第5話 語り部:星降る夜
「え。語り部の爺さんに来いって誘われた? 無視しても問題ないと思うけど」
城に行って帰ってきて、報告したら、カオルさんの旦那に突っ込まれた。苦笑いしちゃってるよ。いつものことなのか?
「色々とお話が聞けそうなので行きますよ」
「そっか。君の場合、遠いとこから来てるから、気を付けて行きなさいよ」
俺の故郷、ヒューロ王国を知ってるわけじゃねえしな。経験則でだけど、めっちゃ聞かれるよな。よし。大陸から来ましただけ言っておこう。コントロールされないように気を付けておこう。
「はい。気を付けて行ってきます」
そんな感じで夕食取って、寝て、朝になって出発。船に乗って、海蛇の島に移動。本当に時間かからなかったな。砂浜にある乗り場で降りて歩く。目の前にあるあれは何だろ。青い鳥。胸のところに花の印がある?
「語り部の爺さんとこの使い魔だね。その鳥に付いて行きな。屋敷に着く」
「あ……はい」
乗せてくれた人がそう言うなら間違いねえか。あの鳥に付いて行こう。うわーこの視線は何だ。地味に痛え。
「あんたこれから語り部のとこに行く気かね」
爺さん婆さんに話しかけられた。あの青い鳥は大人しく待ってるな。
「そうです」
「他の島から来たのかね」
「大陸から渡ってきました」
おい。何だ。この「ああ。お気の毒に。可哀そうに」って感じの目は!
「気を付けなさいよ。夜どころか翌日までぶっ通しになるかもしれないわ……」
「そうならないように気を付けます」
話終わったの見計らって、案内の鳥が遠いとこまで行きやがった。マーリン並みに使い魔が優秀な気がする。語り部の爺さん、どういう人なんだろうな。昨日見たのと長生きってことを考えると、エルフが有力だよな。平均寿命どころか限界まで超えちゃったパターンも否定出来ねえけど。
「あー……疲れた!」
日差しがどんどん強くなって、坂登って、やっと語り部がいるとこに着いた。汗がめっちゃ出てる。やべえ。服が濡れちゃってる。
「よお。来たな。異国の方」
弾いて音を出す奴を背負ってる、頭ツルピカのエルフの爺さんが迎えに来てくれた。濃い緑色の着物とズボンみたいなの着てる。めっちゃ笑ってるのは多分客の俺が来たからだよな?
「あー初めまして。あなたが語り部でしょうか」
「イカニモ」
これ肯定でいいんだよな。顔とかもそんな感じだし。
「中に入り。着替えぐらい用意してやる。おーい。ルオ。男の着物出しとけ」
すげえ立派な屋敷だな。白い建物とオレンジ色の瓦とやらの屋根は周りと同じだけど、広さが全然ちげえ。こんなに広いとは思ってもみなかった。
「お邪魔します」
硝子の引き戸を開けて、靴を脱いで、着物を着る。脱いだものは洗濯してくれるようで、ルオっていう女性の人がさっさと洗って、乾かしてくれてた。ありがたい。
「それじゃおじいちゃん、私仕事に行くから」
「気を付けて行きなさい」
頼まれたことをやったルオさんはどっかに出勤してった。丘の上にあるから、静かな気がする。海から来る風が涼しく感じる。
「今日はまだ涼しい方か。付いて来なさい」
これで涼しい方なんだ。こういうのも慣れるしかねえか。
「ここに座ってくれ」
平たいクッションに座って……とりあえず適当でいいか。爺さんも座ったな。弾く楽器を前に出してる。
「気分を上げた方がええやろ」
明るめだな。短い木べらっぽいのでやってる。何だろ。こういう暑いとこだから、しっくりくる。不思議だ。だいぶ訛ってるから、何を言ってるかはさっぱりだけど、まあ楽しめればいいのか。魔界の音楽祭もそうだったし。
「さあて。本題に入るとしようか」
演奏が終わって、爺さん、楽器を後ろに置いたな。使うわけじゃねえのか。
「星天諸島について、どれぐらい知ってるかね」
「全然知りません」
言葉はある程度喋れるし、船の上でちょっとは話を聞いたりはしていたけど、それでも知らないことの方が多いしな。
「まあ大陸から来たのは確かだしな」
ここまで来た時の格好はシュンガンの若者系だしな。分かる人は分かる感じか。青色の襟を立ててる半袖の上着と細くて黒いズボンみたいなものだし。靴はヒューロのまんまだけど、足だけはしょうがねえ。
「問題はなかろう。さて。語り部がどういった職種か知っておるか」
いきなり聞かれた。語り部ってあれだろ。吟遊詩人と似たようなもんだろ。
「昔からある物語を伝えるんですよね」
「ああ。神話。昔話。まあ色んな話があるわけだが、儂が扱うのは過去にあった出来事だ」
酔っぱらいが言ってたな。長生きしてるだけあって云々。まだ若い時にあったことを俺達みたいに若い奴らに伝えてるってことか。
「よくやっとるお題にするとしよう。それで構わないかね」
「はい。お願いします」
よくやってる奴か。海蛇の島にあった城の話とかか?
