第2話 ロマンス王国:二人の姫ぎみとカテキョのお話 1/2

あら?

またいらしたのですか?

もしかして、私に会いに来てくださったのでは・・・・いえいえ、独り言です。

そんな訳、ございませんわね。

ロマンス王国とギャグ王国のお話が、お聞きになりたいのでしょう?

ええ、よろしいですよ。

それでは、今回はロマンス王国の姫ぎみのお話をいたしましょうか。

ロマンス王国には二人の姫ぎみがいらっしゃることは、お話ししましたわね。

そして、それぞれ、ギャグ王国の王子と婚約されていることも。

第一王女のキャロライン姫は、じきに嫁がれると思うのですが・・・・ある点さえクリアできれば。

ある点とは何か、ですって?

それは・・・・おほほほ。

第二王女のスウィーティー姫は・・・・

ま、まぁ。

それでは、そろそろお話をはじめましょうか。


※※※※※※※※※※


「あーっ、もう全然わからないーっ!」


父親譲りの緩やかなウェーブがかかったブロンドの髪の中に指を突っ込み、綺麗に整えられた髪をクシャクシャにしているのは、ロマンス王国第一王女のキャロライン。

深い藍色の美しい瞳には、焦りの色が滲んでいる。

ここは、キャロラインの私室。

目下、専任の家庭教師から出された課題と格闘中だ。


「どうしよう、これじゃまた、カテキョに怒られちゃう・・・・」

「オレが、どうしたって?」

「きゃっ!」


突然背後から響いてきた艶やかなバリトンヴォイスに、キャロラインは座ったまま飛び上がった。


「ノックくらい、してくださいっ!」

「したぞ?返事は無かったけどな?」

「まだ時間じゃ、ないですよねぇっ?!」

「あぁ、ユウのとこ行ったんだが、あいつまたどっか行っててな。ほんと、次期国王の自覚皆無だな、あいつ。フラフラ出歩きやがって・・・・あんなんで大丈夫なのかねぇ?ま、オレの知ったこっちゃねぇけど。そんな訳で予定が狂ったんで、ちょいと早く着いちまったんだ」


悪びれた様子など全く無く、キャロラインの私室にズカズカと入り込み、ドッカリとソファに体を沈めたのは、キャロラインの家庭教師、ヨーデル。

キャロラインをはじめ、第二王女のスウィーティーもギャグ王国の2人の王子も、彼のことは『カテキョ』と呼んでいる。

少し長めのブルーブラックの髪に隠された黒い瞳は、時折殺気を感じるほどに鋭いが、彼の過去を知るものは、ロマンス王国の女王と、何故かギャグ王国の第二王子のユウのみ。

どこで学んだのだか驚くほどの知識を持ち、営業用の甘い笑顔に心を奪われる女性は数知れず。


『私が持って行くから』

『いえ、私がっ!』


キャロラインの部屋の扉越しに、今日もメイド達の争う声が聞こえてくる。

そして。


「ヨーデル様!紅茶をお持ちしました!」

「私はコーヒーを!」

「私はカプチーノを!」

「こちらお茶菓子にございます!」

「宜しければこちらのミルクとお砂糖をお使いくださいませ!」


雪崩のように、先を争って数人のメイドが部屋の中へと入ってきた。


「ああ、いつも悪いね、ありがとさん」


奥二重の目に甘さを滲ませて、ヨーデルはメイド達に営業用の愛想笑いを振り撒く。

メイド達は皆、その目をハート形にしながら、キャロラインの私室を出て行った。


「って!ちょっと、私の飲みものはっ?!」

「オレ、コーヒー飲むから。お前はこの紅茶でも飲め」


ニヤリと笑って、ヨーデルはキャロラインを手招く。


「どうせ、全然進んでないんだろ?課題」

「・・・・今、考えてる途中ですっ!でも、カテキョがどうしても私に休憩に付き合って欲しいって言うなら・・・・」

「あーめんどくせ。口答えだけは一流だなぁ、さすがは王女様ってか?いいから来い」


先程の笑顔用スマイルはどこへやら。

ヨーデルは片眉をつり上げてキャロラインを呼びつける。

そんなヨーデルに、キャロラインはこっそり『毒舌大王』と名付けていた。


(なんでこんな『毒舌大王』とユウくんが仲良しなのかしら?全然理解ができないんですけど)


キャロラインは、現在16歳。

ギャグ王国第二王子のユウと婚約をしている。

国同志、親同志で決められた婚約ではあったが、キャロラインは幼い頃からユウが大好きだった。

この婚約には、内心大喜びしたものだ。

準備が整えば、いつでも嫁げる状況。

ただ、そこにはひとつ、問題が。

ユウはいずれ、ギャグ王国を継ぐことがきまっている。

それはすなわち。

キャロラインが、ギャグ王国の王妃となることを意味している。

王妃になれば、王を支え、共に国を動かしていくことが求められるだろう。

それには、多方面にわたる多くの情報や知識が必要となるのだが。

残念なことに、今のキャロラインにはまだ十分と言えるだけの情報も知識もなく、さらに、あるものが絶望的に足りていなかった。

それ故に。

心配をした母であるロマンス女王が、キャロラインの為に家庭教師として雇ったのが、ヨーデルだった。

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