第2話 寮生活の始まり

「えっと、これは、この引き出しで・・・。替えの服と下着はクローゼットにっと」


 ルイスはこの日のために用意した物を次々に収納場所に入れた。ここに来るまでは見つからないように行動していたため、ルイスの荷物は隣のアランほど多くはなかった。


「ルイス、俺の作業は終わったから手伝おうか?」

「僕の荷物は少ないから大丈夫だよ」

「本当だな。俺なんか大きなカバン2つに詰め込んで持ってきたけど、ルイスはカバン1つなんだな」


 アランのベッドの上には空になった大きなカバンが2つ置いてあった。それに対しルイスはそれよりも一回り小さいカバン1つであった。王都を出る際に見つからないようにするために荷物は最小限度に抑えたためで、足りない物はこの街で調達しようと考えていた。


「いろいろあってね。残りは街で調達するつもりなんだ」

「もしかしてルイスの家は裕福なのかい? 持ってきている物も全て未使用品のようだし。俺の家なんて貧乏だからさ、いろいろなところを回って使わなくなった物をかき集めたんだ」

「裕福・・・と言う訳ではないよ? 多分」


(ごめん、嘘ついた)


 実は私、王女なんです。などと言える訳もなく、ルイスは言葉を濁した。


「まあ、この学園に来るのはいろいろ曰く付きの者が多いからな。余り家庭のことを詮索するのは良くないな。すまなかった」

「気にしなくても良いよ」


 ルイスは曰く付きと言う言葉が気になったが、素直にアランの謝罪を受け入れた。


「確か、明日が1日休みで、明後日から学園が始まるんだよね?」

「ああ、そうだな。俺、勉強苦手だから、本当は余り来たくはなかったんだ。だけど、ここは領主様の好意で学費無料だろ? 俺みたいに、タダで勉強できるからって言う理由で放り込まれる者が多いんだ」

「ここって学費無料だったの?」

「ルイス、そんなことも知らないでここに来たのか? さてはハメられたな。おっと家庭のことは詮索するんじゃなかったな。すまんすまん」


 この学園に入るためにルイスは多額のお金を使用した。だが、学費が無料だと聞いて、入学する際に必要だと言われて用意したお金は、どこに消えたのだろうと疑問に思った。


「アランはここの出身?」

「ああ、生まれも育ちもヤオイシュタットだ。ルイスは他の街から来た感じだな」

「僕は王都から来たんだ」

「ほぇ~王都か。そりゃまた凄いところから来たもんだな。学校なんかあちらにはたくさんあるのに、こんな辺境に来るなんて物好きなんだな」


 アランは珍しい物を見るかのような表情をして、ルイスに言った。


「男子校に行きたかったんだ」

「もしかして、ルイスは女性が苦手なのか?」

「そうでもないけど」


 素直に理由を話したルイスであったが、アランは別の理由にとらえたようであった。


「まあ、まあ、ルイスみたいな美男にはたくさんの女性が寄ってくるんだろうな。きっとそれが嫌になったんだな。羨ましい限りだな」

「羨ましいって勝手に決めつけないでくれないか? アランはどうなんだ? もしかして女性が苦手とか?」

「俺かい? 俺は女性にすごく興味があるぞ。でもな、自慢じゃないが、今まで女性と付き合ったことはないし、言い寄られたこともないぞ」


 アランは自慢するように言った。ルイスの見た感じではアランの容姿は決して悪くなく、恋愛対象と見るより、どちらかというと、友人としての立ち位置の方がしっくりくる感じだとルイスは思った。


