第42話 初デート ~ ヨーデルとミーシャ ~ 4/4

 ・・・・はっ。

 ごきげんよう。いらしてくださって嬉しいですわ。

 え?

 いえ、少し考え事を。

 こうして両王国の行く末を見守る事が、私の務めでもあり楽しみでもあるというのに、何故でしょう。

 近頃は寂しさを覚える事も多くなりまして。

 気候のせい、でしょうかね?

 気温が下がると、気分も沈みがちになるようですし。


 さて。

 それでは、『反省会』のお話でもいたしましょうか。



 ※※※※※※※※※※


 ギャグ王国城内、ユウの執務室。

 デスクに座って必死に執務をこなすユウの周りにいるのは、カーク、ヨーデル、ミーシャに加えて、ヒスイにエト

 ヨーデルとミーシャが結界の外に出たという情報を聞きつけたユウは、胸騒ぎを覚えて兄のカークと共に2人の元へ駆けつけるべく、影に執務代行を頼んでいたのだが、そのことをすっかり忘れ、ミーシャを連れたまま、他の2人と共に執務室へ戻ってしまったのだ。

 そしてそこには影を訪ねて来た先客、ヒスイがいた。

 故に今、ユウは5人に囲まれる形で、執務に追われる事となっていた。


「あーもうっ、全然終わらないよっ!」

「今までフラフラと遊び歩いていたツケです。文句を言う暇があるなら手をお動かしくださいませ」


 厳しい言葉を掛けながらも、ミーシャは淹れたての温かい紅茶をそっと、ユウのデスクの端に置く。


「しかし、お前に影がいたとはな。確かにソックリだ。これじゃパッと見、見分けがつかねぇわ」

「私はてっきり、二重人格だとばかり思っていました。時折驚くほどに紳士的だったのは、こちらの方でしたか。なるほど、納得です」


 ユウ王子の影の存在を初めて知る事となったヨーデルとミーシャはそれぞれに異なる反応を見せたが、ヒスイはドヤドヤと執務室になだれ込んできた4人の姿に興味深々と言った様子。


「で、これはなんの騒ぎ?結界の外で何かあったの?」

「ていうか、ヒスイって影の事知ってたのか?いつから?」

「それはまぁ、あとで。ねぇ、一体何があったの?」


 2人のユウ王子の姿を見てもさして驚きもしないヒスイに怪訝な顔を向けるカークの疑問をサラリと流すと、ヒスイは尋ねた。


「結界の外で、火の精霊を?・・・・それは、マズイね」

「えっ?なにが?」


 事の詳細を聞き終えたヒスイの呟きに、カークが聞き返す。


「考えてもみてよ。僕らの王国は、結界の外の国から隔絶された存在なんだよ。記憶の操作によって、存在すらしない国になってるはずだ。なぜならこの国には、汚れた魂を持つ人間達の格好の餌食となる、人ならざる力を持っている人たちが暮らしているから。だからこそ、結界の外では、結界師の力みたいな地味なものならまだしも、火の精霊のような派手な力は使ってはいけないんだよ」

「ヒスイ、なんでお前、それ知って・・・・」

「うん。それって、僕ら王族と一部の人にしか知らされていない話のはずだよね。なんでヒスイが知ってるの?」

「・・・・あのっ、私は席を外した方が」

「いいよ、ミーシャ、ここにいて。母親を失ったキミにも聞く権利はある。まぁ、すぐに忘れることになるとは思うけど」


 首を傾げるミーシャに構わず、ヒスイは続ける。


「影は、エトはもう記憶を取り戻しているよ。彼の本当の名前、エトワール。彼の母親は、リアラ王妃の双子の姉。記憶師の力を持っていた。父親は時間師の力を。彼の両親はね、その力を王国を守るために使い、命を落としたんだ。ふたりとも、とっくに王国から離れて暮らしていたというのに。そしてひとり残されたエトは、母親に記憶を封じられてマイケル国王に託された。ひとりで悲しみに暮れることが無いように。そして、記憶を取り戻した彼は、時間師の力も記憶師の力も、両親から受け継いでいる」

