第3話.ガラテア

「異世界ってなんだよ、今までそんなの教えてくれなかったじゃないか?」

『これまで、あなたは異世界の存在を認識していませんでした。存在を知らないものを調べる気にはならないでしょう? 今回、目の前のロボットに触れたことにより異世界の技術を知り、知識の一部が解放されたのです』

「つまり、俺が今後も異世界の知識を得れば、あれも作ることができるという事か」

『今は技術的にも知識量的にも無理ですが、やがては可能です』



 俺は『世界図書館』の言葉に不思議と納得していた。このスキルは、この世界だけじゃない、異なる世界の知識すらも網羅しているんだな……だから俺のスキルは『図書館』ではなく、『世界図書館』なのか……ならば俺のやる事は一つだ。


 俺は『世界図書館』との会話を切り上げて、ガラテアとやらと会話をすることにする。俺のスキルを強化することは知ることだからだ。剣のスキルを持つものが剣を振るってスキルを強化するように、鍛冶のスキルを持つ者が武器を作ってスキルを強化するように、俺はその分野の知識を得ることによって強化されるのだ。だったら、せっかく話せるのだ。対話が一番いいだろう。



「ロボット……? おぬしはゴーレムではないのか?」

「ちょっと待ってボーマン……今気づいたけど、まさか、こいつが凶暴なゴーレムってやつじゃないの!?」

「ガラテアさん、あなたはロボットなんだな。俺はグレイスという。ここの新しい領主だ。君の主はソウズィということでいいのかな?」

「グレイス危ないわよ!!」



 俺はあわててガラテアから引き離そうとしてくるヴィグナを手で制止して彼女に近づく。手に入れたばかりの知識によれば、彼女は主の命令を聞くためにある存在のはずだ。だったらその主がいなければどうなるのだろうか? 今は危険はないはずである。



「肯定です。ソウズィは私の主であり、私の父でした。ですが……私が眠りにつき、新たな領主がいるという事は……やはり、父はもういないのですね……」



 ボロボロの建物を見て何かを察したのか、それとも何かを思い出したのか、彼女は辛い表情をして目を伏せた。その仕草は本当に悲しそうで……もしかしたら、彼女にはゴーレムと違い感情があるのかもしれない。

 いや、あるのだろう。彼女の瞳は本当に悲しんでいるようだ。

 


「ああ、そうだ。悲しいことかもしれないが、彼はもう何十年も前に亡くなったよ。それで、俺が代わりにここを治めることになったんだ」

「そうですか……そして、あなた様が眠っていた私を起動してくださったんですね。ならば私はあなたに従いましょう。わが父よりこの地を守れと命じられていますので」



 そういうと、彼女は再び綺麗なお辞儀をした。だけど、俺にはなぜか彼女が悲しみをこらえているように見えてしまった。ソウズィは人間だから実際の娘という事ではないだろうが、二人の間には絆があったのだろう。

 だからというわけではないが気遣った方がいいと思ったのだ。



「目が覚めたら色々と状況が変わってて大変だろ。別に休んでいて大丈夫だぞ」

「いえ、私は大丈夫です。むしろ働くことこそが喜びなのです」



 俺の言葉に彼女は笑顔を浮かべながら答える。ようは辛いことを思い出さないように、動いていたほうがいいって事だろうか? 

 しかし、このスムーズなやりとりに感情表現からして俺の知っているゴーレムとは本当に別物みたいだ。むしろ人間に近いな。てか、ほぼ人間だな。異世界の技術すごすぎない? この力さえ手に入れば俺でもここを開拓できるんじゃないだろうか?



「じゃあ、君が領民一人目だな。よろしく頼む」

「わたしがですか……? 領民なんてとんでもないです。私はロボットですので道具の様に扱ってくだされば大丈夫ですよ」

「何を言っているんだ? ソウズィさんはガラテアさんを娘のように扱っていたんだろう、だったら俺もそうさせてもらうよ。前領主の娘さんだ。丁重に扱わせてもらうさ。それに、俺はロボットっていうのがまだよくわかっていないんだが、自分の父が死んだことを悲しめる存在が俺達と何が違うっていうんだ?」


 

 少なくとも無能だからと言って、命の危機がある場所に送るクソ親父やそれを嗤っていたクソ兄貴たちよりよっぽど人間らしいと思うんだが……

 俺の言葉に彼女はきょとんとしていたが、やがて「ふふふ」とほほ笑んだ。



「俺、変な事いったか……?」

「いえ……わが父と同じ事を言ってくださったので懐かしいものを感じておりました。それでは私はグレイス様をマスターと認めさせていただきます。これからよろしくお願いいたします。以後私の事はガラテアとお呼びください」



 そう言うと彼女は何か嬉しそうに笑った。先ほどとちがい感情がこめられているその笑顔はどこか魅力的で、思わず胸がドキリとしてしまった。



「じゃあさっそく色々と聞きたいことが……」

「グレイス!! 魔物よ!!」



 俺がガラテアに話を聞こうとするとヴィグナの鋭い声が響いた。マジかよ!! せっかく知識を得るチャンスだって言うのに……



「あれは……古火竜(エルダーフレイムドラゴン)だと……」


 

 俺が開かれたままの扉から外を覗くと数メートルの巨体を蛇のように這わせてこちらに向かってくる古火竜が目に入り思わず絶望的な声を漏らしてしまった。

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