第4話 【幕間】姉妹の会話


「もしもし奈美~。おはよ」

『おはよう姉さん。どうしたの?」


 セイント・ビッチホテルを後にした私はタクシーの中で奈美に電話をかけた。

 電話をかけた理由は私も彼のことを好きになってしまったと奈美に言うため。

 私がそれを言った時の奈美の反応はなんとなく予想が付く。ただ、奈美の彼に対する愛情は凄まじいからもしかしたら怒るかもしれない。そうならないといいなと思いながら私は昨日あったことのすべてを奈美に包み隠さずに話した。


『誠司君が……合コンに……』

「ええ」

『それで、姉さんと会って、一緒にホテルに……』

「ええ」


『……』

 しばらく沈黙があった。

 もしかして怒ってしまっただろうか。

 しかし、次の一言でそうではないと分かった。


『姉さんも誠司君のことを好きに♪』


 そう言った奈美の声は嬉しそうに跳ねていた。


『そっか~。姉さんも誠司君の魅力に気づいちゃったか~♪ 嬉しいな~』


 電話越しの奈美は今どんな顔をしているだろうか。きっと頬を緩めてにやけているだろう。


『誠司君が合コンに参加してたって聞いた時は気が狂いそうになったけど、姉さんがそこにいてくれてよかった~。姉さんだったらまだ許せるから。もしもこれが姉さんじゃなくて他の女に誠司君をお持ち帰りされてたら、私……』


 奈美はほっと安心したように息を吐いた。


『今日はとことん誠司君にお仕置きしなきゃ♪ 私がいるのに合コンなんかに参加するなんていけない子♡ てかさ、姉さんにしては珍しいね。結局、誠司君のこと食べなかったんでしょ?』

「まぁね。誠司、エッチするの初めてみたいだたし、それなら奈美と一緒にって思ってね」


 私は奈美と一緒に誠司のことを攻めているところを想像してニヤッと笑った。

 想像しただけで子宮がきゅんとなった。


『そういうことね♪』

「そういうこと。好きなものは分かち合うでしょ?」

『だね♪ でもそうなると、今日は我慢しなきゃいけないのか~』


 奈美は少しだけ残念そうな声でそう言った。


「そういえば、誠司のことを誕生日デートに誘うんだったわね」

『うん。まぁ、デートをしてくれるかはまだ分かんないんだけどね』

「それは大丈夫でしょ。奈美からデートに誘われて断る男なんていないって。それに誠司は……」


 たぶん奈美のことが好きだ。

 昨日のあの反応を見てそう思った。


『誠司君は何?』

「いえ、なんでもないわ」

『え~。気になるんだけど~』

「とにかく、今日のデート楽しんでね」

『うん♪』

「抜け駆けは禁止だからね?」

『分かってるよ~たぶん。ちゃんと……我慢する、から』


 最後の方は自信なさげに奈美はそう言った。


「心配だな~」

『大丈夫だもん。私を信じて!』


 電話越しの奈美が頬を膨らませているのが目に浮かんお可笑しくなった。


「ふふ、もちろん信じてるわ。奈美は世界一可愛い私の大事な妹だもの。大好きよ」

『私も姉さんのこと大好きだよ』

「ありがとう。じゃあ、またね。デートの話また聞かせてね。近いうちに奈美の家に遊びに行くから」

『はーい♪ またね~』


 奈美との電話を終えると同時に誠司からLINEが届いた。


『な、なんなんですか、あのメッセージは!? え、僕何もしてないですよね……?』


 どうやら私の残した置手紙を見たようだ。

 その文面からかなり動揺しているのが伝わってくる。

 昨日、私が誠司に「童貞捨ててみる?」と行った時の慌てようを思い出して私は一人笑った。


「ふふ、可愛んだから♡」


 奈美はああ言っていたが、昨日、仮に私が誠司とエッチをしていたら、奈美とはもう二度と私と口を聞いてくれなくなっていただろう。そんな気がした。だから必死に気持ちを抑えて我慢して正解だった。


 本当は襲いたくて仕方がなかったし、たぶん誠司が童貞じゃなかったら襲っていただろう。でも、童貞だと知った瞬間、奈美の顔が頭に浮かんだのだ。だから私は、誠司とエッチをするから、誠司のことをからかうことに変更した。


 好きなことは分かち合う。それは小さな頃から私たちの中のルールだった。

 私も奈美も誠司のことが好き。

 だったら、誠司のことも二人で分かち合うべきだと思った。だから、昨日誠司を襲うのをやめた。


「早く誠司のことを落とさないとね♡ 奈美にあまり我慢させるのは悪いものね」


 というのは建前で、本音は早く誠司と奈美と三人でエッチがしたいだった。

 タクシーが家の前に到着した。

 私は誠司に『おはよう♡ あのメッセージ見たんだね♡ 誕生日おめでとう。よい一日を♡』というLINEを送ると家の中に帰っていった。

 

☆☆☆

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