「待て待て待て待て。影の記憶が戻った?エトワール?そんな話は聞いてない。それに、時間師も記憶師も、王室管理の力のはずだぞ?確か今、この両王国には、どちらの力も存在しないはず・・・・」


 カークの言葉に小さく笑うと、ヒスイは言った。


「そうだね。マイケル国王だけはおそらく、記憶を取り戻せばエトが時間師の力も取り戻すことはご存じのはず。ああ、エトの本当の名前もご存知のはずだよ。だけど。記憶師であることはご存じないだろうね。突然の発現だったから。だから・・・・エト、頼んだよ」


 ヒスイの言葉に、エトワールは目を閉じると両手を胸の前で組んだ。

 とたん。

 カークとミーシャが、その場に崩れ落ちる。


「おいっ、ミーシャっ?!」

「兄さんっ?!」

「大丈夫。ちょっと眠って貰っただけ。あぁ、記憶は操作させてもらったけどね。目覚めたカークは、僕がエトを知っている事を知らないし、目覚めたミーシャはこの両王国の真実については何も知らない」

「お前・・・・何を企んでるんだ?」


 倒れたミーシャを抱き上げ、ソファへ横たえると、それまで黙って事の成り行きを見守っていたヨーデルが、鋭い目をヒスイへと向ける。


「僕はね」


 その目を正面から受け止め、ヒスイは笑った。


「ただ、この国をあるべき姿に戻したいだけなんだ。だから、あなたにも協力してもらうよ、ヨーデル」

「・・・・協力?」

「それにしても」


 ソファで眠るミーシャを眺め、ヒスイは大きなため息を吐く。


「だから言ったでしょう?こんな重荷を背負わせたら、ミーシャが可哀想だって。今回の件は、ユウにも原因があるよ。少しは反省しないと」

「あ・・・・うん」


 倒れた兄を抱き起すユウは、頭の整理がついていないのか、視点の定まらない目をヒスイへと向ける。


「確かに、な。この国は平和過ぎる。他の国なら、女がこんなものを付けて歩いていたら、どうぞ襲ってくださいと旗を掲げているようなもんだからな」


 ユウが抱き起したカークを抱え上げ、もう一方のソファに寝かせながら、ヨーデルもため息を吐く。


「まぁでも、コイツはコイツなりに、覚悟の上で預かってるみたいぞ」

「え?」

「『あんなどこぞの馬の骨とも分からん阿呆どもにくれてやることはできません』だとさ」

「ミャー・・・・ありがとう」


 いつものようにミャーを抱きしめようとしたユウの手が、ヨーデルに止められる。


「いい加減にベタつくのはやめろ」

「・・・・あれっ?カテキョ、もしかしてヤキモチっ?!」

「ばっ・・・・セクハラだって言ってんだっ!」

「まぁまぁ、ふたりとも仲良くして。これから数少ない仲間になってもらうんだから、さ」

「「仲間?」」


 きっちり同時に発声されたふたつの声に、ヒスイは満足そうな笑みを浮かべた。



 ※※※※※※※※※※


 ヨーデル様とミーシャの『デートの反省会』が、なにやら思わぬ話になってしまったようですわね。

『この国をあるべき姿に戻したい』という、ヒスイ様の真意が、私には分かりかねております。

 そしてどうやら、ユウ王子もヨーデル様も、おそらくはエトワール様も、ヒスイ様の『お仲間』となるのでしょう。

 一体ヒスイ様は、何を考えておいでなのでしょうか・・・・

 私にできることは、ただ見守ることのみ。それが歯がゆくてならないのです。

 ですがもし。

 ヒスイ様があなただけに何か相談されるような事がありましたら。

 どうぞ、私の事は気になさらずに、あなた自身のお考えを、ヒスイ様にお伝えくださいね。

 私は信じておりますのよ。

 ヒスイ様のことも・・・・あなたの事も。


 ああ、また長くなってしまいましたね。

 それでは、また。

 ごきげんよう。

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