第14話 カーク王子の悩み 3/3

風の力で水しぶきを空中に舞い上げ、浮かび上がる虹を楽しみ。

土と水の力で様々なオブジェを作り上げて鑑賞し。

木の力で即席のブランコを作って、ゆらりゆらりと揺られながら穏やかな時間を過ごす。

スウィーティーの精霊たちは楽しみながら、思い思いにそれぞれの力を発揮し、スウィーティーとカークを楽しませてくれた。


「ねぇ、カーク。あたし、ちょっとやってみたいことがあるから、いいって言うまで後ろ向いてて?」

「分かった」


言われるままに、カークはスウィーティーに背を向ける。

笑顔を取り戻したスウィーティーは、やはり誰にも負けないくらいに可愛らしいと、カークは思っていた。


(ユウには悪いけど、俺はやっぱりキャロルちゃんよりスーちゃんの方が可愛いと思うんだよなー)


そして、思い出した。

ユウから『スーちゃんに』と言って渡されていた、ロリポップの花束の事を。


(やっべ、忘れる所だった!)


大事なロリポップの花束は、ちゃんと手にした袋の中にある。


「スーちゃん、これ・・・・」


スウィーティーから言われていた事をすっかり忘れ、振り返ったカークの目に映ったのは。


 【カーク 大好き!】


精霊達がそれぞれの力を合わせて空中に浮かび上がらせた文字だった。


「ちょっとカークっ!まだいいって言ってない・・・・あーっ!」


とたん。


空中の文字は脆くも崩れ去り、カークに向かって降り注ぐ。


「ぎゃっ!」


なんとかロリポップの花束だけは死守したものの。


「・・・・ごめんなさい・・・・」


申し訳なさそうなスウィーティーの視線の先のカークは、花や葉や土交じりの水でびしょ濡れ状態だった。



「はぁ・・・・スッキリした~」


騒ぎを聞きつけたメイド長から客間に通されたカークは、シャワーで全身を洗い流し、用意されていたバスローブに身を包んで部屋のソファに腰をおろした。

今回の原因は、カークにある。だから、スウィーティーは悪くない。どうか叱らないでやって欲しい、と。メイド長にそう伝える事も忘れずに。

だいたいが、集中している最中のスウィーティーにうっかり声を掛けてしまった自分が悪いのだ。


(スーちゃん、大丈夫かな。叱られてないかな)


そんな心配をしていると。


「カークっ!」


ノックもせずに、スウィーティーが部屋に飛び込んできた。


「スーちゃんっ!おっ、と・・・・」


そして、無邪気にカークの膝の上に飛び乗り、ニコニコと機嫌のよい笑顔を見せる。


「あのね、あたし今日すごく楽しかった!それからね、ロリポップもありがとう!カーク、大好き!」


ギュッと首に回された細い腕に、カークは思うよりも先に、スウィーティーを抱きしめていた。

生まれた時には既に父親がいなかったスウィーティーは、もしかしたら父親の影を自分に求めているのかもしれない。

そんな風に思いながら。


と。


コホン。


扉の方から軽い咳払いが聞こえて来た。

どうやらスウィーティーは、扉を開けっぱなしにしていたらしい。


「スーちゃん、扉はちゃんと閉めないと・・・・えっ」


振り返ったカークは、そのまま凍り付いた。

そこにいたのは、自らカークの着替えを持ってきた、スウィーティーの母にしてロマンス女王のチェルシー。


「カーク様。いくら許嫁とはいえ、まだそのようなことは早いのでは?」


女王というよりは母の顔で、チェルシーはジト目でカークを見ている。


「えっ?いやっ、ちっ、違いますっ、チェルシー女王!誤解です!」


慌ててそうは言ったものの、バスローブ一枚羽織っただけの男が、女の子を膝の上に乗せて抱きしめているこの状態では、誤解を招いても当然だろう。


(いやっ、ほんとに違うって!俺だってさすがにまだ、スーちゃんとどうにかなろうなんて・・・・)


焦るカークの気持ちなど露知らず。


「お母様、今日あたしカークと一緒に寝たい~!いいでしょ?」


スウィーティーは無邪気にそう、母にお願いなどしている。


(頼むよスーちゃんっ!今それ言うっ?!このままじゃ俺・・・・)


長い沈黙を挟み、冷や汗がカークの首筋を伝い始めた頃。


「カーク様。母として、キスまでは許可しましょう。ただし。頬か額だけです」


言い残して、チェルシーは部屋を出て言った。


(・・・・こ、怖っ!さすが女王・・・・)


恐怖に戦くカークの膝の上では。


「わーいっ!ねぇカーク。一緒に寝るの、初めてだね!」


嬉しそうにはしゃぐスウィーティーが、カークの頬にキスをひとつ。


「ちょっ、スーちゃんっ?!」

「『ほっぺ』と『おでこ』はいいって、お母様言ってたよ?」

「いや、そうなんだけどね・・・・」


歯切れの悪いカークに構うことなく、スウィーティーはカークの膝から飛び降りると、その足でベッドへと向かい、飛び乗った。


「ねー、早く寝ようよー、カーク!」


になっても、そうやって俺を誘ってくれるのかな、スーちゃんは)


子供らしい、無邪気な笑顔を見せるスウィーティーに、カークはもう苦笑を浮かべるしかない。


(・・・・ちくしょうっ、この年の差が恨めしいぜ・・・・)


「着替えるから、スーちゃんは先に寝てて・・・・って、もう寝てるし」


ベッドの上で眠ってしまったスウィーティーを愛おしげに見つめると、カークはその額にそっと口づけた。


※※※※※※※※※※


カーク王子も心中複雑でしょうね。

でも、カーク王子がスウィーティー姫をとても大切に想っていらっしゃる事は、間違いのない事です。

ヨーデル様などは、『ロリコン』などと揶揄う事もあるようですが、カーク王子はそのような目でスウィーティー姫を見ている訳ではございません。

私が思うに、カーク王子はおそらく、スウィーティー姫がある程度ご成長あそばされるまでは、父親代わりをお務めになるおつもりなのではないでしょうか。

そのようなカーク王子を、私は応援せずにはいられないのです。

あなたも宜しければ、カーク王子を応援して差し上げてくださいね?

あら、また私ったら長話を。

ふふふ・・・・最後まで眠らずに聞いてくださって、嬉しいです。

また是非、いらしてくださいね?

それでは、ごきげんよう。

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