「アランにいい人が見つかるように、僕も祈ってるよ」

「ありがとよ。そう言う人が現れたら真っ先にルイスに報告するよ」


 本気か冗談かわからない口調でアランが言った。




「夕食の時間だな」


 しばらくルイスはアランと話をして過ごしていた。そして夕食の時間を知らせる鐘が鳴った。


「飯、飯つ、ルイス、行くぞ」

「おっ、おう」


 アランの言動から、この時間を凄く楽しみにしているのだと言うことがルイスにもわかった。部屋を出ると、同じように食堂に向かう同級生達が廊下を歩いていた。当然のことながら、同年代の男の子ばかりだ。その環境に少し興奮しつつ、ルイスは食堂に向かった。



「来た者から空いた席に座りな」


 食堂に着くと寮母のアンナが大きな声を出していた。広い食堂には長テーブルが3つ置かれていて、それを10人ずつが向き合って座るようになっていた。既に半数程度の席が埋まっていて、ルイスは端の席に座り、その隣にはアランが座った。


(うわぁ男の子がいっぱいだ)


 見渡す限り、同年代の男しかいないので、少しテンションが上がったルイスであった。



「みんな揃ったようだね。改めて自己紹介をするよ。私はこの寮の寮母を務めているアンナっていうもんだ。これから3年間よろしく頼むよ」


 全員が揃ったところでアンナが改めて自己紹介をした。


「それじゃ、まずは寮での生活について説明するよ・・・」


 アンナが寮生活の説明を始めた。起床、朝食、登下校、門限、夕食、入浴、就寝、そして休日の過ごし方など順を追って説明した。空いている時間は自由時間として門限までなら自由に街へ出てもかまわないようだ。学費は無料であるが、それ以外でもお金がかかるため、金銭的に苦しい者は、その時間でバイトに出ることも可能らしい。昼食については寮での提供は行われず、各自で用意する必要があるようだ。


「・・・というのが全体的な流れだ。次に食事だが、基本的に前のカウンターで受け取り、各席に持っていって食べてくれ。食べ終わったら返却カウンターに必ず戻すようにな。テーブルの上に食べ終わった食器などを、置きっぱなしにしないように十分気をつけな」


 次に食事方法についてアンナから説明があった。


「あと、明日は制服の準備をするから、昼前後の空いた時間で食堂に顔を出してくれな」


 最後にアンナは翌日の予定について話をした。


「それじゃ順番にカウンターに夕食を取りにきな」


 そう言ってアンナは配膳カウンターの奥に入り、準備を始めた。


「この場合、1度に全員で行くと混み合うよね? 少し間を置いた方が良いのかな?」

「いや、この場合は必勝だ! いくぞ! ルイス」

「おっ、おう」


 配膳カウンターに一番近い場所にいたルイスとアランは、他の人が行動を始める前に動き出し、先手を取った。


「おや、一番乗りはルイスかい。見かけによらず食いしん坊なんだね。それじゃ御褒美にっ、たんと食いな」

「うはぁ」


 一番初めに並んだルイスの顔を見て、柔やかな顔になったアンナは、大盛りの肉炒めがトレイに乗った夕食を渡した。


(こんなに食べられるかな)


 ルイスは大量に盛られた肉炒めを見ながら、冷や汗を掻いた。


「うわ、ルイスだけズルイ。アンナさん、俺にも大盛りで」

「あれは一番乗りのサービスだ。後の者は普通盛りで我慢しなっ」

「そりゃないよぉ」


 アランの皿にはルイスと比べて半分くらいの量になった肉炒めが載っていた。ガッカリした表情でアランは夕食を受け取った。



「ふ~、なんとか食べられた」

「ルイス、なかなか良いお腹になったじゃないか。まるで子供でもいるみたいだな。ははは」

「ひゃうっ」


 さすがに初日でお残しは良くないと思ったルイスは、頑張って夕食を完食した。おかげでお腹がパンパンに膨れてしまっていた。それをからかうようにアランがルイスのお腹をポンポンと軽く叩いた。


(わっ、私のお腹に触られた。どっ、どうしよう。へっ、平常心、平常心)


 いきなりのことで驚いたルイスは、平常心を保つことに全力集中した。

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