第2話 賑やかな宿の夕食

 宿の主のカオルさんから呼ばれて、食事するとこに来たわけだけど……明らかに地元民の方が多いよな!? 低いテーブルに料理が置かれてて、床に座って食べる感じか。ここでも干した草を編んだ感じの床なんだな。星天諸島だと当たり前なのかもな。


「旅人! こっち来いよ!」


 鬼のおっさん、酒臭! デロンデロンじゃねえか! 羽織ってるの、全く機能してねえし!


「ほれほれ。お前も飲めよ」


 1口ぐらいしか飲めねえコップ、渡された。おい。勝手に注ぎやがったぞ。飲めるからいいけどさ!


「さあ食おうぜ! 飲もうぜ!」


「ははは!」


 これ食事じゃなくて宴会だな。透明な酒だな。色がない。思ったより酒独特の香りが少ないか。って思ったより強いな!?


「くーっ! たまらんわ!」


「お前の作った酒、やはりええの!」

 

 おっさんたち、こういう強いの、飲み慣れてるな。お腹空いてるし、食べ物でもつまんでおこう。種類が多過ぎて、どれ取ればいいのか迷う! 無難に肉を選ぼう。めっちゃ分厚い奴。ハイフォンシーで見た料理、こっちでも普通にあるもんだな。


「ほい。これも」


 勝手に盛られたんだけど。白くて細い……何だこれ。ぱっと見、野菜か? とりあえず肉から食っておこう。安定の美味さだ。次は勝手に置きやがった野菜の何かだけど。これ玉ねぎに近いな。辛さと香りが。塩で揉んで作った奴だ。


「最近はどうだね! 仕事は」


「出荷出来たし、ひと段落ってとこだな」


「こっちはまだ収穫の時期じゃねえからな」


 向こうにいる人達は農家とかそっちか。宿の前にある畑にあるのも、収穫するってとこか。どんな感じかは正直予想がつかねえけど。麺系でも貰っておこう。


「おーい! 肉、焼いてきたぞ!」


 追加が来たな。ジュージュー言ってる。鉄板の上に肉だな。うわ。自由に取って、すぐ食べれるように、サイコロみたいになってる。箸だと切れねえもんな。って視界の隅っこで、誰かの手が俺の取り皿のとこに。


「食えよ食えよ」


 俺の許可無しで肉を置かないで欲しい。食うけどさ。出来立てだからか。あっつい! 噛むと、肉汁が出てくる。


「川蛇の島で育った牛の肉だ。かなり餌の質に拘ってるという話でよ」


 そんなのもあるのか。ヒューロでも、牛の肉は食べたことはあるけど、貴族向けとは違うとかそんなの聞いたことがあるぐらいだったしな。


「そうなんですか」


「おう。元々は祭りの時ぐらいにしか食べなかったらしいぜ」


「なーに言ってんだ。今も祝い事ぐらいしか食べねえだろ」


「ちげえねえ!」


「ガハハハハ!」


 おっさんたち、もっと酔っぱらってる。こりゃ本当かどうか、怪しくなってきたな。


「みなさん……酔っぱらってますね」


 俺と同じ、客の人だな。眼鏡をかけてる大人しそうな黒髪の青年って感じか? 他の人と違って、羽織ってるし、帯できっちりと固めてる。


「そうですね」


「どこ出身なのです? 着物を着てないということは……大陸の方からでしょうか」


 ここの住民が着てる服って着物って言うのか。いや羽織ってるの方が正しい気がするけどな。簡単に脱げそうだし。この辺りは暑いからそうしてるだけなのかもな。てか。どう答えよう。ヒューロ知ってる人、いねえしな。どこって聞いてくるだろうし。そうなると。


「グスター大陸の西の島国から来ました」


「大陸の西!? はははー……ご冗談を」


 信じられないって顔してるけど、マジなんだよな。


「いえ。本当のことです」


 ご丁寧に上から下まで観察してる。疑ってるってとこか。あ。納得したっぽい。


「なるほど。確かにシュンガンでも見ない恰好ですね。それで何故こちらに」


 そりゃ聞くよな。


「知り合いの魔術師からここの話を聞いて、実際に見たいと思って」


「へー。遠いここまで行ったことのある人、いたんですね」


 だいぶ前だしな。どんぐらいだっけか。その辺りも聞いときゃ良かったな。


「はい。しかし。えーっと。いつ行ったのか、知りません」


「ありゃ。知らないのですか」


「ええ。聞いておけば良かったと思いました」


 すっげえ今更だけど、聞くだけじゃなくて、質問しとけば良かったと思うぜ。


「ありますあります。……聞き忘れるなんて僕も……ですよ」


 ところどころ分からねえけど、同じことをやったことがあるのは分かった。


「でも今回は知っておいた方が良かったのかもしれません。その魔術師さんがいつ来たかというのはとても大事なんです」


 いつ来たかが大事ってどういうことだろ。


「何故ですか」


「僕はそこまで詳しくはないのですが、過去にとてつもない何かが起きたと聞いています」


 とてつもない何か。でもだいぶ前だから変わってるかもって教えてくれただけで、特に大きい出来事なんて言ってたっけ。いや言ってねえな。


「坊主。ひっく。歴史家か。ひっく」


 おっさん、そろそろ酒、やめた方が良いと思うぜ。結構悪化してるし。


「いえ。商売で稼いでるだけの男です」


 さりげなく、俺の隣にいる若い男の人、酒の瓶、下げたな。あとサラッと水を持ってくるように頼んでる。


「そうか。ひっく。歴史を知りたいなら、爺さんのとこに行けや」


「そうだな。彼奴は長生きしとるしな」


 爺さんって誰のことなんだ。ちょっと面白いから教えてあげようって感じするから、質問しとかねえと、会えねえよな。絶対。よし。聞こう。


「どこにいますか」


「どこだっけな」


「うーん」


 うわー答える気配ねえ。酔っぱらってるからだろうな。これ。どうすっかな。ちょうど良かった。いた。答えそうな人。皿を下げに来たとこか。


「カオルさん」


 って俺が話しかける前に、大人しそうな人がやってた。大人しくはなかったな。訂正しておこう。


「おう。なんだ。ああひょっとして、語り部の爺さんの場所か」


 語り部って言ったな。歴史とどう繋がるんだ? 確認しとかねえと。


「歴史と語り部。繋がりがあるのでしょうか」


「おう。長生きしてるからな。彼奴は川蛇の島にいる。細かい部分は私にも分からないぞ。でも迷わないはずだ。使いの魔が案内するからな」


 使いの魔ってことは、語り部の爺さん、魔術師なのか。昔のことを伝えるってことは100年以上生きてそうだな。


「そろそろ解散しとけよ。妻に怒られても知らねえぞ」


 カオルさんの発言で、酔っぱらいのおっさんたち、静かに帰る準備し始めたな!?


「便利だからってここを使うんじゃねえったく」


 えー……そんな理由で、ここで飲んでたのかよ。友達と飲むって言ったって……突っ込むのはやめておくか。疲れるし。


「じゃあな! 旅人さん!」


「また飲もうや!」


 一気に静かになったな。まあいいか。食事の続きをすりゃいいし。


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