「どれぐらい昔だったかな。そう。髪の毛があったし、皺もないし、とにかく若くて
モテる歳だったわい」
グスター共通語で喋ってくれてる。こっちとしてはありがてえ。てか。うわーこれだけ聞くとただの自慢話じゃねえか。
「ここのかつての地名はナーハと呼ばれ、今よりも大きい島だった。長細い島だった。その周辺には小さな島がいくつかあった。儂が生まれる前に王国が滅び、列島本土のココノエと呼ばれる北の国に支配されておったわ」
ひょっとして昨日見てきたあの城が本拠地だったのか? 王国って言ってたし。
「それでも庶民の儂らには関係のない話。農作物を育て、大陸を渡り、物を売り、上の者に年貢を納める。そういう生活をしておった」
支配されたっていう割に、すげえ平和だな。まあ納める相手が変わっただけで、そこまで変化がないってのが正確なのか?
「だが」
あれ。すっげえ不穏な気が。
「とある夜。空から星の石が降って来た。雨のように次々と。天変地異とはこのことだった。地面が揺れ、海が荒れ、石の雨で全てを壊していく。平穏な日常が恐怖の非日常に変わっていったのだ」
何か降って来たって言ってたよな。あの女性案内人。城がダメになった理由ってひょっとすると、語り部が言う石の雨か?
「安全な場所はなかった。どれだけ強かろうと、運が悪ければ死ぬ。だからひたすら祈るしかなかった」
安全な場所ないって結構やべえ奴じゃねえか!
「その光景は7日間続いた。数だけなら短いかもしれぬが、当時の儂にとっちゃ、数年ぐらい……まあ長く感じ取ったわ」
朝夜ずっと危ないってなるとそうなるのか。
「外に出て見ると何もかもなかった。築いてきたものが崩れ去った。かつて栄光の象徴とされていた城すら全壊した」
あ……マジで城が壊れたの、石の雨が原因だったのか。いや石の雨っつーより、隕石が正確なのか? 空から降って来たって言ってたし。
「しばらくは立ち直ることすら出来んかったよ。大事にしてたもんが潰れるし、親しい奴が亡くなったわけだしな」
そうだよな。当たり前だと思ったことが急に失ったりしたら、そう簡単に前向きにはなりにくい。邪神との戦いもそうだった。
「それでも前に行くしかなかった。残されたものをどう活かすかを話し合い、今の形になっておる。こういう出来事は他のところでも起きていたらしくてな。空から降っ
て来たものが原因で、見た目がガラリと変わったとこが多くて、地図を作り直した」
お。おう。地図2つも出してくれた。多分左の方が前の奴だよな。右の方が新しい感じするし、島がたくさんあるしな。
「地形の見た目を取って、名称が星天諸島に変わって、今に至るというわけだ。まあ歴史の語り部とは言え、専門じゃないからな。直接その出来事に遭遇してしまった1人の住人の視点で語っただけにすぎん」
まあ語るってそういうのもあるだろうしな。つーか。ガチで細かく言う人って滅多にいねえと思うし。俺が知ってる範囲でだけど。
「さーて。これで儂の語りは終わりじゃ。聞きたいことあるかね」
あ。ここで星天諸島の言葉に戻ったな。
「いえ。知りたいこと聞けました。ありがとうございました」
「うむ。そろそろ乾くころじゃし、着替えなさい」
本当に乾いてたな。俺の服。
「お話してくれて、ありがとうございました」
「おう。暇なときは来い来い」
長引かなくて良かった! 足元まで見てなかった! 追いかける気配もないし。魔術使われたら無理だけど。
思ったんだけど、語り部の爺さんの話、明らかに神様関わってねえか? 何となくだけど。地形まで変わるってやべえ案件だしな。マーリンが極東の島国から出て、何年かして、今の状態になったっぽいし。色々と調べて、彼奴に伝えられるようにしておこう。興味沸くだろうしな。
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