第24話 オレたち花の帰宅部

「はぁ……」

 

 ため息をつきつつ、下駄箱へ向かう。結局、今日も昨日と同じように一方的に川瀬に振り回される一日だった。しかも昨日より絡まれたし。量も質も上がるとか強すぎだろう。

 

「……つーか最近一方的にやられすぎじゃね……?」

 

 一方的にやられるのは柄じゃないんだけどなぁ……。

 

「はぁ……」

 

 またもやため息が出る。最近ため息してばかりだな。俺。そんなことを思いつつ靴に履き替える。

 

「あ……谷口君」

「ん?」

 

 隣から声がしたので見ると柴田が横に立っていた。

 

「……柴田か。今から帰宅?」

「うん。谷口君も?」

「ああ。部活とかやってないしな」

「そっか。……じゃあせっかくだし一緒に帰らない?」

「え? ……まあ、いいけど」

 

 そして二人して歩き出す。……正直、柴田とは昨日話したのが初めてだから同じクラスとは言えほぼ初対面みたいなもんなんだけどなぁ……。

 

「改めて昨日はありがとうね。助かったよ」

「ああ、うん。別に何でもないよ、あれくらい。拾った近くに柴田がいただけだし。でも気をつけろよ。生徒手帳なんて個人情報の塊だしな」

「うん、気を付けるよ。にしても意外だな。谷口君って優しいんだね」

「そうか? 別に普通のことを言ったつもりだけど……」

「うん、もっと冷たい人かと思ってた」

「ひでぇ」

 

 確かに見た目が少し冷たそうな人と言われたことは何回かあるけれども。

 

「ふふっ。冗談だよ」

 

 そう言って柴田はクスクスと笑う。……こっちも意外だな。何というか教室の柴田はいつも一人でいるし、無表情で近寄り難い感じがしてたんだが……結構笑うんだな。

 

「そういう柴田こそ意外だけどな」

「え?」

 

 柴田はきょとんとした顔をする。

 

「いや、なんというか……教室での柴田は近寄り難い雰囲気というか気難しいヤツだろうなと思ってたから」

「…………」

 

 柴田は俺の言葉に対して何も言わない。もしかしたら気を悪くしたのだろうか。

 

「ご、ごめん。気を悪くしたなら謝る」

「え? いや違う違う。別に怒ってないよ」

 

 柴田は慌てたように言う。そして少し気まずそうに頬を掻きながら言った。

 

「いや、まぁ……教室での私はそうだよね。話しかけづらい感じするかもね。それに……実際私はあんまり他人と関わりたくないと思ってるし。感じの悪いヤツと思われても仕方ないと思う」

「近寄り難いとは思うけど……感じの悪いヤツなんて不快には思ってないぞ?」

「え?」

「いや、だって人と関わるの苦手とかあるじゃん。そういうのって人とどう接すればいいか分からなかったりして、結局自分から距離置いたりするのはありがちだと思う。ま、単に一人が好きって奴もいるとは思うけどさ……そんなの個人の自由だと思うし」

「谷口君……」

「でもそんな人と関わりたくないならなんで俺に話しかけてきたんだ?」

「それは……昨日助けてくれたし、谷口君はなんか優しいと思ったから」


 なんだそりゃ。別に俺は優しい人間ではないと思うんだけどなぁ。クラスメイトの物をたまたま拾って渡すくらい普通だと思うが。川瀬といい、みんな俺を過大評価し過ぎだ。

 

「別にあれくらい普通だろ」

「ううん。あんな面倒事関わりたくないと思って見なかった振りもできるのに、谷口君はそうはしなかった。それって簡単なようで難しいことだよ」

 

 そうか……? まあ、本人がそう思ってるならわざわざ否定することでもないだろう。

 

「……まあ顔は悪人だけど」

「オイ」

 

 悪人は言いすぎだろ。目付きとか悪いのはわかるけども。

 

「冗談だよ」

 

 柴田はクスリと笑う。本当だろうか……?

 

「…………それにしても家族以外と話すなんて久しぶりだな……他人なのに一緒に話してて気が楽だな」

 

 柴田はポツリと小さな声で言う。おそらく本人はひとりごとのつもりで言ったのだろうが聞こえてしまっている。

 

「ん、じゃあ私はこっちだからまた明日ね谷口君」


 そんなことを思ってる内に曲がり道に。どうやらここで柴田とは別れらしい。

 

「あ、うん。また明日……」

 

 柴田は頷き歩き出す。……結局なんだったのだろうか。まあ、いい。今日限りの出来事だし。

 

「……あ。谷口君」

「……そりゃ互いに帰宅部なんだから下校タイミングも同じか」

 

 翌日の帰り。またもや下駄箱で柴田と鉢合わせた。考えてみればこうなる可能性は高いよな。

 

「……今日も一緒に帰るか?」

「……うん」

 

 この日から俺は柴田と帰るのが日常となった。話してみればこれが意外に楽しいというか心地よい。何とも気楽な友人関係だった。柴田智依は今までにいないタイプの友人だった。

 

「え。智依って学年三位なの? めちゃくちゃ頭いいじゃん」

「……普段から勉強してるだけ。そもそも学年三位って言っても新入生試験の成績だからそこまで参考にならない気がする。あれは受験直後のものだし。……というか陽太君は予習復習してないの? そろそろ中間試験だけど大丈夫?」

 

 俺はサッと目を逸らす。……智依からの視線が痛い。にしても川瀬といい凛ちゃんといい智依……どうして俺の身の回りには成績が良いヤツが多いのだろう。武瑠もああ見えて成績良いし。

 

「……陽太君?」

「い、いや? もちろんしてるって」


 嘘。全く勉強してない。

 

「……嘘だよね」

「うっ……」

 

 バレてる。……でもまあそろそろ試験対策はしなければいけないな。最近、川瀬のことで頭がいっぱいだったが一旦保留だ。……いや、別に川瀬のことをずっと考えてたとかじゃないからな。って誰にツッコんでんだ俺は……。そういや川瀬の授業中の妨害はなくなったし、あいつが学校で自主勉強してるのを見かけるようになった。

 

「……俺もそろそろ勉強始めた方がいいかもな」

「ほら。やっぱりしてなかったんじゃん」

「うっ……」

 

 それはそれとして俺の新たな友人は意外にもというか、見た目通りというか少し優等生っぽい厳しいヤツだった。

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