第13話 子供たちとお化け屋敷 前編

 ちょっと涼しくなってきてねえか? 季節が変わりそうだ。その前に出発しねえとな。金が高くなるって言うし。つか。宿でゴロゴロと寝っ転がるのもいいもんだな。気持ちいい。この階段上がる音は。メッチャ急いでねえか? あと近づいてきてるような。


「バアン!」


 びっくりした! 襖を勢いよくどころか、ぶっ壊れる感じじゃねえか! 黒髪のたれ目の女性だ。確か……子がいるって言ってた女性だな。


「旅人さん。暇だね! よし!」


 ぱっと見そう思っちゃうよな。ぐるぐると考えてるなんて思わねえよな。


「うちの子達のインソツをやってくれない? 刺身は……大陸だと馴染みないから、

値の張る菓子の類をあげるから!」


 インソツの意味は分からねえけど、様子を見てくれってことだよな。菓子で釣られるのって、子供ぐらいだと思う。


「ねー。はやくキモダメシしたいんだけどー」


 子供の声だな。多分この人の子だ。キモダメシ。遊びの名前か? こっちに近づいてきてるな。


「大体さー。大人がいなくても平気だよ」


 そこまで危険じゃなさそうだな。


「馬鹿なことを言わない。殺人事件が起きたばかりなんだよ」


 物騒な言葉出てきたな。殺人事件か。


「えー。でもミスイで済んだし、犯人捕まったじゃん」


 子供の台詞からだとあれだな。もう終わったっぽい?


「他にもいたらどうすんのさ」


 親からしたらそう見えるよな。でも俺も念のため警戒する必要あると思う。真似する奴普通にいるし。


「そういうことならインソツとやらやりますよ」

「ありがとー。助かるわー」


 お母さんは嬉しそうだけど、子供はマジかって感じだったな。当たり前か。遊ぶだけなのに大人いるかって感じだったし。


「だからいらないって。まあいいや。俺コウスケ。お前、名前は?」

「エリアル」

「どこの名前だよ。初めて聞いた」

「まあ大陸から渡ってきましたからね」


 そんな感じでコウスケって子に連れられて、船着き場まで行った。俺の知る遊び場って感じじゃねえ。どっかに移動する気だ。えーっと。コウスケ含めて遊ぶ子は3人か。


「そいつ誰」

「俺の母さんが押し付けた護衛」


 おい。押し付けたって。いやまあ否定はしねえけど。もうちょっと別の言い方ねえか?


「あの事件解決したじゃんか!」

「俺も言ったよ! でも母さんが!」


 これ暫く続きそう。小さい船に乗ってるおっさんがこっちに来て、扇で子供の頭を叩きやがった。加減は一応してる……よな?


「はいはい。言い争いはそこまで。それとだね。解決したからって気を抜いちゃいかん」

「えー」


 声で納得いってないのが伝わってくる。


「えーじゃない。ああ。あんたが護衛か。頼むよ」

「はい」


 そんで小船で移動。そこまで時間かかってなかったな。本当にご近所にあるって感じ。砂浜で上陸して、あの子達に付いて行こう。殺気とかの類は今のところはねえか。あれ。この看板は。幽霊の類の絵だな。


「この先にオバケ屋敷があるんだぜ」


 初めて聞いた言葉だな。


「オバケ?」

「知らねーの? 此奴らのことだよ」


 ああ。幽霊っぽい絵のことか。


「ああ。それなら分かります」

「そっか。よそのとこから来たもんな。そりゃ知らねえよな」


 察しが良いな。いや考える必要もなかったか。恰好があれだし。基本は一本道か。木々に囲まれた道だから警戒しねえと。怪しいのいた。殺気放ってるし、睨んでるし、光ってる何か持ってるし。小石拾って、指で弾いて飛ばしておこう。牽制しときゃしばらくは大丈夫だろ。


「兄ちゃん、何してんの。早く行こうぜ」

「あとちょっとで着くんだからさ」


 指の先におー……雰囲気出てるな。木で出来たおんぼろ屋敷みたいな感じの。前にいるのは鎧を着た人だ。色々と材料が違う気が。あと。暑くねえのか?


