第17話 見回り隊と出会う

 夕方になって、どうにか泊まれる宿に到着。のんびりと食事をと思って、食堂みたいなところがある1階に降りた。いい匂い。これだけでお腹が空くってもんだよな。


「色々作ったで。ほい」


 どんって出たな。ご飯大盛り。スープの具が大量……というかこれ煮込みじゃね? そんで揚げた何かと野菜の漬物って感じか。ボリューム満点。結構歩き回ったし、これはありがたかった。


 横に貼ってある紙を見る。字はさっぱり読めねえ。絵を見てみよう。木で出来た台を奪い合うみたいな感じだな。男しかいない。何だろう。読めないはずなのに分かってしまった。


「あーあれ。ジンドリガッセンやな」


 宿のおばさんが教えてくれた。てかやっぱりそうだったのかあれ!


「大陸から来とると知らんやろ」


「ええまあ。星天諸島で初めて知りましたし」


 細かいとこなんてミコの島でやっと知ったぐらいだしな。しかも全部覚え切れてねえし。おばさんが俺を励ますように言う。


「頭に入ってないって顔やな。ま。安心し。何となく感じ取ればええんや」


 そんなざっくばらんでいいのかよ。ジンドリガッセンは。


「はあ……」


「まああんたはどっちかというと、動く感じやろな。規則で入れへんのが残念やけど」


 みんなから言われてるよ。動けそうとか。そんな感じの奴を。ただおばさんみたいに残念そうに言う奴は初めて見た。こっちとしちゃ、気楽だけどな。他所から来た奴を受け入れられる度量があるかどうかとか、ルール覚えられるかとか、乗り越えないといけない奴が腐る程あるし。


「こちらとしてはホッとしてますけどね。規則分かりませんから」


「なーに。体を動かせばだいじょーぶや」


 近くにいる額に角を生やして、尻尾もあるおっさんに絡まれた。酒臭い。


「こーいうのはな。頭やなくて、体で! 覚えるねん」


 酒のせいで滑舌が悪くなって聞きづらくなってる。どうにか聞き取れたけどさ。


「そういうもんなんですか?」


「そーや。おばちゃん、おかわり」


 そんでそのまま居続けるのかよ。おっさんが酔っぱらってるせいで、何が目的かさっぱりだ。


「大陸出身やろ? 初めてやろ? わしが代わりに教えたげるわ!」


「いやいやここは俺が」


「いっちばん詳しいのは俺に決まっとるやろが!」


 うわー……面倒な展開になった。のんべえその他諸々のおっさんたちが若造の俺にジンドリガッセンを教えようと喧嘩って。女性陣の目が冷たい。


「はいはい! 何です何です!? この大騒ぎは!」


 若い女性の声。入り口からだ。あれ。熱気が一気に下がってきてる。何でだ。


「あらまー見回り隊やないの。あめちゃんどーぞ」


 宿のおばさんがお出迎え。親し気というか。見回り隊とやらは茶髪を高く結んでる人だな。武器を腰辺りに差している感じか。やんわりと断ってる。


「どうも。あめに関しては……その……こちらとしては仕事で来てますし、ご遠慮させていただきます」


 声だけなら女性だと思った。顔も女性よりだしな。でも体格は男だな。肩ガッシリしてるし。


「おやまあ。静かになっちゃいましたか。ん?」


 俺を見たな。ずんずんと近づいて行ったな!? 顔近い!


「大陸の格好をしておるが……奇妙だな。顔立ちがまるで違う。どういうことだ。まあよい。私は学のない人間だ。この違和感は気のせいであろう」


 うげ。すっげえ鋭い人だ……と思ったら即座に切り替えちゃったよ! 大陸出身じゃねえのが正解なんだけどな!


「ああ。失礼しました。仕事中だというのに」


 良かった。顔を遠ざけてくれた。


「えーっと」


「おっと。申し遅れました。コトの島で警備を行う見回り隊第1班長、オキムラソウタと申します」


「旅人のエリアル・アンバーです」


 何かオキムラさん、ぶつぶつ言い始めた。聞こえねえ。え。諦めた顔になってるんだけど。どういうことだ。


「めんどうなのでえりーで良いでしょうか」


 そう来ちゃったか! 女性っぽく感じるから嫌なんだよそれ!


「苗字のアンバーでいいですよ!」


「なるほど。では……あんばで!」


 いやなるほどじゃねえ。でもまあ……えりーより遥かにマシか。


「隊長! ミチクサ食ってる場合やないで!」


「分かってますよ!」


 同僚っぽい人に呼ばれてた。見回りって言うぐらいだから、ずっとここに留まるわけにもいかねえしな。


「ジンドリガッセンはかなり愉快なものですよ? 退屈しないかと。それではお食事中、失礼いたしました」


 見回り隊は宿から出て行った。あの後、おっさんたちが静かにジンドリガッセンについて教えてくれたのはいいんだけど、いくら何でもビビり過ぎじゃね?

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