第24話 カーク王子・ユウ王子とミーシャ 1/3 ~出会い~ 

ごきげんよう。

先日は、ごめんなさいね。

せっかくいらしてくださったというのに、不在にしておりまして。

ええ、ヒスイ様から伺いましたわ。

ヒスイ様もすっかり、あなたのことをお気に召したようでしたわよ、ふふふ。


それにしても、あのヴォルムがヒスイ様と契約など・・・・一体何を考えているのだか。


あ、いえ、こちらのお話です。お気になさらないでくださいませ。


さて、今日は何をお話ししましょうか。

そうですわ、ギャグ王国のメイドと王子たちの出会いのお話をいたしましょう。

重たいお話が続いてしまいましたので、今回は明るいお話を。

可愛らしいお話ですので、どうぞ気を楽にしてお聞きくださいね。


※※※※※※※※※※


「あーもうっ、あのクソッたれ王子っ!なんだっていっつもこんなにとっ散らかしてるのよっ!」


第一王子カークの私室の掃除をしながら、ミーシャは1人毒づいた。

毎日掃除をしているにも関わらず、カークの私室は翌日になると驚くほどに散らかっている。


脱いだ服は脱ぎっぱなし。

使ったペンは置きっぱなし。

飲みかけの水の入ったコップは、何故だか本棚の中に置きっぱなし。

そして、読みかけと思われる本は、こちらも何故だか、クローゼットの中に入っている。


極めつけは。


床に散らばった、書き損じの紙くずの山。

傍らのゴミ箱は、空のままだ。


「ゴミくらい、ゴミ箱に捨てろってーのっ!」


まずはゴミ捨て。

次に部屋の片づけ。

それからようやく、掃除を始め。

ミーシャは棚の上に置かれていたカレンダーに目をやった。


(あ・・・・今日、だったんだ)


それは、ミーシャが母と別れた日。

突然降りかかった途方もない厄災からこの王国を守るため、そしてミーシャを守るため。

ミーシャの母は結界師の力を王国へ捧げた。

父を早くに失い、7歳で母と共にギャグ王国の王室のメイドとして城に入ったミーシャは、9歳で母と別れ独りぼっちになってしまった。

そしてその同じ日。

ある2人の兄弟に出会ったのだった。


-8年前-


「お母さん・・・・お母さん・・・・」


城内の庭園、よく母親と休みの日に散歩をした際に休憩をしたベンチで、ミーシャは1人泣いていた。

肩口で切りそろえられたミルクティー色のサラサラの髪が、ミーシャの泣き顔をそっと隠す。

前日の夜。

母はこうミーシャに言い残して、ミーシャの元を去ったのだ。


「お母さんはね、これから大事なご用でここから離れなければならなくなってしまったの。あなたのことは、メイド長にお願いしておいたから大丈夫。大好きよ、可愛いミーシャ。あなたがいつまでも幸せでいられるように、笑っていられるように、お母さん、頑張って来るから」


朝起きた時には、既に母の姿は無かった。

そして、いつもと変わらぬ日常が始まった。

母の姿が無い、日常が。


「ミーシャ。今日から私があなたの母親代わりです。よろしいですね」


メイド長はそう言うと、いつにも増してミーシャを厳しく指導した。

何が起こったのか、どうして母が居なくなってしまったのかも分からない幼いミーシャは、ただ寂しさを堪えて黙々とメイド長に言われた仕事をこなしていくしか無かった。


「お母さん、もう戻って来てくれないの・・・・?」


小さな声で、ミーシャが呟いた時。


「どうしたの?」


ミーシャと同じくらいの年頃の男の子が、ミーシャの側に寄って来た。


「可愛い顔が台無しだよ?ほら、涙を拭いて」


そう言って、男の子は綺麗に手入れのされたハンカチをミーシャに差し出す。


「え・・・・あ、ありがとう」


戸惑いながらもミーシャがハンカチを受け取ると、すぐ後ろから別の男の子の声が聞こえて来た。


「お兄ちゃん、みっけ!・・・・あれ?キミ、誰?どうして泣いてるの?」


タタタッと駆け寄り、チョコンとミーシャの隣に、1人の男の子が座る。


「お兄ちゃんが泣かせたの?」

「そんなことするわけないだろ。俺も今会ったばかりだ」

「そっか。そうだよね」


うん、と小さく頷き、ミーシャの隣の男の子はミーシャの方へ笑顔を向けた。


「ね、手、出して?」


(この二人は兄弟なのかな。いいいなぁ、兄弟がいて)