「遊びに来たぜ」


 すげえ。コウスケ、臆せずに話しかけてる。鎧の人、何か話し始めたな。その間は周囲を警戒しておこう。


「ありがとー」


 鎧の人、無言で渡してきたな。ただのガラスの棒にしか見えねえけど。この出っ張りは何だろ。


「それ灯りだよ。中真っ暗だしね」


 魔道具の一種だったか。屋敷の中、本当に真っ暗だな。灯りがあっても、ここまでしか見えねえか。周辺すら見えねえって。いやまあ楽しみ方としては合ってはいると……思う。


「うふふふふ」


 不気味な笑い声がどっから。あと肌寒い。


「赤毛のあなただーれ?」


 女性の声だよな。コウスケ達、何で俺を見て、両手を合わせてるんだ。


「ごしゅーしょーさま」


 悪意しかねえ。明らかに面倒な奴じゃねえか! 何か背中がやたらと冷たい! なでーなでーみてえな感じの。気持ち悪い。


「うふふふ。いつも遊びに来てくれる子、ありがと」

「いや俺ら誘ってねえし。母さんの頼みを引き受けただけだし」


 おい。なんかのしかかってる気がするんだけど。重くはねえんだけど、肩が寒い。若くてもこれはちょっと。つか。コウスケ、普通に会話してねえで、どうにかしてくれ。そっぽ向かれた。面倒だと思って避けやがった!


「あら? 怖い事件は解決したんじゃなくって?」


 意外に知ってた。


「真似する奴が出て来るんじゃないかって母さん言ってた」

「俺の母ちゃんも似たようなこと言ってた」

「うん」


 やっぱ心配になるよな。あの時の感じは気のせいなのかがちょっと気になる。


「そう言えば」

「ん? どうしたんだよ。えりー」


 その呼び方はやめて欲しいけど、言いづらいんだろうな。今はスルーでいっか。


「屋敷に行く時に変な感じしたんですよ。牽制のつもりで小石飛ばしたけど、どこまで効果があるのかは」

「ちょっと幽霊掲示板を出してみるわ。不審人物を発見しないと。ああ。それとここの主、ユウタ様にも伝えておかないと」


 意外にそういうの気にするんだな。肉体持ってねえから気にしないのかと思ってたら。


「意外だろ。夏しか遊べない場所だから、安全にしておきたいってユウタにいが言ってた」

「ユウタにい?」

「そっか。知らないんだっけ。ミコの島だとケッコー有名だよ。ここの主だし」


 へーって。前から何かが来るな。この感じだと……アンシュ様の姉さんから貰った刀で受け止めるしかねえ!


「ほお。我の攻撃を受け止めるとは」


 屋敷の前にいた人と同じような鎧だけど、頭の被り物に飾りがある。相当なやり手だったんだろうな。


「あ。げんじぃじゃん。いたいた。はいこれ」


 殺気がないし、コウスケ達が親し気にしてる辺り、普通に幽霊だな。


「今回出された課題なんだ。ここに書いて」

「これでいいか」

「うん。ありがと」


 入る前のあれ、そういうことだったのか。


「進行はどのぐらいだ」

「げんじぃで1人目だよ。あと2人から貰わないといけないんだよね」

「そうか。時間制限もある。気を付けておけ」


 あるのか。時間制限なんて。


「うん。なんかさ。これからどっかに行くの?」


 格好で分かったっぽいな。


「うむ。我はこれから外に出向く」

「もう掲示板回ってたの?」

「うむ。そして既に我が主がケッカイを貼っておる」


 術師っぽいな。我が主とやら。


「すみません。そのケッカイとやらはどういったものでしょうか」

「ああ。それは我にも分からず。ただ戦うしかないこの頭では理解できん」


 おい。げんじぃ。その発言はどうかと思うぜ。顔は見えねえけど、キリって感じのが伝わるし。


「そっかー。まあ俺達はキモダメシ続けるよ。行こう」


 今の所は大丈夫っぽいけど、警戒は怠らないようにしておこう。

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