい?」

「えっ? アンナさん」

「昼食時の学食は混み合って忙しいからね。寮母の私達はこの時間だけ手伝ってるんだ。ほら、奥には2年と3年の寮を担当しているものもいるよ」


 注文カウンターにいたのは1年寮の寮母アンナであった。驚いた様子のルイスを見て、学食が忙しいこの時間帯は手伝いをしていると説明をした。そして奥で作業をする他の学年を担当する寮母を指差したが、複数人が作業をしているところを指差されても、面識がない人なので誰を指しているのかルイスにはわからなかった。


「アンナさん、俺、日替わり」

「あいよ。ルイスは何にする?」

「じゃあ僕も同じものを」

「あいよ」


 アランが先に注文をしたので、何にしようか悩んでいたが、同じものを注文することにした。代金を支払い、受け取りカウンターで日替わり定食を受け取り、空いた席に座った。


「飯、飯っ」

「アラン、そんなに急いで食べると喉に詰まらすぞ」

「ん! んぐぐっ」

「ほら、お水」

「んんっ、んんっ。ぷふぁ~ルイス、助かったよ」


 食べ物を喉に詰まらせたアランに対し、ルイスは水の入ったコップを渡した。そしてそれを飲んで喉のつまりを取ったアランはルイスに礼を言った。


「となり失礼するよ。それにしてもアランとルイスって息がぴったりだな。まるで夫婦みたいだったよ」

「ふっ、夫婦だなんて。ぼっ僕は男だぞ」

「ルイス、何顔を赤くして言っているんだ? ものの例えだろ?」


 ルイスの隣にニコラスが座った。そして2人のやり取りを暖かく見守るように言うと、ルイスは急に恥ずかしくなってしまった。その様子を見たアランがニコラスが言っていることは冗談だと伝えたが、妙に意識してしまいルイスは顔の火照りがなかなか収まらなかった。


「わっ、わかってるって」


 ルイスは自分の思っていることをアランとニコラスに悟られないように、慌てて答えた。


「ルイス、今日は学校が終わってから暇か?」

「うーん。人と会う約束をしているんだ」


 アランがルイスに放課後の予定を聞いてきた。約束した訳ではないが、昨日マロンから歌を教えてほしいと頼まれていた。性格は少々難ありだが、彼女の歌に向ける情熱は本物であることをルイスは理解していた。念のため予定は空けておいた方が良いと判断し、アランにそう伝えた。


「もしかして彼女かな?」

「るっ、ルイス。お前、彼女いるのか?」

「いや、彼女という訳ではないけど・・・」


 ニコラスが茶化すように言うと、アランが興味を持ったようで詳しく教えるようにと迫った。


「でも、その言い方からすると相手は女性だな。くーっ羨ましいっ。そいつ可愛いのか? おい、ルイス、詳しく教えろよ」


 相手の女性に対し興味を持ったアランがしつこくルイスに聞いてきた。


「可愛いと言えば、その部類に入るかな」


(相手はアランが嫌っていたメイドだけどね)


 ルイスは内心そう思ったが、それを話してしまうと、知り合った経緯など聞かれて思わずボロを出してしまいかねないと警戒し、見た目だけの話をアランにした。


「まあ、まあ、アラン。この様子だとそこまで進展している感じではなさそうだよ。紹介して貰えるまで気長に待つのが友達って言うもんだよ」

「そっ、そうだな。もし付き合うようになったら、俺たちにも紹介してくれ、あわよくば彼女の友達を紹介して貰えれば最高だな。ニコラスもそう思うだろ?」

「ぼっ、僕かい? 僕は女性と付き合うなんて考えたこともないよ」


 アランを宥めたニコラスであったが、急にアランの矛先がニコラスの方を向き、彼は焦っていた。


「もしかして、ニコラスは女性が苦手なのか?」

「うーん。女性の前だと妙に意識してしまって緊張するんだ。それに何を話して良いのかわからないし、それなら男同士でつるんでいる方が気が楽だよ」


 アランがニコラスに尋ねると、彼はそう答えた。


「よし、働き口ができてお金が入ったら、みんなでヤオイオアシスに行こう。その頃になればあの態度の悪いメイドも改心しているか、辞めているだろう。ルイス、お前も来るだろ?」

「えっ? 僕はちょっと・・・」


 アランは再びヤオイオアシスに行く計画を立てているようだ。ルイスは自分の職場なので客としていくのは少々気が引けた。もし働いているところにアランが来てしまうと変装して仕事をしているがバレる可能性もある。ルイスはどのように行動すれば良いのか悩んだ。


「ニコラスは決定な。ルイスはバイトもあるし、可能なら付き合ってくれよ」

「ああ、わかった」


 とりあえず今回は保留ということで、ルイスが同行するかについては先延ばしになった。それから、雑談をしながら3人は食事を終えて、食器を返却カウンターに戻して教室に移動した。



「午後からは座学かぁ。俺は体を動かしていた方が良いけどなぁ。間違いなく寝られる自信があるぞ」

「いや、授業中寝たらダメだろ」


 教室に戻ったが、午後の授業開始まで少々時間があった。アランとルイスはその時間を使用して雑談をしていた。


「そう言えばルイスは農科と工科の授業中はいつも真面目に聞いているな。興味あるのか?」

「ん? まあね。僕の知らない知識だからとても興味あるよ」


 商科に関しては、現在の授業内容は幼い頃に既に習ったことを改めて学習する形になっているので、ザマス先生・・・シルビアには悪い気持ちはするが、手を抜かせて貰っている。だが、農科と工科の授業については、将来的に役立つ可能性もあると考え、ルイスは真面目に授業を受けていた。


「もの好きなんだな。おっと、そろそろ授業が始まる時間だ。また後でな」

「ああ、アラン。寝るなよ」

「それは保証できない。ワハハハハ」


 授業開始の時間が迫り、アランは自分の席に戻っていった。そして午後の授業が始まった。



「ふぁ~よく寝た」

「本当に寝てたんだ」


 午後の授業とホームルームが終わり、放課後を迎えた。アランはあくびをしながらルイスに話しかけてきた。彼のスッキリとした表情をみて、アランは授業中居眠りをしていたという確信が持てた。


「取りあえず、部屋に戻ろうぜ。ニコラス、着替えたら寮の前で集合な」

「やっぱり行かなきゃダメ?」

「当たり前だ。メイドさんと仲良くする為にも、働き口をみつけないといけないぞ」


 当初の目的から逸れてしまっているアランであった。



「じゃあ俺は行ってくるよ」

「ああ、良い働き口が見つかるのを祈っているよ」


 自分の部屋に戻り、着替えを終えたアランは働き口を探す為に街へ出ていった。


「さて、僕も行ってみようかな」


 ルイスも寮を出て職場であるヤオイオアシスに向けて移動を始めた。

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