などと、ぼんやりと思っていたミーシャは、言われるままに隣の男の子に手を出す。

と。

男の子が持っていたビンから、ミーシャの手の平の上に、色とりどりの小さな星がいくつも降って来た。


「えっ?!」

「食べてみて?」


ニコニコと笑う男の子の可愛らしい笑顔に誘われ、言われるままにミーシャはその小さな星のひとつを口に含んでみる。

とたん。

優しい甘さが口の中に広がり、ミーシャは自分でも気付かない内に笑顔を浮かべていた。


「おいしい」

「でしょ?コンペイトウ、って言うんだって」

「俺も食べたい」

「うん。みんなで食べよう!」


ミーシャを挟むようにして、お兄ちゃんと呼ばれた男の子もベンチに座り、3人揃って仲良く小さな星の形のコンペイトウを食べる。


「おいしいね」

「うん」

「甘いな」

「うん」


やがてコンペイトウを食べ終わったミーシャは、ポツリと言った。


「お母さんがね、遠くへ行っちゃったの」

「そっか」

「じゃあ、僕たちと一緒だね」

「・・・・え?」


思ってもみなかった兄弟の言葉に、ミーシャは目を丸くして、2人の顔を交互に見た。


「さびしく、ないの?」

「さびしいけど・・・・お父様もユウもいるし。お母様は、俺達に言ったんだ。いつも笑っていてほしいって。そのために頑張って来るって。だから」


 『あなたがいつまでも幸せでいられるように、笑っていられるように、お母さん、頑張って来るから』


昨晩の母親の言葉が、ミーシャの頭に響く。


(そっか。お母さんも、頑張ってるんだ。私も、頑張らないと)


「俺、カーク。こいつは、弟のユウ。キミは?」


(カーク・・・・?ユウ・・・・?あれ?ここの王子様と同じ名前・・・・?)


「あ、私は、ミーシャ」

「・・・・ミャー?」


ユウという名の男の子が小首を傾げてミーシャを見る。


「ちがいますっ、ミー」

「ミーシャっ!」


突然聞こえて来た、メイド長の鋭い声。

ミーシャはベンチから飛び降り、声のした方へ強張った顔を向けた。


「ごめんなさいっ、私」


頭を下げかけたミーシャの前に、スッと人影が2つ並ぶ。


「ミャーは俺たちの話相手をしてくれてたんだ」

「そうだよ、ミャーは僕たちの友達なんだ」


(とも、だち・・・・?)


「あら、そうでしたか。それならばよろしいのですが・・・・いえ、良くありませんわね。カーク様もユウ様も、早くお部屋にお戻りくださいませ。マイケル様がお待ちです」

「はい。すぐ戻ります。ユウ、行くぞ」

「うん。じゃあ、ミャー、またね!」


カークはユウの手を引き、城内へと戻りかけたが。


「あ、そうだ!」


カークの手を解くと、ユウはメイド長に駆け寄った。


「ユウ様、どうされたのですか?」

「あのね、メイド長にもあげる!」


そう言って、ユウはメイド長の手の平の上に、瓶からいくつかの小さな星を降らせる。


「食べてみて?すっごくおいしいから!」


メイド長を見上げ、ニッコリと笑うと、ユウは再びカークの元へと駆け戻り、兄と手を繋ぐ。

そしてそのまま、城の中へと入って行った。


(マイケル様って、確かこの国の王様・・・・ってことはやっぱり、あの2人は、この国の王子様っ?!その王子様と私が、友達っ?!)


呆然とするミーシャの前で、メイド長は手の平に乗せられた小さな星を眺めると、その星の1つをつまみあげて口の中へと入れる。


「・・・・おいしい」

「あのっ、メイド長、私・・・・」

「ミーシャ」


穏やかな笑顔を浮かべ、メイド長は言った。


「あなたがどこかへ行ってしまったのではないかと、心配しました」

「えっ」

「私は大事なあなたをお母さまからお預かりしているのです。責任を持って、あなたを育てます。厳しい指導は、あなたが早く一人前のメイドになれるようにと思っての事です。ですが、少し厳しすぎたでしょうか」

「・・・・いえ」

「ごめんなさいね、あなたくらいの年頃の子の指導は初めてなものですから。辛い時は、遠慮なく言っていいのですよ、ミーシャ。私はあなたの母親代わりなのですから」

「・・・・はい」


小さな手をギュッと握りしめ、ミーシャは頷いた。

メイド長の優しさに、乾いたはずの涙が再び零れ落ちそうになる。


「ミーシャ、口を開けて」

「え?」

「いいから」


言われるままに開けたミーシャの口に、小さな星が一粒落ちる。


「おいしわね、これ」


ミーシャを見つめるメイド長の目は、母親と同じくらいに優しくて温かい。


「はい。コントウペイっていう・・・・あれ?コンプウテイ?違う、コン・・・・」

「今度ユウ様にお会いしたら、ちゃんとお礼を言いましょうね。そしてその時にもう一度、名前を教えていただきましょう」

「はい!」

「では、そろそろ戻りますよ」


差し出されたメイド長の手を、ミーシャはしっかりと握りしめる。

そして、共に城の中へと戻って行った。


その翌日。

ミーシャは両王子の指名により、王子付きのメイドとなったのだった。



※※※※※※※※※※


いかがでしたか?

カーク王子・ユウ王子とミーシャの出会いのお話。

今でも仲が良くていらっしゃるのは、この出会いがあるからなのですよ。

どのくらい仲が良いか、ですって?

では、それはまた次回お話しいたしましょうか。

宜しければ、聞きにいらしてくださいな。

それではまた。

ごきげんよう。

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